第11話 クラスは戦争

「みんな、喜べ! 転校生だ!」


 俺の担任になっているらしいサンシャ先生が、高いテンションで生徒たちに話しかけながら、俺がこれから暮らす教室に入っていった。


「おはようございます……」


 サンシャ先生はやりすぎだ。俺が教室に一歩足を踏み入れた瞬間、生徒全員が一斉に俺を見た。ああ、視線が痛い。緊張する。


「それじゃあリヒト君、前にどうぞ。とりあえず自己紹介ということで」


 俺が教壇の前に立って今にも喋ろうとすると、先生が「あーそういえば」と何か言い出した。


「リヒト君は珍しく人界出身らしいわよ。なんか興味深いわね」


 え?


 ちょっと待て、今、この先生、俺の最高機密をさらっと喋らなかったか?


 俺もずっと隠していようとは思っていなかったけど、こういうのってあんまり言いすぎると、クラスメイトに反感を持たれたり、いじめられたりするやつじゃないか? 大丈夫かな……


 まあいい。とにかくあいさつをしよう。


「みなさんおはようございます。ただいまご紹介にあずかりました、リヒト・ショーリンです。よろしくお願いしま……ん?」


 何か殺気を感じるーーと思って頭を下げるのをやめ前を向くと、男子三名が、教室の中央最後列と窓側中段と廊下側中段から、それぞれ水球を撃ってこようとしていた。……ほら、やっぱり反感を持たれている!


「くっ……反射! 反射!」


 俺はとっさに反射魔法で応戦する。うまくいけば、水球をはね返し、技を出した者に当たるはずだ。


「反射……ってうおっ!?」


 いや、無理だ! さすがに三つの水球を一気に反射するのは難易度が高すぎる! 最後の水球は、変な方向に反射されたぞ……


「ぶはっ!?」


 サンシャ先生に当たってしまった。


「あっ、すみません、大丈夫ですか?」


 とは言ったものの、サンシャ先生はすっかりびしょ濡れになってしまっている。


「大丈夫ですよ……ちょっと着替えてきます。頑張ってねリヒト君」


 先生は足早に教室を出ていってしまった。


「あー、えーと……」


 どうすればいいんだ! 明らかに俺を敵視している集団の中に残されてしまったぞ。うーん、全部先生のせいだ。後で覚えてろ。しかし、俺はここで弱みを見せるわけにはいかない。


「お前ら、ひどい歓迎の仕方だな!」


 少し煽ってみた。もうこうなったら水球に濡らされようが火球に焼かれようが知らない。クラス全員を敵に回しても、俺は戦うぞ。


「タニザ! こいつやっぱり俺たちを馬鹿にしてるぜ! こらしめてやろう!」


 俺に水球を撃ってきた三人の男子のうちの一人が(しっかり反射した水球が当たっているらしく、顔から服までが濡れている)、中央最後列の濡れていない男子に話しかけた。


 だが、タニザと呼ばれた男子は、クラスのみんなに総攻撃の命令を出さず、なぜか俺の方に歩み寄ってきた。


「リヒト君、さっきはいきなり攻撃してすまなかった。人界出身と聞いて、どれほどの実力なのか試してみたくなっただけだ。……俺はタニザ・エブラシール。よろしくな」


 なんとタニザは、俺に謝罪した上、握手を求めてきている。実力を測るって……魔界では人界より実力本位の傾向が強いって聞いたことがあるけど、これもその一環か?


「おいタニザ! お前は人界出身の奴と仲良くするのか?」


 さっきの濡れた男子が、タニザに文句を言いながらこちらに向かってきた。


「だって、こいつにはちゃんと実力があるじゃないか。人界出身の奴は、魔力の弱い人族の中で育ったから弱いーーという噂は間違いだったということだよ。俺はリヒト君を、クラスの一員として認めるべきだと思う」


 なるほど、人界出身なら弱いと思われやすいのか。でも、タニザに強さを認められたようでよかった。俺はタニザが差し出している手を握り返した。


「そうだなタニザ。俺が悪かった。リヒト君は俺の水球をはね返したからな。……俺はドリスだ。よろしく」


 濡れている男子も俺に握手を求めてきたが、タニザがその前に立ちはだかった。


「ドリス、お前はまずその濡れた服をなんとかしろ。リヒト君まで濡れてしまうぞ。……乾燥!」


 おっ、乾燥魔法だな! タニザの手のあたりから熱い風が出てきたぞ。


「わわっ、タニザ、乾燥魔法を服の上から使うな! 熱いじゃないか!」


 ドリスは慌てて避けた。


「じゃあどうするんだ?」

「着替えて来ればいいだろう! サンシャ先生は着替えに行ったぞ!」


 ドリスは逃げるように教室を出ていった。


「まったく、ドリスは落ち着きがないなあ……あ、俺はテットだ。濡れていないから握手してくれ」


 ドリスの反対側、廊下側中段から水球を撃ってきた(俺がはね返しきれなかったためサンシャ先生に水球が当たった)男子が、タニザの横に並んだ。俺はテットとも握手を交わした。


「あれ? 俺は水球を二つはね返したのに……」


 タニザは濡れていないぞ?


「吸収魔法で受けたんだ。俺をなめてもらっちゃ困るね」


 タニザは少し得意そうだ。吸収魔法は難しいからな。タニザはかなりの実力者なのだろう。とにかく、タニザたちと和解できてよかった。この調子でクラスのみんなと仲良くしたいな。

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