第五章 土蜘蛛と計略と ー中編ー
離れたビルの上からカズが
エガはカズが助けに行く間もなく討伐されてしまった。
カズは気付かれない
四人とも化物だ。
一人ずつ襲うにしても数人程度では間違いなく返り討ちに遭う。
土蜘蛛達が集まっていた。
カズの報告を受けたメナが招集を掛けたのだ。
サチに協力している者達と様子見組、
「エガは
メナが訊ねた。
「
「
「どうせ長生きしたとこで数十年だしな」
数の言葉を聞いた土蜘蛛達が言った。
メナはサチが黙っているのに気付いた。
「サチ?」
メナに声を掛けられたサチが顔を上げた。
「エガの考え、
サチが言った。
「え?」
「
「
「核が砕かれれば
土蜘蛛達が顔を見合わせた。
「エガだけじゃない。他の
「じゃあ……」
「
だから彼女が殺された時、季武は激怒して
「
「やはり今まで通り仲間集めをするしかない
「
「別の策も考えておいた方が
土蜘蛛達は思案顔で散っていった。
朝、季武と共に登校すると教室に五馬が
「六花ちゃん、
五馬はそう言ってスマホを手渡した。
「ありがとう」
六花は礼を言って受け取った。
「昨日の事、怒ってるよね」
「え?」
「わたし、怖くて一人で逃げちゃって……」
「私が逃げてって言ったんだよ。それに季武君た……季武君が助けてくれたし」
五馬は綱達の事は見ていないかもしれないと思って急いで言い直した。
「良かった。嫌われちゃったんじゃないかって心配してたんだ」
「そんな訳ないよ。私だって逃げてたんだよ」
「そう言ってくれて安心した」
五馬がホッとした表情を浮かべた時、予鈴が鳴った。
「
五馬は手を振って教室に戻っていった。
昼休み、季武と六花は
「『
季武が聞き返した。
「ううん、季武君の話」
「
「ごめん、これも何回も聞いてるよね」
「構わない。同じ話を何度しても聞き
「私、聞き飽きたなんて言った事あるの?」
「
「一番短い綱さんでも千五百年以上なのに同じ人に同じ話をする事あるの?」
「お前は見鬼で昔話が好きだから俺達の事、
どうやら四天王がやけに好意的なのは、人間ではない事を隠す必要が無いからと言うのも有る
見鬼で四天王の話を信じているなら、うっかり口を滑らせるかもしれないと気を付ける必要もないし何度同じ話をされても嫌な顔をしないかららしい。
六花が廊下を歩いていると五馬が声を掛けてきた。
「ね、六花ちゃん、季武君って友達
「うん」
四天王は仲間だが、仲間と友達は同じだろうと考えて頷いた。
友達が
「会った事、有る?」
「うん」
「
「うん! 季武君の友達って
あの頼光四天王だもん!
五馬ちゃんも知ったら絶対喜ぶだろうなぁ。
「
五馬が身を乗り出した。
「じゃあ、季武君に頼んでみる」
「有難う! お願いね」
五馬はそう言うと自分の教室に帰っていった。
放課後、六花と季武は一緒に歩いていた。
「友達? 貞光達の事か?」
季武が聞き返した。
「うん、五馬ちゃんが季武君の友達紹介して欲しいって。ダメかな」
「分かった。聞いておく」
六花は季武の言葉にホッとした。
翌朝の登校途中、
「今日の放課後なら四人とも来られるらしいぞ」
季武が隣を歩いている六花に言った。
「五馬ちゃんに紹介してくれるの?」
「ああ」
「ありがとう! 五馬ちゃんに伝えておくね」
六花は嬉しそうにそう言うと、学校に着くなり五馬の教室に向かった。
放課後、季武は六花と五馬を
中央公園には綱達が既に来ていた。
「おっ、今日は
「金時、親父臭いぞ」
「
「
綱が呆れた
「六花」
季武が六花の方を振り返った。
「友達の八田五馬ちゃんです」
「八田五馬です」
「俺、渡辺綱。
「おれは坂田金時。
「碓井貞光」
四天王が次々に自己紹介した。
「
五馬が頭を下げた。
「何か飲まない?
