第1話





 幼馴染の藍に起こされた後、学校は違えど、一緒の電車に乗る為に駅に向かっていたのだが………どうも、不機嫌に俺の前を歩いていた。



「あのぉ〜藍さん?今日も一段とお美しいですね!あれ?……あ!もしかしてジャンプ変えた?」


「……変えてませんし、これ以上近づいたら捻り潰します」


「ひぇっ!」



 幼馴染の後ろにいた俺に、憎たらしいものを見るかの様な冷ややかな目線を向け、右手を握り拳にし、さらに力を込めて圧力を感じた。


 俺は絶賛、幼馴染のご機嫌とりの最中である。なお……見ての通り失敗中である。



「近づかないでくださいって……言われてもねぇ。通学の駅は同じなんだから仕方ないだろ〜」


「なら、歩いて学校に行ってください」


「なっ、学校まで何キロあると思ってるんだよ……。遅刻確定になるよ」


「あら、私に起こして貰えなかったら電車で行っても徒歩で行っても変わらないと思うのですけど?」


「あはは……マジ幼馴染様バンザーイ!」



 ハハッ、こりゃ何言っても勝てねぇや!


 まぁ、昔から大人ぽくて知的な幼馴染は幼少期の時からことごとく正論という武器を持ち、論理の防具を着て俺を論破してきたなー……。



 うん、懐かしんでたら涙出てきたな笑



 にしても、懐かしい……か。俺とコイツとの思い出は、親との付き合いで初めて出会って、一緒に遊んで、バカな事で喧嘩したり、一緒に勉強したりした………記憶はある。


 だけど、夢で見たあの記憶。幻想や夢の一言で済ませて良いものではないぐらい懐かしさを感じてはいる……痛ってててててて!!!!



「な、ななな、なにをしてらっしゃゅるのですしゅかい!?」


「いくら名前を読んでも返事をしないからです。バカ……」


「す、すみゅませしぇん……」



 どうやら俺の名前を何度も呼んでいたが、俺が上の空だったらしく、俺のほっぺたをつねったそうだ。


 ほっぺたをつねられて痛がっている俺を藍は、どこか心配そうな目で一瞬見ていた事に俺は気づいたが、特に触れなかった。



「ところで、マサル……」


「あいあい?なんでございましょうか。おじょーー」


「お嬢様と言ったら、その頬を切り落とします。良いですか?」


「さ、サー!イエッサー!」



 お嬢様呼ばわりが嫌いな藍は、さっきと同じ冷たい目線を俺に向けてきたが、大きなため息を吐き、俺の隣に移動して一緒に並んで歩き始めた。


 少しの無言の間があったが、数歩歩いたぐらいに藍の方から切り出された。



「マサル、何か嫌な夢でも見た?」


「……そぉーね」

(言えるわけない。夢の中でお前とそっくりな奴が出てきたとか……恥ずかしっ!)


「私には言えない内容だったの?」


「そ、そうすねぇ……」

(で、しかも藍は勇者で俺は魔王……そして、お互い敵対しあってコロコロしてました!なんて、どこぞのライトノベルやないかーい!って)



 夢の内容について、言ってしまおうか、黙っておこうかと一人で悶々としていると、それを見かねた藍が言ってきた。



「今日の朝、私が起こしに行きましたよね。と言うか、ほぼ毎日起こしに行ってますよね」


「え、あ、そうっすね。その件に関してはマジありがたいっす」


「最近……起こす前によくマサルはうなされてる事が多くなっていました」


「ま、マジで?」


「マジです。嘘はつきません」



 俺うなされていたんだな……案外、自分では気づかないもの………というか、俺ってそういえば藍に毎朝起こされてたな。すっごい迷惑かけてんな。しかも、起こしに行ってるターゲットが毎日うなされてるんだろ?ご迷惑おかけしますわ。


 朝が弱いとは言え、幼馴染に毎朝起こされてる事に少しの反省と自分に向けての呆れて苦笑をしていると、藍はそんな俺と比べて、真剣そうに、そして心配そうな顔をしていた。



「マサル。なにか心配事でもあった?悩んでたりしてたら私に絶対に相談して。力になるから」


「あぁ、その時は相談するよ。だから、今は大丈夫だよ」


「本当に大丈夫?」


「ほんとほんと、マジよりのマジで〜す」



 ほーんと、昔っから藍は根っからの心配性だからな。それをダメと言う気はないし、それで俺は助けられてるからな。藍のいいところだよ。

 

