異世界で最も危険な冒険者〜勇者パーティーを追放された俺だが魔王の鎧を着て相棒(バディ)と駆け出す冒険譚

ドットオー

第1話勇者に吠えろ

俺はシオン・ベイル。


王国きっての勇者パーティーに所属している。

パーティーでの俺の役割はスキルを活かしてのパーティーメンバーのサポートだ。


戦闘には不向きだが俺の眼は潜んでいる敵の探知から攻撃の予測。

そしてメンバーの体力状態が把握できる。

だから戦闘中、メンバーが苦戦しないようにアイテムを的確に与えて戦闘をサポートしている。


最近は俺のことを軍師なんて呼んでくれるヒトもいる。


「回復薬の補充はこれで充分だな。あとは⋯⋯そうだな。リリのヤツはあと先考えず攻撃を連続で繰り出すから

すぐ魔力が消費しちまうし。魔力回復のアイテムもいちおう入れとくか⋯⋯それと」


メンバーが酒場で打ち上げをしている間に宿屋の部屋でひとりこもって次のダンジョン攻略に向けての準備に向けて余念がない。


俺は戦闘中の仲間のクセを把握していて頭の中で何度もシュミレーションを繰り返しながら

リュックに荷物を詰め込む。


「そうだ。どうせまたガルマは力任せに斧を振り回すから、以前手に入れたスピード向上の腕輪を

装備させるか。 スピードが上がればあいつの攻撃も少しは当たるだろう」


俺はアイテムいっさいの管理も任されている。


すると部屋の外から勇者ハルティスの声がする。


『シオン、シオンはいるかッ!』


慌ただしく階段を駆け上がる音。


そして部屋の扉が勢いよく蹴破られーー



『シオン・ベイル! このパーティーからお前を追放する!』


拳が頬にめり込むのと同時に俺はたったいま、パーティーのリーダーである勇者ハルティスから“追放”を宣言された。


「ッー」


だからっていきなり殴ることはないじゃないか。

たく、頬が腫れ上がっていやがる。

他のパーティーメンバーも地べたに倒れた俺をニヤついた顔で見下ろしている。


“斧使いの力自慢ガルマ”


腕を前に組んで筋肉をピクピクさせながら言い放つ。


「これも仕方ないことだぜ。シオン」


「は?」


「シオン、聖女様からいただいた指輪どうした?」


「は? ハルティスが装備したままだろ」


「とぼけるな!」


「⁉︎」


また殴りやがった。


「貴様が失くしたんだろ!」


「そっちこそ!俺はちゃんと管理していた!」


「シラをきるつもりか! デートするときにつけていかなかったら聖女様が気を悪くするだろうが」


胸ぐらを掴むなよ。苦しい⋯⋯


戦っているときのハルティスはかっこよくてめちゃくちゃ強い。

そんなハルティスは憧れの存在だった。


しかし、女癖が非常に悪い。


訪れる街、訪れる街で知り合った女を口説いては遊んでいた。


先日、国王陛下の勧めで公爵令嬢と婚約したばかりじゃないか。


それで聖女様とデートって⋯⋯


「いただいた指輪も女と同じように粗末に扱っているから失くすんだぜ。それより勇者としての自覚をーー」


「勝手にパーティーの軍師を気取りやがって。お前はただの“荷物持ち”だろ!」


“小生意気なケモミミ弓使い少女リリ”がつづく。


「まったくだよ。戦いもしないくせに戦闘中リリに指図までしちゃってさ。本当マジでムカつく。

そのクセ、リリたちと一緒に国王様からドラゴンを倒した褒美までもらうなんてなんか違くない?」


「空を飛んで口から炎を吐くドラゴンを命かけて倒したのはすべて俺たちだもんな。お前はてーと⋯⋯

うーん。なにかやってたか?」


1ヶ月前、災害級の大型ドラゴンが王都に出現し瞬く間に王都を火の海にした。

それはまるで空を飛ぶ城だった。

そんなドラゴンに果敢に挑んだハルティス率いる勇者パーティーはみごとにその大型ドラゴンを倒した。

ピンチの連続だったけど俺の策略が見事に的中した。


「あのとき俺が!」


「ドラゴンの弱点を見つけてくれていたわよね」


”魔導師の女ケレン“! 


