第三章 再会と復活と ー中編ー
昼休み、季武と六花は屋上に
「金時さんって金太郎のモデルってホント?」
「そう言われてるな」
「じゃあ金時さんは
「ああ」
「鉞って大きい斧って聞いたけど、だから金太郎は斧持ってるの?」
「お伽噺が出来た
「季武君は弓と刀、使ってたよね」
六花は始めて季武と会った時を思い出しながら言った。
「
「貞光さんは長い刀使ってたね」
「あれは
そう言われてみれば季武の使っていた刀と比べるとかなり長かった。
あれが大太刀って言うんだ。
放課後、季武と六花は中央公園に来た。
「こ、こんにちは!」
六花は頼光に会うなり深くお辞儀した。
「その、ご足労頂いたのは私のせいみたいで……」
「いや、悪いのは
「
「季武に弁当作ってるじゃん」
「そうそう、季武だけ愛妻弁当って
「
六花は真っ赤になった。
「何が愛妻弁当だ! 今は女性に食事を作って
「
頼光の
「すみません!」
と頭を下げた。
頼光は苦笑しながら髪を
「いや、
「『
「読んでなくても六花ちゃんなら知ってたんじゃね」
「伝説に関しては
六花は赤くなって俯いた。
大ファンだと本人達に知られてるのはかなり恥ずかしい。
「
頼光は確認するように六花を見た。
「はい、レンジで温めるだけのものもありますし」
「
「おかずだって食いたいですよ。な」
綱が同意を求めると他の三人が頷いた。
六花が言ったのは米の事だけではないのだが
コンビニで弁当を買ってるのだから知らない
手料理が食べたい四天王と、作りに行きたい六花の思惑が一致した結果、全員レトルト食品の事は頼光に黙っていた。
頼光も
「何か聞きたい事は有るか?」
と
「いえ、その、ご迷惑でしょうし」
「迷惑なのは
頼光が四人を睨んだ。
四人が一様に視線を
定期連絡というのは嘘で、口下手な季武では六花の誤解を解けないだろうと金時が仲直りの
頼光に会えると聞けば
頼光には現時点で唯一の人間の協力者だからと言って
必須な訳ではないが事情を知っている人間の協力者が
頼光も
頼光が再度六花に質問は無いかと訊ねた。
「えっと……安倍晴明さんは人間だったんですか?」
「ああ」
「お母さんが狐だって言う話は……」
「当時から有ったが
「頼光様達には無いって事ですか?」
「
「人間だけ……ですか」
「
六花が感心した
「他には?」
「え!? いえ、もう十分です!」
「もう帰って
頼光が四天王に訊ねた。
貞光が「特に報告する事は無い」と答えると頼光は
頼光が
泣く子も黙る四天王でも頼光様は怖いんだ……。
私のせいで余計な時間取らせちゃったみたい。
「六花ちゃんさぁ、もっと図々しくなっても大丈夫だよ」
肩を落とした六花の様子を見た金時が言った。
「季武には、はっきり言わねぇと通じねぇからな」
「え?」
金時と貞光の言葉に六花は顔を上げた。
「
「そう言う時はズバッと聞いて大丈夫だからね。俺達には傷付くとかそう言う感情は無いから言葉を選ぶ必要も無いよ」
「季武がイナちゃん嫌うとか有り得ないもんな」
貞光、金時、綱が次々に言った。
良く分からないが綱の言葉を否定しないという事は嫌われてはいないと思って
困惑している様子の六花を見て季武以外の三人が溜息を
清志は小学校からの帰り道、一人で歩いていた。
「痛っ!」
突然左手に痛みを感じて顔を
指先から血が出ていた。
周囲にケガをしそうな物は何も無い。
少し風が吹いてるから何かが飛んできて切れたのだろう。
昨日は転んで膝をケガして今日は手か……。
昨日、立ち上がる時に手を貸してくれたお姉さんには
そんな事を思いながら手を見て、指先から流れ出す赤い液体に目を奪われた。
刹那、衝撃に目を見開いた。
美味しいなんてものではなかった。
今まで食べた
口の中に不思議な味と香りが広がり身体中に染み渡っていく。
こんなに
清志は血を舐めるのに夢中で自分を見ている者の存在には気付いていなかった。
昼休み、季武と六花は
「それで土曜日に五馬ちゃんが
季武は弁当を食べながら六花の話を聞いていた。
五馬と仲良くなるまで六花が季武と話していたのは昔の話が
民話という言葉など無かった時代からお
年寄りの長話にうんざりした他の者達が席を立ってもイナだけは熱心に聞いていた。
六花は友達が欲しかったのだろう。
季武は人の感情の
『友達がいない』と言う言葉に傷付く人間は多いし、特に思春期の子は繊細だから単刀直入に切り込んだりするなと釘を刺された。
だが
民話研究会のメンバーは普通に接しているとなると尚更だ。
実際、村の嫌われ者を助けた
放課後、季武は六花に一緒に帰らないかと誘った。
六花は