綱が六花と五馬に訊ねた。
「い、いえ、
六花が慌てて手を振った。
「遠慮しなくても」
「でも、
頼光様が、と言い掛けて口を
五馬は頼光四天王を知っているから、同じ名前の四人組の上に頼光の名前まで出したら変に思われるかもしれない。
頼光四天王ごっこしてる痛い四人組と思われたら申し訳ないし……。
「自販機のお茶くらい大丈夫だよ。季武、手伝え」
綱が苦笑しながら季武と自動販売機へ向かった。
ペットボトルを買ってきた綱は五馬に手渡そうとしてハッとした表情に
近付こうとした綱の邪魔をする
綱がむっとした顔に
綱、金時、貞光と五馬は雑談を始めた。
六花と季武は少し離れた所から四人の様子を見ていた。
「何か気になるの?」
「いや、多分、気の
季武はそう言いながらも、じっと五馬を見ていた。
五馬が可愛いから
私がそう思いたいだけかな。
ホントは五馬ちゃんが可愛いから見てるのかな。
六花が考え込んでいると、
「民話研究会って、
季武が訊ねてきた。
「色んな民話について、どこまでが脚色でどこまでが事実かとか話し合ってるの」
「ふぅん」
「今は頼光四天王が議題になってる」
「俺達?」
季武が六花の方を見た。
「うん」
「例えば?」
「鬼は本当に悪者なのか、とか」
「…………」
「あ、分かってるよ。鬼は悪者だし、頼光様や季武君達が
六花が慌てて言った。
「構わないぞ、何言われても。どうせ今伝わってるのは
「うん、でも、頼光様や季武君達のこと悪く言いたくないから黙ってる」
季武は何も言わずに六花の頭を
六花は赤くなった頬を見られない
「
「さぁ? クラスが違うので……。お昼は二人きりで食べてるそうですけど」
五馬が首を
「皆さん、
五馬がそう訊ねると、
「幼馴染みだよ」
「家が近所なんだよね」
綱と金時が答えた。
三人と五馬は雑談を再開した。
「六花ちゃん、もう遅いから帰るね」
五馬が六花に声を掛けた。
「また明日ね」
六花が手を振った。
「きゃ!」
不意に五馬が何かに
綱が急いで五馬に腕を回して五馬の身体を支えた。
綱は嬉しそうな表情を浮かべると五馬の死角でガッツポーズをした。
季武は五馬の足下を見て眉を
転びそうなものは何も無い。石も段差も。
何も無い所で
「大丈夫?」
綱が
「はい、
「家まで送っていくよ」
「
綱と五馬が並んで歩き出したのを季武達が見送った。
邪魔する隙もないまま五馬の了解を取り付けてしまった綱を、金時と貞光が苦々しい表情で見送った。
六花も金時と貞光に別れを告げて季武と家に向かっていた。
「ね、さっきの綱さんのガッツポーズって……」
「時期的にエリだろうな。キヨの可能性も無くは無いが」
「綱さんの恋人の? 五馬ちゃん、綱さんの恋人の生まれ変わりって事?」
「多分な」
季武はそう答えながら内心で首を
五馬に感じていた引っ掛かりはエリだったからだろうか。
最近
だが季武はイナ以外の人間に注意を払った事は無い。
エリは綱と何度か恋人に
「五馬ちゃん、六花ちゃんと仲良いんだよね? 親友?」
綱が歩きながら話し掛けた。
「親友だと思ってくれてたら嬉しいですけど、六花ちゃんは
「季武が、五馬ちゃんと下校した次の日の六花ちゃん、
「
五馬はそう言ってから、
「卜部君って無口な印象ですけど、綱さん達とは良く話すんですか?」
と訊ねた。
「いや、俺達ともそんなに……。だけど
「告白の方法とか?」
五馬が興味津々と言った表情で訊ねた。
「え!?
