第12話 個人魔法検査

「お待たせしました!」


 サンシャ先生が着替えから戻ってきた。


「では今から授業を始めますーーといきたいところですが、今日はあれがある日です」


 あれ? あれとは何だろう。課外授業でもするのだろうか。


「タニザ君とリヒト君は今日で十二歳ですから、個人魔法検査を受けます。準備をするので少し待っていてください」


 サンシャ先生はまた出ていってしまった。個人魔法検査? そんなの聞いたこともないな。


「タニザ君、個人魔法検査とは何だい?」

「個人魔法検査というのは、個人魔法が何かを測る儀式のことだよ。……もしかして、リヒト君は個人魔法のことを知らないの?」


 知らないもなにも、人界にはそんなものなかったぞ。


「もしかして……角が生えることが関係してるのか?」

「そうだな。個人魔法は、角の生えた成体の魔族にのみ使える。もちろん個人魔法だから、一人一人違う。似ている個人魔法はあるけど、全く同じ個人魔法はないんだ。このクラスの中にも、もう個人魔法が使える奴が多いぜ?」


 そうか、誕生日によっては、もう十二歳になっている人もいるんだな。


「テット、やってみてくれるか?」


 テットももう十二歳らしい。


「わかった。じゃあ、対象はタニザとリヒト君でいいね? ちょうど背格好が似ているし」

「うん、それがちょうどいいな。リヒト君もいいよな? すぐに返すからさ」


 えっ、返すって、何をだ?


「いくぞ! 『交装』」


 テットが何か唱えたけど……何も起こらないぞ? もしかして……テットは失敗したのか?


「ははは、リヒト君、下を見てみなよ」


 タニザに言われた通り、下を向いてみる。……何か違和感があるような気がする。何が違うのかはわからないけれど。


「何が起こったんだ……わかりそうでわからない……」

「まあ、最初はそうなるよな。テット、もう一回やってくれる?」

「わかった。『交装』」


 おっ!? 服の色が変わったぞ。そして……


「タニザ君が俺の服を着ている!?」

「違うぞ。元の服に戻ったんだ。これがテットの個人魔法『交装』さ。対象となる二人の着ている服を入れ替えることができるんだ」


 テットは『交装』を二回使ったから、俺の服は往復して俺に戻ってきたというわけか。


「まあ、あまり役に立たない個人魔法だけどね。個人魔法は当たり外れが激しいんだ。リヒト君もあまり期待しない方がいいよ」


 そうは言いながらも、テットはまんざらでもなさそうだ。俺に個人魔法を見せられて嬉しいのだろう。


「いやいや、勉強になったよ、テット君。確かに『交装』は実用的には使い道が少ないかもしれないけれど、見栄えはいいじゃないか。パーティーの余興で手品みたいにやれば、人を喜ばせられるんじゃないかな」


 まあそれだけくらいしか使い道はなさそうだけれど。


 おっと、先生が戻ってきたぞ。


「お待たせしました。では今から個人魔法検査を始めます。リヒト君、タニザ君、前にどうぞ」


 サンシャ先生は教壇の上に球体を置いた。球体は底に台がついていて立つようになっている。おそらくあれで個人魔法を測るのだろう。


「まずはリヒト君からどうぞ」


 謎の球体には、上部に小さな穴が空いている。


「ここに手を入れればよいのですか?」

「そうです」


 手を入れてみる。うん……何か魔力が流れている気がする。計測中なのだろうか。


 すると、謎の球体からポンと音がした。


「おっ、『個人魔法診断機』が個人魔法を診断したようですね。リヒト君、個人魔法診断機から手を引き抜いて、180度回転させてみてください。あなたの個人魔法が出てくるはずです」


 俺が謎に名前の長い診断機から手を引き抜いて回転させると、何やら紙が機械から出てきた。このように書いてある。


「リヒト・ショーリンさんの個人魔法……『耐熱』


効果……すべての炎に耐性を持つようになる。魔法攻撃か自然に起きた炎かにかかわらず、炎に触れても熱いと感じないし、傷つかない。ただし、燃えていない高温のものには効果がない」


 おお! 何か説明が出てきたぞ。どうやら俺の個人魔法は『耐熱』のようだ。


「おー、これはすごいな。しっかり役に立つ個人魔法じゃないか。それ、『火球』」


 なぜかタニザは俺に向かって火球を撃ってきた。なんとなく怖いけれど、試しに何もせずに受けてみる。……見事に何も感じない。これが個人魔法の力か。


「さっき水球を撃ってよかったよ。火球を撃っていれば、たとえ当たっても効果がなかったからな」


 当てられなかったくせに。とはいえ、あれは小手調べのようなものだ。タニザは俺の反射を受け切ったし、平等な条件で勝負すれば、俺とタニザのどちらが強いかはわからないだろうな。


「よかったですねリヒト君。あなたの個人魔法は、私が見てもかなり有用なものですよ。リヒト君は戦闘力も高そうですし、武官職を目指すのもいいかもしれませんね」


 サンシャ先生もお墨付きをくれた。やったぞ、ヤム兄上たちにいい報告ができる。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る