第3話踊る大冒険者
「うじゃうじゃといやがるな」
「あっちにもこっちにも。ざっと20人ってところだな。シオン」
「ローグだ」
俺と相棒は離れた高台からスコープスキルを使って村の様子を観察した。
ひとことでいえば“胸糞悪い“
村の男は老人から青年まで見境なく殺されている。
女の方はっていうと、盗賊たちの慰みものだ。
男たちがひとりの若い女に寄ってたかって⋯⋯
縛り上げられて連行されていく子供たちはこのあと人買いに売られ、奴隷にされる。
女の方もさんざん遊んばれたあとは売り飛ばされるに違いない。
「さあてどうするローグ。作戦は?」
「もちろん正面から突っ込む」
「(口笛)ヒュー、あんな奴らには小細工は必要ないってか」
「そういうことだ」
「いくぞスタルク」
「おうよ。ローグ」
俺たちの武器は錬金術師スタルクが作った魔道ライフルと魔道拳銃。
エルフの放つ弓矢より早く、魔道士が放った火炎魔法よりも威力が強い。
構えたライフルの銃口に魔法陣を展開させて撃つ。
“バンッ”
破裂するような大きな音を立てて魔力を練り込んだ弾が飛び出す。
それとほぼ同時ぐらいの感覚で狙った的が倒れる。
この武器と俺の探索スキルの相性がいい。
狙った複数の標的を同時にとらえると鎧のマスクのゴーグルにマークで示される。
そして引き金を引くと標的はもれなく血を撒き散らしながら地べたにおねんねだ。
スタルクはこのスキルをレーダーだと言っていた。
俺には銃の“才能がある”だそうだ。
フッ、パーティーメンバーたちから聞きたかった言葉だな。
草木を掻き分けて、村の中に飛び込んでいったらお次は魔道拳銃。
近距離で撃つならこいつがいちばんだ。
盗賊が物陰から姿を現した瞬間に撃つ。
“バンッ!”
「うわッ!」
現した瞬間に撃つ。
“バンッ!”
「うわッ!」
剣や槍の時代は終わったな。
“バンッ!”
「ぐわッ!」
「飛び道具を持った相手でもなりふりかまわず短剣で襲いかかってくるなんて
こいつらバカなのか?」
「これはこいつらなりのアイデンティティってやつだと思うぞ。ローグ」
「スタルク。相変わらず訳の分からない言葉を使うな」
スタルクは“ニホン”という異世界からやってきて向こうでは“ジエイタイ”という騎士団に所属していたそうだ。
この魔道ライフルも魔道拳銃もあっちの世界で使っていた武器を再現したものらしい。
「死ねぇーッ!」
薮の中から男が飛び出してきた。
剣先をこっちに向けて単身突っ込んでくるなんて。
度胸があるな。
いや、命知らずか。
「だったらこっちも応えてやるか」
俺は空中に発現させた魔法陣の中から“魔刀”を取り出す。
珍しい形をした剣だが、これもスタルクのいた世界の”ニホントウ“という剣だ。
金や魔鉱石といった装飾もなくシンプルな剣だがこれがまた良くきれる。
ハルティスの聖剣よりもはるかに。
ほら、かるく振っただけで男の首が地面に転がる。
そしてなにより”美しい“
こんなにも魅了される剣ははじめてだ。
『水の精霊よ』
フードを目深にかぶった青年がステッキを手に飛び出してきた。
盗賊の中に魔術士がいたのか。
『我の願い叶えしその力を⋯⋯』
唱えている詠唱の術式からして強力な魔法だ。だが⋯⋯
「遅い!」
”バンッ!”
『ときは ⁉︎ ぐわッ!』
長ったらしく唱えている間に頭を撃ち抜かれておしまいなんだよ。
「スタルク。これで全員か?」
「いいや。馬小屋の中だ」
「探索スキル発動」
こんなとき俺のスキルが役に立つ。
「裸で大柄の男1人と細身の男2人、そして女が⋯⋯クッひとりだ」
「お楽しみだったか」
「下衆が⋯⋯」
「俺からいくぜローグ」
「頼むぜスタルク」
スタルクは馬小屋の扉を蹴破る。
そして魔道拳銃を構えながら慎重に中へと入っていくーー
扉の反対側に隠れていた大柄の音がスタルクの背後から棍棒を振り下ろす。
“バンッ”
『ぎゃああッ!』
「どうだ相棒。一発だ」
「さすがローグ。相手の汚いマグナムを撃ち抜くなんて、股が寒くなることよくできるな」
「いてぇ!いてぇ!」
「「兄貴ッ!」」
“バンッ” バンッ“
「相手を見ずに2人を撃つなんてやるな。スタルク」
「最大5人までなら見ずに一発だぜ」
「はいはい」
「いてぇ!いてぇ!」
大柄の男はまだのたうち回っていやがる。
どうやらこいつが盗賊の頭目か。勇者クズれって噂の。
本当、勇者ってのは碌なやつがいない。
「だけどあんたは業が深すぎたな。そのまま壮絶な痛みもがきながらゆっくりと死ぬといいさ」
「ぐあああッ!」
「お嬢さん大丈夫か?」
スタルクが声をかけても反応がない。
顔はひどく腫れて、全身あざだらけで衣服も引きちぎられている。
残念だが⋯⋯
数時間後ーー
盗賊討伐完了の知らせを受けたギルド職員たちが村に駆けつけてきた。
そしてレディに連れられてやってきたあの少女も⋯⋯
「姉さん! 姉さん!」
必死に呼びかけてもそのヒトはもう返事を返さない。
少女の名はシルフィー。
あの大男に襲われたそうになったところを実の姉が庇って逃してくれたそうだ。
そしてお姉さんはあの男たちに弄ばれた挙句⋯⋯なんということだ。
シルフィーは冒険者を呼ぼうと必死に森の中を駆け回り、そして転がって
ボロボロになりながらようやく辿り着いたというのに。
「俺たちがもっとはやく来ていれば⋯⋯」
「悔やむなよ。ローグ」
「わかってるぜ。相棒」
「泣いているのか?」
「は? そんなはずはない」
「なまゆでだな。まだまだ」
***
とある公爵家の屋敷
「ローン・オルドルが壊滅した?」
金髪縦ロールの少女が執事の報告に怪訝そうな表情をする。
「あらら、お父様のことを悪くいった男爵への見せしめのつもりでしたけど残念。頭目は勇者だったというので期待していましたけどたいしたことありませんでしたわね。それにせっかく差し上げたお気に入りの魔術士も殺されちゃったようですし。冒険者も侮れませんわね。ですが私の婚約者ハルティス様の敵ではありませんわ」
「キルリス様。左様にございます」
「オーホッホッ。次は聖女よ」
つづく
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