第2話あぶない冒険者
半年後ーー
ここは冒険者ギルド。
俺は勇者パーティーを追放されたあの日、シオン・ベイルという名を捨てた。
そして黒き邪悪龍の鎧を纏って“ローグ”と名乗っている。
いまじゃしがない冒険者だ。
「なんでこんな世界になっちまったかなぁ」
と、俺はつぶやきながら相棒で真紅の鎧を身に纏った錬金術師の“スタルク”とテーブルで
束の間の平和を退屈しながら次のクエストが舞い込んでくるのを待っている。
「どうした? ローグ。 またハードボイルド気取りか?」
「なーに。そろそろ俺たちのところに依頼が舞い込んでくる気がしてな」
「おいおい。今日は一度も俺たちは掲示板の前に立っていないだろ」
「ああ。だけど俺にはわかる」
そう。カッカッと俺たちのテーブルに近づいてくる靴音が聞こえてきている。
「フッ」
いつもの受付のレディだ。
わざわざ俺たちのところに依頼を持ってくるなんざーー
“バンッ!”
大きな音を立ててレディは紙をテーブルに叩きつけた。
「おっと“リラちゃん“、今日はご機嫌ななめだね」
「ヒュー」と、俺は口笛を吹く。
「ちょっとあんたたち⋯⋯」
からだをプルプルとさせるレディ。
「どうしたんだ?」
「なんなのよ!この請求書は!迷い猫を探すだけなのにどうして街中で魔力をぶっ放す必要があるのよ!」
「おいおい。リラちゃん。だけどそのおかげで猫ちゃんは見つかっただろ」
「そのおかげで! 街はめちゃくちゃ。家の屋根が壊されたとか、店に並べていた果物を踏み潰されて売り物にならなくなったとか。
苦情がギルドに殺到しているのよ!」
俺たちは肩をすくめて“やれやれ”といったポーズをする。
「だから、今回の報酬はなし」
「おいおい待ってくれよ」
「そりゃあないだろ。レディ」
「は? あんたたちに修理代を請求しないだけ感謝しなさいよ! そんなだからいつまで立っても駆け出し冒険者のカッパー級なのよ」
「おいおい今回もアダマンタイト級(最上位)に上げてくれないのかよ!」
「そうだぞ。俺たちの活躍ならとっくにーー」
「なっれるわけないでしょッ! シルバーすら無理よ。カッパーの下があったらとっくにあげたいくらいよ。
なんなら私がつくってあげたいくらいよ! おバカってのをね」
「おバカだって」
「おバカねぇ」
俺たちは顔見合わせるなり、ふたたび肩をすくめて“やれやれ”といったポーズをする。
「そんなに怒ったらかわいさが台無しだぜ」
「いったい誰のせいよ!」
『おいおい、またやってるぞ。アイツら』
他の冒険者たちも俺たちに注目しているぜ。
これだから一流の冒険者ってやつはなにやっても目立つからつらいな。
“カランコロン”
ギルド入口のドアが開くベルが鳴った。
中にいた冒険者たちが一斉に注目する。
今度はどんな命知らずが入ってくるかってな。
だが、予想外の人物に全員に衝撃が走った。
『⁉︎』
それは冒険者(ならず者たち)ではなく、衣服がビリビリに破かれ、体の至るところから血を流した少女が入ってきたからだ。
「村が⋯⋯村が⋯⋯狼の旗を掲げた盗賊に襲われているんです。お強い方!どうか村を救ってください」
そう言って少女はその場に倒れた。
レディが駆け寄ると少女は意識を失っていた。
手には銅貨が一枚握られている。
『おいおい、狼の旗っれ言ったらローン・オルドルじゃねぇか』
『それって勇者クズれがいるっていう⋯⋯』
『そんなヤツら相手に銅貨一枚⋯⋯』
『引き受ける奴いるのかよ』
怖気づいた冒険者たちなんか尻目に俺と相棒は顔を見合わせると、並んで倒れた少女のところへ歩み出す。
「銅貨一枚⋯⋯」
「チンケな盗賊を倒すには十分な額だ」
「「俺たちに任せな」」
つづく
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