 ハハッっと軽く笑うと、それを見た藍はちょっとムッとなって、また俺のほっぺたをつねってきた。



「真面目に人の話を聞かない人は、こうです」


「い、いててて、もうほっぺたをつねって、いたたたたっ!」


「ふんっ、ほら、駅に着きましたよ」


「俺のほっぺたに一体なんの恨みがあって……とほほ」



 なんやかんやありつつも駅に着いた俺達は、学校へと向かって行った。

 





ーーー





 

 俺と藍は駅で同じ電車に乗ってはいるが、同じ学校には通ってはいない。俺は普通の共学の学校で、藍は有名どころの女学院に通っており……まぁ、お嬢様が集まっている学校である!!!(偏見)


 偏差値もそこそこ高く、国内問わず、国外でも有名な大学に行く様な優秀な生徒を輩出してる様な学校だ。



 そして!自慢なんだが!そんな優秀な生徒が日々跋扈している学校で!うちの幼馴染は生徒会に入っており、副会長の座にいると言うのだ!



「に、比べて俺は帰宅部……。帰ることが部活、そして帰ったら即ゲーム」


「……?ごめんなさい。ちょっと集中してて聞こえなかった。それで何言ってたんですか?」


「……いや、独り言なんで大丈夫っす」



 いや、本当に俺とは大違いだぜ!涙


 俺と藍は一駅分違って、俺の方が少し遠く、そこまでは一緒に電車に乗って行っているのだが、15分足らずの時間でも音声学習?わかんないけど、参考書を見ながらイヤホンで何か聴いてる……らしい。


 に対して俺はスマホを横にして、何個か入れてあるソシャゲのログインと、朝遅く起きた為出来なかったスタミナ消費を済ましていた。



「……」

(んぅ〜、新イベは明後日からだしぃ〜。ガチャ素材もそこそこ貯まってあるしぃ〜。手持ちの分で出なかったら、課金でもしよっかね)



 一人は真剣な顔をして隙間時間にも勉強をしており、もう一人は真面目な顔をしてゲームと睨めっこをしていたら、電車内で次の着く駅の名前が放送された。


 藍が降りる駅だった。



「藍さん藍さんや。貴女が降りる駅ですぜ」


「ん……ありがとう」



 隣で集中して勉強している藍さんの肩をトントンと叩いて教えてあげた。15分足らずとは言え、藍の集中力は俺もびっくりする程のものだから教えてあげないと、このまま目的の駅を通り過ぎる事もありえる。


 ま!俺はソシャゲしてるだけなんでこれぐらいの事はしますとも!ね!!!涙



「じゃ、行ってらっしゃい」


「あ、そうだ。放課後に生徒会に寄るから、多分遅くなると思う」


「OK〜。その時はメールしてくれ。適当に本屋にでも行って時間潰してるよ」


「分かった……というか、こら、人と会話してる時は目を見て言う。スマホいじりながーー」


「はいはい、分かりましたから……公共の場でのお叱りは勘弁してくだせぇ……」



 まだ言い足りないご様子だったが、流石に目的地に着いた為、仕方なさそうに立ち上がって出口に向かって行った。



「……はぁ」

(心配性だけど……ここまで来ると、俺のおかんかな?って思っちゃうね。なんて事、本人の前で言ったらレモンみたいに絞られそうだから心の内に秘めとこっと)



 そうして、心配性の権化後ろ姿を扉が閉まるまで見届け、乗っている駅員の人が『発車しまーす』と言う言葉の後に発進し、自分も目的駅に着くまでにスマホでネットニュースでも見ようとした時……。




「よっ!後輩くん!おはようだぜ!」




 幼馴染の藍が座っていた横の空席に、俺と同じ学校の制服の上に黒のパーカーを着ている小柄の女子が座ってきた。



 綺麗な茶髪のショートヘアで顔付き小さくて可愛い!性格も誰にでもフレンドリーで、ボディータッチも多く!どこか母性愛を感じ、庇護欲を駆り立てられるような雰囲気で男女関係なく魅力し!しかし、その反面!学年で上位に入るぐらいの頭脳を持ち、身体能力は……可愛いから良し!頼れるお姉様でもあるのだよ!!!!



 って、うちのバカ友達が言ってました。



 そんな先輩はニッコニコの笑顔で、肘をぐりぐりと当ててきた。



「ういう〜い!マサルボーイ!嫁ちゃんとイチャイチャしちゃってー!見てるこっちが熱々になっちゃったぜ〜〜」


「毎度言ってますけど、嫁じゃないっすよ。由紀先輩」


「そ〜んな事言っちゃって、後輩くんは照れ屋さんだなー。あんなツンツンしちゃってる藍ちゃんも実は君の事好き好きー!だったりしちゃうんじゃないのー?」



 ご、ごほんっ!


