第9話
1ー3 お仕事の時間です。
それは、奇妙な肉塊だった。
手足を持たない胴体と頭部のみの存在が裸でベッドの上で汚物にまみれて横たわっていた。
シーツもベッドも濡れていて、いったいいつからこうして放置されていたのかとわたしは眉をしかめた。
「どうした?もう、嫌になったのか?」
その肉塊は、乾いた声でわたしを煽る。
わたしは、頭を振った。
「違います」
だが、違わないのかも。
わたしは、確かに一瞬、逃げ出したいと思ってしまった。
だが、逃げ出すわけにはいかないのだ。
わたしは、はぁっとため息をつくと部屋の外へと続いている扉へと向かった。
「なんだ、やっぱり逃げ出す気か?この臆病者め!」
ご主人様がバカにしたようにわたしを罵る。
「お前が最速で逃げ出した者だな。この役立たずが!」
「少し、黙っててくれるかな」
わたしは、ご主人様にちょっとだけきつい声で告げた。
「すぐに戻って差し上げますから待っててくださいね、ご主人様」
わたしが部屋の外に現れるのを見て、外で待っていたらしいジェイムズさんが失望した様子でため息をついた。
でも、わたしは、めげることなく彼に告げた。
「お湯はありますか?それに替えのシーツと清潔な布をたくさん用意してほしいんですけど」
ジェイムズさんは、驚きの表情を浮かべてわたしを見つめていたが、すぐに頷いて側にいた銀髪のメイドさんに声をかけた。
「アエラ。この方の仰るものを準備して差し上げるように」
「はい。ジェイムズ様」
パッと見わたしと同じくらいの年頃のメガネをかけた長い銀髪のそのメイドさんは返事をすると踵を返した。
わたしは、すぐにまた部屋に戻るとご主人様の横たえているベッドへと近づいていった。
さあ、仕事の時間だ!
「なんだ?戻ってきたのか」
また可愛げのないことをぬかしているご主人様を覗き込むとわたしは、にやりと笑った。
「ちょっと失礼しますよ、ご主人様」
「な、なんだ?何をするつもりだ?」
わたしは、躊躇することなくご主人様の体に触れるとベッドの上に起き上がらせる。
ご主人様は、噛みつくように怒鳴った。
「何をする気だ!この無礼者め!」
「何って」
わたしは、にっこりと微笑んだ。
「汚れたシーツを取り替えたいだけですよ」
ご主人様は、痩せて骨と皮だけのようになっていた。
まあ、それでもけっこう体格のいい男だ。
かなりの重量はある。
だが、わたしは、彼の体をうんせ、と担ぎ上げるとベッドの脇にある椅子へと座らせる。
「な、な、何を!」
ご主人様は、よっぽどびびったのか興奮してワアワアいっていたのでわたしは、彼を無視することにした。
ご主人様の体を椅子に安定させるとわたしは、汚染されたシーツを取り外していった。
何、これ?
わたしは、シーツを剥いで顔をしかめる。
汚染は、マットまで染み込んでいた。
これは、マットから交換しないとだな。
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