第67話

 6ー4 よろしくって?


 「これならよろしくって?トガー」

 翌々日に、わたしの前に現れたエミリアさんを見てわたしは、絶句した。

 エミリアさんは、美しい銀色の髪をばっさりと肩までで切り落とし、長い爪を短く切っていた。

 そして、ドレスも普通の町の奥さん風のワンピースに着替えていた。

 「これで私が本気であなたのお役にたちたいと思っていること、理解していただけたかしら?」

 ここまでやるなんて!

 この世界では、貴婦人が髪を切るのは、罪を犯した時か女神の教会に入るときだけだった。

 この人がなぜ、ここまでするのかがわたしにはわからなかった。

 「何が目的なんです?」

 わたしは、治療院への道すがらエミリアさんにズバンと直球できいた。

 この女、何を企んでいるんだ?

 エミリアさんは、わたしに笑いかけた。

 「疑り深いのね、トガー。まあ、私にも下心はあるけどね」

 やっぱりか!

 エミリアさんは、わたしに告げた。

 「強いていうなら、あなたのお目付け役というか、付き添いというか。そんな感じかしらね」

 お目付け役ですと?

 どういうこと?

 納得できないわたしにエミリアさんがにんまりと笑う。

 「独身の女がああいう場所に1人で毎日のように出入りしていると悪い評判がたつのよ。それを兄上がとっても心配しているの」

 マジでかよ?

 なんでご主人様がわたしの評判なんかきにしてるわけですか?

 小首を傾げているわたしを見て、エミリアさんはため息をついた。

 「トガー、あなたは、仕事はできるのかもしれないけど、ちょっと鈍感だといわれない?」

 わたしが鈍感ですと?

 わたしは、ちょっとムカついていた。

 このわたしが、鈍感?

 人間の機微について知り尽くしてはいないけど、わりと理解はしているはずだし!

 何よりも、エミリアさんにそんなこといわれたくないわっ!

 まったく!

 腹立たしい兄妹だぜ!

 まあ、いいか。

 わたしは、心の中でにやっと悪い笑いを浮かべていた。

 そっちがその気なら、こっちも考えがあるというものだ。

 ライナス先生は、治療院の職員の数をだいぶん増やしていたがそれでも、まだまだ手が足りなかった。

 なんでも雑用をしてくれる下働きは大歓迎だ。

 

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