第37話
3ー8 逆らえない
1週間ふり続いた雨がやっとやんだ。
わたしは、ジェイムズさんに頼んで休暇をもらうと午後から出かけることにした。
もちろん、ライナス先生の治療院に見学に行くためだ。
外は、晴天で心地よい風が吹くまさにお出掛け日和だった。
わたしは、ジェイムズさんにお願いしてご主人様のおよそいきの服を用意してもらうとそれに着替えさせておニューの車椅子へと移乗した。
うん。
少し体重が増えていることもあって、マジで女のわたしにはご主人様の移乗はきつくなってきた。
もう1人ぐらい助手を増やしたいな、とか思っているとご主人様がわたしに訊ねた。
「これは、なんだ?いったい何をするつもりだ?」
「何って」
わたしは、にっこりと無邪気に微笑んだ。
「ちょっとお出掛けですよ、お出かけ」
わたしは、ご主人様の下半身に膝掛けをかけると後ろにまわって車椅子を押した。
ご主人様が慌ててわめいた。
「な、なんだ?これはっ!動いているぞ!」
「そりゃ、そうでしょ。そのためのものですからね」
わたしは、ご主人様のお出かけセットを入れたおしゃれな手提げカゴを抱えたライザを引き連れてご主人様の部屋から出た。
ご主人様は、ビビリだし怖いのかわぁわぁ言っていたけどかまわないし。
ただ、椅子から落ちないようにだけ気を配るが他は知ったことではない。
「イヤだ!」
ご主人様は、わめいた。
「部屋に戻れ!トガー!」
「なんでですか?ご主人様」
わたしが訊ねるとご主人様は、小声で答える。
「こんな姿を誰にも見られたくない」
「こんな姿を、ですか?」
わたしは、廊下をどんどん進んでいきながら話した。
「では、お聞きしますがご主人様は、いつまでこの部屋に閉じこもっているおつもりですか?」
「それは」
ご主人様が口ごもる。
わたしが階段の前まで車椅子を押していくとそこにはジェイムズさんと他に3人の若い男の使用人たちが待っていた。
「ジェイムズ!この女をなんとかしろ!」
ご主人様がジェイムズさんに向かって命じたがジェイムズさんは、穏やかな笑みを浮かべているだけだった。
「ジェイムズ!」
「申し訳ございません、旦那様」
ジェイムズさんは、ぜんぜん悪びれる様子もなくご主人様に告げる。
「我々は、トガー様にいろいろと借りがあるので彼女の言葉には逆らえないのでございます」
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