第35話

 3ー7 もう、猫は拾いません。


 わたしは、隣の自分の部屋へと戻ると大きな本を抱えて待っていたライザにきいた。

 「それ、これから隣の部屋にいる偏屈なおっさんに読んでやってくれるかな?わたしは、あんたがあのおっさんの相手をしてくれている間に夕食の準備をしてくるからさ」

 「えっ?」

 ライザが奇妙な表情を浮かべた。

 「でも、わたしは」

 「あんたは、わたしの助手だし」

 わたしは、じろりとライザを見た。

 「わたしのいうことをきけないの?」

 わたしは、ライザを連れてご主人様の部屋へと戻った。

 椅子をベッドの脇に運ぶと、ライザに座るようにと促す。

 ライザを見てご主人様は、何か問いたそうな顔をしてわたしを見つめた。

 わたしは、ご主人様に告げた。

 「これがわたしの助手のライザです。これからわたしが忙しくてここを留守にするときはこの子がご主人様のお相手をしますから」

 そういうとわたしは、部屋をとっとと出ていこうとしたが、思いなおして足を止める。

 ご主人様もライザもフリーズしているし。

 わたしは、ライザのもとへと引き返すとそっと耳元で囁いた。

 「きちんと助手ができないなら、屋根裏部屋で1人で暮らすしかないけど?」

 「できます!」

 ライザは、わたしに答えると本を広げて読み始めた。

 「これは、昔々のお話です」

 わたしは頷くと、部屋を後にした。

 部屋の外に出て扉を閉めると、耳元でルゥの声が聞こえた。

 「あの子を助手にしたんだね、トガー」

 「なんか文句でもあるわけ?」

 わたしは、ルゥを睨み付ける。

 ルゥは、にんまりと笑いながらうっすらと空中に消えていった。

 「とんでもない。さすが、トガーだと思っていたんだよ」

 ルゥは、チェシャ猫みたいに笑いだけを残していく。

 器用な猫だな!

 「トガー様」

 ジェイムズさんが廊下の陰からぬっと現れたのでわたしは、すんごく驚いていた。

 「ジェ、ジェイムズさん?」

 「トガー様」

 ジェイムズさんがわたしに告げた。

 「勝手に生き物を拾わないでくださいね」

 「はい」

 わたしは、心の中で舌を出していた。

 「もう、猫は拾いません」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る