第34話

 3ー5 本当は


 「ライザ」

 わたしが呼ぶとライザが顔を上げてわたしを見た。

 「わたしは、あんたの母親ではないし、そんなものになるつもりもない。自分のことはこれまで通りに自分でしなくちゃいけない。それでもよければわたしと来るか?」

 わたしがきくとライザが驚いたような丸いビー玉みたいな青い目でわたしを見た。

 ライザは、目にいっぱい涙を貯めて頷く。

 「わたし、いい子になるし、あんたの言うことだってきく。もう、1人にしないで!」

 わたしが手を差し出すとライザは、恐る恐る手を伸ばしてわたしの手を掴んだ。

 わたしは、ライザを自分の部屋へと連れていくとそこで待つようにと告げてから部屋を出て食堂へと向かった。

 そこには、アエラさんとルルがいて何やら忙しげにたち働いていた。

 わたしは、2人に声をかけた。

 「ちょっといいかな?」

 「はい?」

 アエラさんがわたしの方を振り向く。

 わたしは、アエラさんにも屋敷の他の人たちにも言いたいことが山ほどあったけど、それは胸にしまいこむことにした。

 「大きめの桶とお湯をたっぷりと用意して欲しいんだけど。それから、8才ぐらいの子供の服を」

 わたしがそういうのをきくとアエラさんの表情が一瞬凍りつく。

 あれ?

 もしかしてダメなの?

 そうわたしが思ってびびっているとアエラさんは、答えた。

 「何かの動物を拾われましたか?トガー様」

 「ああ」

 わたしは、頷く。

 「すごく大きな猫の子を拾った」

 「そうですか、猫を」

 アエラさんが微かに唇を震わせていた。

 「本当は、動物は拾ったりしてはいけないのですが、トガー様なら仕方がないですね。すぐにお部屋にお持ちします」

 わたしが部屋に戻ってしばらくするとアエラさんとルルがお湯の入ったバケツを2つと大きな桶を持って現れた。

 2人は、部屋にいるライザに気がつかないふりをして桶とバケツを置いて出ていった。

 桶の中を見るときれいにたたまれた子供用のドレスが数着入っていた。

 わたしは、ため息をついた。

 みんな、ほんとは気にしてたんじゃねぇの?

 本当は、この子のこと、助けてやりたかったんじゃね?

 

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