第38話

 3ー9 お出かけです!


 ジェイムズさんは、若い使用人たちを指揮してご主人様の乗った車椅子を両脇から抱えて階段の下へとおろした。

 わたしは、大人しくなったご主人様の車椅子を押して玄関から外へと出た。

 明るい日差しがまぶしい。

 ご主人様が目を細める。

 雨上がりは、緑が美しい。

 優しい風にのって庭先に咲いている花の香が漂ってくる。

 たぶんご主人様にとっては、久しぶりの外出だ。

 「おはようございます、伯爵様」

 今日の小旅行のために頼んで来てもらったロブさんが感極まった様子でご主人様のことを見つめる。

 わたしたちは、ロブさんの荷車へと車椅子を押し上げた。

 周囲を藁の山に囲まれた荷車の上でご主人様がため息をつく。

 「家畜並みの扱いか・・・」

 ご主人様には不評なようだったがロブさんの荷車は、我々の移動にはぴったりだった。

 車高が低くて、しかも家畜の積み降ろしのために荷車の後ろ部分は開いたらスロープが降りるようになっていた。

 わたしたちが荷車に乗り込むのを見守っていたジェイムズさんが深々とお辞儀をする。

 「いってらっしゃいませ、旦那様」

 ごとりと荷車が揺れた。

 荷車は、太陽の光を受けながら走り出した。

 肌を撫でていくそよ風が心地よい。

 「なんだ?この荷車は!」

 ご主人様は、まだぶつぶつ呟いていた。

 「家畜を運ぶような荷車でこの私を運ぶとは!」

 「でも、これが一番、乗り降りに便利がいいから」

 わたしとライザは、藁の上に腰をおろす。

 ご主人様の車椅子には、ロックがついてはいるが荷車が揺れると危険なのでロープで荷車に固定している。

 まあ、万が一車椅子から落ちたとしても周囲は藁の山に囲まれている。

 そんなに大ケガすることもないだろう。

 わたしたちは、それぞれこの旅を楽しんでいた。

 ごとごとと揺られているうちにわたしは、眠くなっていた。

 暖かな日差しに藁のいい香り。

 それにご主人様のわぁわぁ言う声。

 なんか、眠りを誘われる。

 わたしは、いつの間にかうつらうつらと眠ってしまっていた。

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