 肘をぐりぐりされたり、少し触れれるだけげもやはり俺も男の子。幼馴染抜きにして、女子が近くに来るとドキッとしてしまう。だが!俺は表の顔には出さない!


 なんたって、俺は……!



「ん?もしかして、私にドキドキしてるの?ふふーん、可愛い後輩くんだな〜!えいえいっ!」



 ほっぺたをツンツンと優しく突かれた……。



 お、俺はぁ…ポロポロ泣



 意図的なのか天然なのか分からないがら勘違いしそうになる行動をしている先輩をよそに、

『心頭滅却すれば火もまた涼し……心頭冷却すれば、水もまた凍る……浸透酔狂すれば神もまた紙になる……』と心の中で謎に唱えながら心を落ち着かせた。


 そして、このままのペースだといけない!俺、負けちゃう!色々と危ういわ!と思った俺は、話を切り出した。



「そ、そう言えば由紀先輩。昨日の配信見ましたよ。めっちゃくちゃ面白かったっす」


「お!本当に?」


「先輩が勘違いして敵だと思って撃ってたのが味方で、その後に味方って気づいた時に困惑してキョロキョロしてる間に、音バレて狙撃された時は、腹抱えて笑いましたよ」


「むっ、あれは私が勘違いしたのが悪いけどさ〜!不意打ちの出会い頭で味方も驚いてたもん」



 由紀先輩は、昨今流行っているVtuberなのだ。昼は高校生。夜はゲーム配信者。持ち前の可愛さと天然で虜になるファンは多く、初めて一年経たずで、登録者は無所属ながらも35万人を超える実況者だ。



「しかも、狙撃してきた敵が煽ってきた時は怒ってましたけど、可愛いってみんなコメントで言ってましたよ」


「なんか変な感じで本気で怒っちゃったから、ちょっと荒れてないか心配してけど……良かったぁ」


「あと、この前の配信で個人的に面白かった所やSNSのアンケートでとった面白かったシーンとかのまとめ集、編集しといたんで帰ったら送っときます」


「お!マジか!ありがとう!さっすが私の編集者だね〜。ありがたや〜ありがたや〜」



 そう俺はゲーム実況者の先輩の編集者でもある。一年前にちょっとした事があって、先輩がゲーム実況しようと決めた時に配信の必要な周辺機器とかは俺が見繕い、Vtuberとしてデビューを果たしたのだ。


 そして動画編集など諸々や先輩も先輩で頑張ってはいるが、一人で出来るのも限られている為、俺も手伝いをしている。


 ま、おかげさまで寝不足で、今日幼馴染に怒られた理由も動画編集していたからである。俺は悪くない。うんうん。



「今夜も配信するんすよね?楽しみにしてますよ」


「うん!今夜はホラゲーをやるから、是非見に来てくれぜ〜」


「ホラーゲーすか?珍しいすね。怖いのいけましたっけ?」



 今までやってきたのは、FPSやRPG、カーレースなどets……だが、先輩がホラーゲームをやるイメージが付いてなかった。



「んー、怖いのは正直苦手……だけど、色んなゲームもこの際手に出してみたい!って思ってさ」


「チャレンジする事良い事っすねー」


「んで、SNSでオススメのそんなに怖くないゲーム募集っ!って呟いて、フォロワーさん達が教えてくれた中で、これ面白そーって思ったのが……そうそう、これこれ!」


「ふむ、どれどれ……」




 そう言って先輩は自分のスマホ使って、ホラーゲームのソフトを見せてくれたが、題名が『五人の探偵少女』と言う名前で、表紙もそんなに怖くなく、先輩的には謎解き要素もありおまけ感覚でホラーもあるんじゃないかと言っていた。


 ま、世の中そんな甘くないよね!ハハッ!


 案の定、表紙詐欺と言われるほどのホラーゲーム界隈の中で少し有名なホラーゲームで、最初は五人の少女が謎を解決していくのだが、段々とドロドロの展開になっていき、最後は謎解き関係なくホラーてんこ盛りらしい。


 由紀先輩のファンのフォロワーの人はめっちゃ怖いって分かっててオススメしたんだろうと思い、俺は水を差すような事はせず、良いんじゃないですかっと言ってあげた。



「よしっ!今日はホラーゲームやる!……あ、駅着いたね。行こうぜ!」


「はい。ハハハ……先輩、頑張って下さいね」

(個人的にも先輩の悲鳴が聞きたいんでね!楽しみにしてます!!!)



 先輩……おいたわしや。と思いつつ、俺もなんやかんや先輩の1ファンで面白くなりそうだったので今夜の配信が一段と楽しみになった。

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今世は幼馴染!前世は魔王と勇者!! 海男 @taku12345

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