「付き合ってると思ってたんですか?」
「だって、どう見たって彼氏の態度じゃん」
「やっぱり
「じゃあ、六花ちゃんは付き合ってるって思ってないの?」
「違うって言ってましたよ」
「
綱は呆れた
「
「まさか。季武に殺されるよ」
綱が苦笑した。
「季武が六花ちゃんがクラスで孤立してる理由知りたがってるんだ。でも本人に『友達
「
「
「仲間外れにされてるのは卜部君と仲良くしてるからです。卜部君が好きなのにそんなこと言う訳には……」
「季武と知り合う前から孤立したみたいだって言ってたけど」
「わたしが転入する前の事は……」
「そっか」
「良ければ理由、クラスの子達に
「
綱が言った。
「じゃあ、連絡先教え……」
二人は同時に言い掛けて笑った。
連絡先の交換を終えると、
「
五馬が言った。
「そんな事ないよ! 季武並みにしつこく連絡くれて
綱が勢い込んで言うと五馬が再度笑った。
「卜部君ってしつこいんですか?」
「
「あ!
五馬が思い出した
「何か有った?」
綱が訊ねた。
「六花ちゃんと放課後お茶してたら『そろそろ帰れ』って連絡来た事が……。
「他の時も
綱が呆れた
「
綱は信じられないと言う
「じゃあ、こまめに報告しますね。卜部君並は無理ですけど」
五馬の言葉に綱が笑った。
帰宅した六花は母に頼まれて買い物に出た。
季武は
六花は一人で店に行く事にした。
買い物を終えた六花は
真上の空の色を見ると日は沈んだばかりの
紺色と言えるほど深い青ではない。
西の空は
ただでさえ
道路の反対側は中央公園だ。
マンションまであと少しの所まで来た時、鳥の声が聞こえてきた。
こんな時間に鳥の声?
普段は
都内には大きな公園が多い為か意外と鳥の種類は多いがフクロウの
少なくとも新宿に
声が徐々に近付いている気がして振り返ると、巨大な翼が生えた大きな四つ足の生き物が六花に向かってくる所だった。
黒い翼は暗くなった空に
羽ばたきの音が聞こえる距離まで来た時、
猿の
だが巨体だ!
トラか、
まさか……
大型の異様な生き物が近付いてくるのを見て六花は
生き物の前足が両肩に掛かり六花の身体が持ち上げられた。
影が鵺の首を
ゴキッ!
と言う音と共に鵺の首がおかしな方向に|
六花が道路に落ちる。
鵺の死骸も六花の横に落ちた。
鵺を倒したのは見た事もない動物だった。
中型犬くらいの大きさの四つ足の動物だが犬でも猫でもない。
と言ってもイエネコよりはずっと大きかった。焦げ茶色の短い毛が生えている。
動物に詳しい訳ではないが
鵺は異界の者だ。
季武が基本的に異界の者は異界の者にしか倒せないと言っていた。
だとすれば鵺を倒した
だが鬼を見た時の
むしろ親しみを感じる。
助けてくれたからそう感じるだけかな?
季武君と初めて会った時も怖いって思わなかったし、怖くないなら大丈夫だって思って
動物は倒した
六花は動物の
動物は脇目も振らず鵺を喰らっていた。
「ありがとう」
六花は動物の背をそっと撫でた。
動物は六花の方を見向きもせずに鵺を喰っている。
「ね、これ、鵺?」
返事は無かった。
動物は六花を無視して喰い続けていた。
どうやら言葉は話せないか、話す気がないらしい。
六花はスマホを取り出すと生き物にカメラを向けた。
動物が喰い
鵺を喰っている動物も含めて。
予想通り
やっぱり無理か。
小さい頃、写真を
家から勝手に持ち出す度に叱られたし写真には写らないので撮るのは諦めた。
季武は写真など無くても鵺の事を信じてくれるだろう。
頼政(の振りをした討伐員)が鵺退治をしたと言っていたから存在しているのは確かなのだ。
不意に動物が空を見上げた。
六花も
動物が六花に向かって牙を
まだ他にも危険な何かがいるって事?
だから早く帰れと言う警告だと解釈した六花はマンションに向かって駆け出した。
走りながら後方に目を向けた。
動物は自分より遙かに大きな鵺を
六花はもう一度、動物が目を向けた辺りを見上げてみた。
やはり何も見えない。
だが
六花は急いでマンションに入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます