第14話 実技の授業
五時間目となった。今からは実技の授業である。俺たちのクラスは校庭に出ている。
「この校庭はただの校庭じゃないぞ。しっかり強化魔法や結界魔法が張ってある。俺やリヒトが本気で攻撃したくらいでは、簡単には壊れないのだ」
タニザによると、この校庭には毎朝校長が魔法をかけることになっているらしい。
「うちの校長は元四天王だからな。少なくともうちの校内には、校長と互角に戦える者はいないはずだ」
タニザの解説が続く。どうやら校長はめちゃくちゃ強いようだ。
「はい、では今日の実技の授業を始めますよ」
おっと、前でサンシャ先生が喋り始めたぞ。
「今日は二組に分かれて模擬戦をやります。まずはこれを見てください」
サンシャ先生は二つの鉄球を取り出した。
「この鉄球のある場所を、チームの本陣とします。敵チームの鉄球に触れれば勝ちです。ではチームを分けていきますよ」
なかなか本格的な模擬戦のようだ。俺はこの人数でやるのは初めてだ。シグマ村ではどうしても人数に限りがあったからな。
チームが分かれた。たぶん戦力が均等になるようになっているのだろう。俺とタニザは別チームになった。
「よーし、絶対勝つぞ!」
と意気込んでいるのはドリスだ。ドリスは俺に水球の反射を喰らっていたが、果たしてどれほど強いのか気になるところだ。
「……えーとリヒト、ドリスのことは放っておいていいわよ。こいつは恐ろしく役立たずだからーーせいぜいタニザの腰巾着よ。リヒトも気をつけなさい」
何かドリスを非常に批判しながら俺に話しかけてきた女子がいる。
「えっ、そうなのかいレルカ」
レルカはこのクラスでは秀才という位置付けらしい。どんな質問でも答えられないものはないといわれていて、試験はいつも学年トップらしい。魔法の力がどれくらいなのかについてはよく聞いていないが、並大抵ではないのだろう。
俺がレルカの言を真面目に聞きそうになっていると、横からドリスが慌てて文句を言った。
「リヒト、レルカにだまされるな! 俺は弱くなんかないぞ。レルカが強すぎるだけだからな。このクラスではタニザの次くらいに強いんだ」
そうなのか。タニザは初等学校生最強とか自称していたし、このクラスには優秀な人が多いのかもしれないな。
「すごいじゃないかレルカ」
「そんなに褒めないで」
褒めてみたのに一蹴された。微塵も照れている様子がない。あまりそういうのが好きではないのだろうか。
「ああ、そんなに変な顔をしないでーー私はただ、私とタニザを同列に扱ってほしくないだけよ。私はタニザの足元にも及ばないの。まあタニザが強すぎるともいえるんだけど。とにかく、私に期待しないで。それに、私はそんなに魔力が高いわけじゃない。だましだましやってるだけだから」
レルカはタニザをライバル視しているのだろうか。でもタニザと違って、理知的なように感じる。レルカの戦い方は気になるな。
「でも、タニザの弱点は、あまり考えのない攻撃が多いということね。初見の相手だと、威力で押し込まれてしまうのだけど……いつも私はタニザを研究しているから、勝算はあるわ。なんとかしてみせる」
おお、何か秘蔵の作戦があるのか? 確かにレルカは秀才だという。おそらく必殺の奇策を持っているにちがいない。
「また言ってるよ……リヒト、レルカがあんなように言っても、実際これまで一回もタニザに勝った試しはないからな。あんまり期待しない方がいいぞ」
ドリスが俺に忠告してきた。レルカは「そんなことないわよ!」と怒っているが、勝ったことがないのは事実なのだろう。さっき弱いと言われたことの仕返しだろうか。
「はーい、ではそろそろ始めますよー」
サンシャ先生の声が聞こえる。拡声魔法を使っているのだろう、校庭中に声が響き渡っている。
「いい? 試合が始まったら、何でもいいから攻撃魔法を撃ちながら前に出るのよ。あとは私が順次指示を出すわ。それと、タニザには常に注意してね」
こちらはレルカが総大将のような位置にあるようで、他のメンバーに指示を出している。向こうはタニザが大将だろうか。
「よーい……スタート!」
試合が始まった。
「よし、いくぞ……『火球』」
敵陣に向かって魔法を撃ち込んでいく。主に火球や水球が中心だ。『氷球』や『氷弾』というような氷系の魔法もある。敵に攻撃しながら、避けたり『反射』や『吸収』で受けたりして敵の攻撃を防ぐ。
こちらの攻撃も、なかなか敵にヒットすることはない。みんなある程度の能力はあるのだろう。やはりこのクラスは有能な者しかいないようだ。
と、そのとき。
「『火線』」
敵本陣の中央にいたタニザが、何か変な名前の魔法を使った。
ブオッ!
どうやら火系の魔法のようだ。タニザから出て地面に落ちた火が、地面を伝って伸びていく。ーーこちらに向かってきた! 慌てて反射を使う。
「……ぐっ!」
なかなか威力が高い。受け切るのでーー吸収するので精一杯だ。とても反射はできない。さすがタニザ。他とは強さが桁違いだ。
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