第10話

 1ー4 オムツってなんですか?


 ちょうどその時、メイドのアエラさんが両手にシーツやら白い布やらを持って部屋へと入ってきた。

 彼女の後ろから入ってきた赤毛のメイドさんがおっかなびっくりという表情で手に持っていたお湯の入った大きな桶を床の上に置くと目を見開いてわたしを見守っていた。

 「ベッドのマットを交換したいんだけど」

 「畏まりました」

 アエラさんは、余計なことをいうこともなく部屋から出ていく。

 赤毛のメイドさんも慌ててその後を追った。

 「あ、あの、失礼いたしますぅ!」

 わたしは、邪魔なベッドマットを床の上に押し退けると黙り込んでしまった旦那様に向き直った。

 「な、何をするつもり、だ?」

 怯えるようにわたしを見つめる旦那様にわたしは、にやりと笑いかけた。

 「さあ、始めましょうか?旦那様」

 わたしは、アエラさんが持ってきてくれた白い布切れを1枚手に取るとそれをお湯にしたして絞った。

 お湯は、熱くて手が赤くなる。

 だが、体を拭くならこれぐらいの熱さでないと。

 わたしは、濡らした布でご主人様の汚れた体を拭き清めていく。

 ご主人様は、全身が汚れていて髪も顔も顔を覆っている長い灰色の髭もベトベトしている。

 わたしは、根気よく布をかえながらご主人様の体を拭いていった。

 ご主人様は、腰の辺りを拭かれると顔をしかめた。

 「痛いんですか?」

 仙骨の辺りには大きな褥瘡ができていた。

 白い布に赤い血がにじむ。

 ご主人様は、黙ったまま顔を背けている。

 こびりついた汚れをきれいに丁寧に擦り落としていくと徐々にご主人様の白い肌が現れてくる。

 汚れて灰色になっていた髪や髭は、青みがかった美しい銀色で、目鼻立ちも整っている。

 さぞかし元気だった頃には、女を泣かせていたことだろう。

 わたしは、自分の体や服が汚れるのもかまわずに彼の体を抱えて全身をきれいにすると替わりのマットを持ってきてくれたアエラさんにわたしとご主人様の着替えを用意してほしいと頼んだ。

 アエラさんは、困った様にわたしを見た。

 「あなたの服はありますけど、伯爵様の服は、その・・・」

 「なんでもいいから持ってきてください。お願いします。それからオムツはありますか?」

 「おむつ?」

 アエラさんが小首を傾げるのでわたしは、オムツの説明をする。

 「寝たきりの人やトイレにいけない人のお下に当てるものなんですが」

 「はぁ・・・」

 ぽかんとしてわたしの顔を見つめているアエラさん。

 もしかしてこの世界にはオムツはないのか?

 

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