第13話 タニザの個人魔法

「では、次にタニザ君もいってみましょう」


 タニザはサンシャ先生の言う通り、『個人魔法診断機』に手を入れた。


 ポン!


 結果が出たようだ。さあ、タニザはどんな個人魔法かな?


「タニザ・エブラシールさんの個人魔法……『自動魔力回復』


効果……どんなときも自動で魔力が回復する。回復率は1時間に5割である」


「いいぞ! 俺の個人魔法も当たりだ。1時間に5割だから、普通の10倍だな。これで残量を気にせず魔法を使える!」


 タニザは喜んでいる。タニザの個人魔法はかなりすごいぞ。つまり2時間で全回復じゃないか。ほとんど無尽蔵なのと同じだ。


「ではこれで終わりです。私は『個人魔法診断機』を戻してきます」


 サンシャ先生が出ていった。あれ……クラスのみんながこちらを見ているぞ?


「それにしても、あの人界出身の奴、やばいな……」

「あの個人魔法って、かなり強力なものなんじゃ……」


 俺たちの噂かよ。聞こえてるぞ。まあ、席についておこう。


「なんであんなによくできるんだよ。さっきもタニザたちの水球を受け切ったし……」

「そりゃあれだよ。ショーリン家の威光……」

「えっ!? ショーリン家!? まずいな、自己紹介をよく聞いてなかった……セレブじゃないか。道理で個人魔法がキラキラしてるはずだ……」

「違うぞ。個人魔法の能力は遺伝とは関係ない、それは迷信だ……十二歳までにどれだけ魔力を上げたかで決まるんだ……でなければ、タニザが強い個人魔法を出した説明がつかないだろ」

「全くタニザめ、あの平民風情が……」

「タニザを平民とか言うな。あの才能じゃ、絶対将来は貴族になるぜ……」


 なんというか、噂話を聞いているだけで勉強になるな。魔界にも人界の多くの国と同じく、平民と貴族がいるのだろう。俺は貴族、タニザは平民のようだ。でも、平民でも頑張れば貴族になれるのかな?


「はい、お待たせしました。授業を始めますよ!」


 おっと、サンシャ先生が戻ってきた。授業に集中しよう。


⭐︎


「リヒト、俺たちと昼を食べに行かないか?」


 午前の授業が終わった。……といっても、俺は4時間中、最後の2コマしか受けていないのだけれど。俺が学校に着いたとき、学校はすでに始まっていたのだ。


 そして、俺はタニザたち三人から、昼食の誘いを受けている。タニザたちは俺に友好的なようで、休み時間も俺に話しかけてきてくれた。もう『君』はお互い取れて、ファーストネームで呼び合う仲だ。


「ありがとう、タニザにドリスにテット。俺はまだこの学校に慣れていないから、いろいろ教えてな」


 タニザたちと連れ立って教室を出る。さっきの休み時間にタニザがクラスメイトをたくさん紹介してくれたので、俺もだんだんクラスになじんできた。何人かが手を振ってくれたので、振り返しておく。


「さあ、ここが食堂だ」

「おおー! 広いな!」


 食堂は広い。さすが都会という感じだ。広いのだけど、それでもすでに人で埋まりつつある。朝に校舎を外から見たときも広い校舎だと思ったけど、やはり大きな学校のようだ。


「タニザ、いったいこの学校には、何人くらい生徒がいるんだ?」

「ふふ……聞いて驚け。我らが『魔界中央初等学校』には、一学年200人が六学年の、計1200人が学んでいる。初等学校としては最高規模なのだ」


 道理で多いはずだ。生徒だけでシグマ村の何倍もいるじゃないか。


「さらには、『魔界中央初等学校』は、魔界最高峰の初等学校なのだ。入学するだけで、厳しい試験を突破しなければならないんだよ。リヒトは今日、何か試験を受けたのか?」


 そうなのか? 確かに『中央』という名前からして、なんとなくすごい学校なんだろうとは思っていたけれど……俺は何も試験を受けていないぞ?


「いや、試験は受けていないな。今日遅れたのは、魔界への到着が遅れたからだ」


 それにしても、一体なぜ?


「マジかよ……さすが貴族だ」


 ドリスが悔しそうに言った。もしかして、貴族だけは試験なしで入学できるとか?


「……なんか悪かった」

「いやいや、ドリスはそういう意味で言ったんじゃないよ。実は一定数いるんだ、試験なしで入学できる人が……だいたいは、すでに才能ありと認められている場合だね。推薦入学というやつだ。リヒトは人界で何か活躍したことはあった? もしあれば、それが効いているのかもしれない」


 テットが補足してくれる。うーん……人界での活躍といけば……


「そういや、国の初等学校生魔法大会でベスト4に入ったことがあったな」


 もっとも、あれはトキヤとのペアで出たものだから、半分は俺の力ではないけどな。


「ベスト4!? それはかなりの強豪だ……これは絶対に推薦だな。タニザより強いかもしれない。これは将来の魔王と友達になれたかもしれないな。末永くよろしく頼むよ、リヒト」


 な、なんかテットがキラキラした目でこっちを見ているぞ!?


「おいこらテット。いつも『タニザしか魔王になれる人はいない!』って言ってるくせに」


 タニザが不機嫌そうになってしまった。テットはもしかして空気が読めないのか?


「まあまあ、昼からの実技の授業があるだろ。そこで直接対決してみればいい」


 ドリスが間に入ってくれる。


「よーし、リヒト、覚悟してろよ! 俺は魔界の初等学校生では最強なんだからな!」


 タニザってそんなに強いのか!? これは勝てる気がしないぞ。テットもなんでそんなに俺を持ち上げたんだよ。タニザの方が強いのはわかりきっているじゃないか……。

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