第11話
1ー5 心の準備はよろしいですか?
わたしは、布と何か紐のようなものを用意してもらうことにした。
わたしが別の部屋で服を着替えて戻ってくるとアエラさんがテキパキとベッドメイキングをしてくれていたからわたしは、椅子に座らされていたご主人様に向かって声をかけた。
「これからあなたをベッドに戻しますよ。心の準備はよろしいですか?ご主人様」
「な、なんだと?また、わたしを子供のように抱えて振り回す気か!」
ご主人様がまたわあわあ言い出したのでわたしは、無視して彼を抱えあげるとその痩せた体をえんやっと抱えてベッドへと移動させた。
「貴様!」
相変わらずうるさいご主人様を無視してわたしは、腰を押さえて呻いた。
うう。
やっぱりちょっと無理があったかな?
「無視するな!」
ご主人様の声が悲痛に響いて、わたしは、振り向いた。
「私を無視するな!」
ああ。
彼もまた寂しかったのか。
わたしは、ふん、と笑って彼を覗き込んだ。
「無視なんてできませんよ。それだけうるさく騒がれていたらね!」
むぐっとご主人様が口を閉じたのを見てわたしは、にやりと笑った。
ベッドの上のご主人様の尻の下に清潔な長方形の布を何枚もかさねたものをしいた。
彼を横に向かせて仙骨部を見てわたしは、顔をしかめる。
ひどい褥瘡ができていた。
わたしは、そこをきれいな水で洗い薬を塗って柔らかい布で押さえた。
治るのだろうか?
わたしは、仰向かせた彼の陰部を布で覆うと腰の辺りに紐を回して縛った。
一応、チン(陰部)巻きもしておくことにする。
布だとどれぐらい効果があるものかはわからないけどしないよりはましだしな。
それからわたしは、ご主人様に男物の夜着を着せていった。
「こんな、もの!」
ご主人様は、強がってはいたけれど目元には涙が光っていた。
「どうせ、着たところで意味などない!私には、手も足もないのだからな!」
「うるさいな」
わたしは、ご主人様にぴしゃりと言ってやった。
「それでもあんたは、人間なんだよ!」
「わ、私が、まだ、人間だ、というのか?」
ご主人様の頬を涙が伝うのをわたしは、黙って指先で拭った。
「そうだよ!人間なんだよ!」
わたしは、当たり前のことを言わされて不愉快になっていた。
「だから、人間らしくしてればいいんだよ!」
ご主人様が黙り込んでしまう。
わたしは、言いすぎたかと思った。
ご主人様は、号泣していた。
わたしは、そっと部屋を出ていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます