第70話
6ー7 レシピ
フィルさんは、もともとは、王都にある自分の店で腕を振るっていた料理人だった。
それが、店を閉めてここに勤めているのは、サラさんが作った料理を食べたからだった。
正確には、サラさんの持っているわたしのレシピのことを教えられたからだ。
「いいかい?フィル。この世界には、あたしたちの知らないうまいもんがまだまだいっぱいあるんだ!」
そうして、フィルさんは、わたしのレシピと交換ということで格安の給料で働いてくれることになった。
食堂に手伝いに行ったということは、エミリアさんは、フィルさんの手伝いをしているということだろう。
「ふーん」
わたしは、興味なさげに頷いた。
フィルさんならあの人をうまく扱ってくれていることだろう。
王都で貴族や金持ち相手に仕事をしてきただけあって、フィルさんは、人あしらいが天才的にうまいのだ。
ライナス先生は、じっとわたしを見つめていたが訊ねた。
「何か言いたいことがある?トガー」
「別に」
わたしがそう答えるとライナス先生が疑わしげな表情でわたしに向かって口を開きかけてやめた。
がたん。
不意に立ち上がったライザが無言で部屋の隅の茶器セットのおかれたところまでいき、魔道具でお湯をわかしはじまた。
ライザは、ソファの前のテーブルにお弁当の入ったバスケットをどん、と置く。
「昼食にしませんか?ライナス先生」
ライザに問われてライナス先生がわたしから視線をそらせた。
「ありがとう、ライザ」
今日のお弁当は、わたしの作ったベーグルサンドだ。
最近では、サラさんと協力していろいろなパンを焼いたり、新しい素材を調理してみたりしている。
その1つが新鮮な葉野菜とチーズだ。
わたしは、休みには畑で芋を育てていたんだが、その芋が奇妙なことになっていた。
というのも、植えて三日もするとどんどん成長して美味しそうな菜っぱの畑になってしまったのだ。
ええ?
これ、サツマイモ的な芋の畑ですよね?
だが、どうみてもそれは、レタス系の葉野菜だった。
確かにこの種芋をくれた業者の人もこれは芋だといっていたのに?
わたしは、ためしにその菜っぱでサラダを作ってみたのだが、それが、なんというかめっちゃ美味しい!
この世界じゃ、葉野菜を生で食べる習慣がなかった。
サラダは、新しい料理としてみんなに受け入れられた。
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