彼女が不人気職だった探索系スキルの俺をこの勇者パーティーに入れてくれたヒト。


姉さん、頼む俺をフォローしてくれ!


「シオンも私たちの役に立とうと必死になっていたのはお姉さん見ていてたけど⋯⋯」


“姉さん!”


「”それとこれとは話は別“ 後方でうろちょろしていただけのヤツが国王に謁見するだけでもおこがましいのに

褒美までもらう? 同じパーティーメンバーという理由だけで? ふざけんじゃないよ!」


「⁉︎」


「みんなの気持ちはそういうことだシオン。こうなったのもお前が悪いんだぜ」


「そうよ。探索系なんてダンジョン攻略での使い捨ての駒。扱いなんて使い魔と変わらないわ。だけどあなたは生き残ったてしまった。

このパーティーが強すぎるがゆえに。ただそれが勘違いのはじまりだったのね」


「お前はあろうことか俺たちと対等だと思い込みはじめた」


「他のパーティーの前で勝手に軍師と名乗ってたらしいな。ただの荷物持ちが」


「待てよ! 王宮から俺が正式に軍師として認められただろ!」


「それがうぬぼれだというんだ」


「ぐっ!」


こいつまた殴りやがった。


「まったくだよ。偉そうにあっちからも攻撃がくるとかこっちからもとか戦闘中、リリのうしろでやかましいだけのやつが

軍師だなんてありえない。私だったら恥ずかしくて死ぬわ」


「まだ分かんねぇのか?」


「なにがだ?」


「ただの荷物持ちがちょっと煽てられただけで浮かれている姿を見ていると、こっちが恥ずかしいんだよ。

それで周りから笑われるのは俺たちなんだ」


「さっきからなんだ⁉︎ 俺は浮かれていない! いまもお前たちのために俺は」


「あらら服まで新しくちゃって」


「国王様に会えると思って張り切っちゃってるじゃん!」


筋肉をピクピクさせるガルマ。


「思い上がりも甚だしいな。ハハハッ」


「だけどこのまま追放するのはかわいそうね。そうだわ! せんべつとしてあの鎧をあげましょう」


「ああ、軍師様いちおしの錆だらけの鎧か。装備するように勧められたときはさすがの俺も乾いた笑いが出たな」


「違う! あの鎧にはレアスキルが! 高レベルの勇者が装備してくれたらきっと!」


「もううんざりなんだ。さっさとガラクタを抱えて出てきな」


「待ってくれ!⁉︎」


俺はこのときハルティスの首あたりにキラッと光るものを見つけた。

あれはたしかに失くしたと言っていた指輪だ。


「ガルマ。こいつに体でわからせてやれ」


「おうよ」


ガルマが拳をポキポキ鳴らしながら近づいてくる。


「うっ!」


いきなり腹パンかよ。


宿屋に鈍い音が何度も響くと俺は錆びついた鎧と一緒に外に放り出された。


「うぐぐ⋯⋯」


いてぇ⋯⋯あざだらけじゃねぇか。

力馬鹿が⋯⋯タコ殴りにしやがって⋯⋯

口答えできないようにアゴまでいっている。

指輪失くしたなんてウソつきやがって、

そんな口実つくってまで俺を追い出したかったのかよ。

素直に言ってくれれば出ていったのに。


はは⋯⋯目から涙が出ていやがる。


5人だと褒美の取り分が減るからってここまでするか?


痛くて起き上がれもしない⋯⋯


悔しいなぁ⋯⋯


正直、国王様ってヒト見てみたかったなぁ。


『おいおい。ひでぇな』


誰だ?


「⁉︎ この鎧、俺が探していたレアアイテムじゃないか」


なんだこの鎧野郎は?


頭の先まで覆われていて顔が見えねぇ。


するとそいつは俺の傍らに転がっている鎧に手を翳した瞬間、魔法陣が光って錆びついていた鎧が

真新しい輝きを取り戻して蘇った。


「喜べこいつは邪悪龍の鎧だ。俺の身につけてる鎧と対になる魔王のレアスキルアイテムだ」


これが俺と相棒(バディ)と運命の出会いだった。


つづく

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