「貞光達が中央公園に来るって言ってたから寄ってくか?」
「私がいたら邪魔にならない?」
「聞かれて困る話はしない」
頼光だけではなく頼光四天王も六花にとってはアイドルだ。
「こんにちは」
六花は三人にお辞儀した。
「六花ちゃん、季武が
「え?」
綱の言葉に六花は戸惑った。
確かに季武に聞いたがそんなに強く知りたがっている
六花は季武を見上げた。
「
貞光が綱の頭を
「あ、昔のイナちゃんか」
「お
「
「で、でも、四天王のリーダーですからいざとなったら頼りになるんですよね!」
六花がフォローする
「リーダーじゃないぞ」
季武が即座に否定した。
「え……」
「綱だけ貴族だったから物語とかではそう言う事になってるんだろうね」
「頼光様の義理の兄弟の養子に
金時と貞光が補足した。
「それだけなんですか? 大江山の仕返しに来た茨木童子を倒したり、頼光様と北山の土蜘蛛退治したり……」
「
「
金時と貞光が不満げに顔を見合わせた。
「『羅生門』や『土蜘蛛』は役者の人数の関係だろ。能舞台は狭いから大勢は出せないってだけだと思うぞ。歌舞伎では四人とも出てるんだし」
季武が言った。
『羅生門』は映画の方ではなく
謡曲に綱が羅生門で鬼と戦う話があり、
話の内容は『平家物語』の「剣」の舞台を一条戻橋から羅生門に変えた話なのだが
「土蜘蛛退治の話は
季武が六花の方を向いて言った。
有名なのは『平家物語』の「剣」に載っている頼光が病気で寝込んでいる時に怪僧(に化けた土蜘蛛)に襲われた話と、『
「都での大規模な土蜘蛛討伐は一度だけだ」
「じゃあ、頼光様が病気で寝込んでた方が実話って事?」
「いや、両方
「おれ達、病気はしないからね」
「仮に
貞光が言った。
「
「晒しても人間には見えないからね」
六花は首を
「
「今『平家物語』の土蜘蛛の話が創作だって言ってたでしょ。でも綱さんを
「橋姫の話は本当だよ」
金時が言った。
「空中で腕切った話もな」
季武が呆れ顔で付け加えた。
「普通、飛んでる時に
「山まで行ったら帰るの大変じゃん。歩いて帰らないといけない時代だったんだぞ」
「愛宕山から堀川までなんて大した距離じゃないだろ。人間だって
「神社の屋根壊してんじゃねぇよ」
「夜中に呼び出された
確か安倍晴明が呼ばれたと書いて有ったから
「
平安時代版オレオレ詐欺……。
「
「したら別の女ん
「俺、
綱が腕組みで頷きながら言った。
「お前の
「普通行かねぇだろ! 怒った妻おいて他の女の
「
金時、貞光、季武が次々と突っ込んだ。
……あれ?
「声真似したのって義理のお母さんじゃ……」
「『平家物語』とかではそう
綱が言った。
そう言われてみれば義理の母が綱を騙して中に入れさせる時「生まれたばかりの頃から大切に育ててきたのに」と語ったと書いて有った。
だが綱に赤ん坊の頃は無いのだからそんな話をする
それにしても、奥さんがいたのに他の女性の所にも通ってたんだ……。
綱さんは貴族だったから複数の奥さんがいても不思議では……。
「あ!」
六花が大声を上げた。
四人の視線が六花に集まる。
「もしかして、都立高校や会社員がダメって……」
「ご名答。女が
金時が苦笑した。
「今まで
季武が冷たい目で綱を見た。
どうやら三人が
「都立高は共学だけだからね」
「国立は……」
「近くに国立の男子校が有っから」
貞光がお見通しだと言いたげに綱を見た。
「それじゃあ、綱さんが行ってる私立の高校って……」
六花は以前、季武が綱が通っている高校と言って指差した方角を思い出した。
私立の男子校で制服が学ラン。
「すごい……」
東京どころか全国に一万前後ある高校の中で十位以内という超難関校だ。
頼光四天王ってホントに文武両道なんだ。
「試験は受けてないぞ」
感動していた六花に季武が
「バラすなよ。
「実力じゃない事で尊敬されて嬉しいのか」
「試験受けられれば余裕だったぞ。中高一貫校だから高校入試が無かっただけじゃん」
「
「
「特に私立はな」
「俺達が
どうやら資金調達や手続きの工作担当の者が
クラスメイトが
「学費はちゃんと納めてるしね」
お金の
清志は足早に家に向かっていた。
もう日は
星も
清志は顔を上げた。
女の人だった。学校の制服を着ている。
彼女は嫌な
刃に赤黒い液体が付いている。
清志は
カミソリを
自分の血よりも更に
あんなに美味しいものは無いと思っていたのに今日のは
口を閉じたまま舌を動かして味わっていたが、
清志は残念に思いながら
「美味しかった?」
「
彼女はそう言うと夕闇の中に消えていった。
清志はもう一度味わいたくて手の中に残されたカミソリで自分の指を切った。
自分の血を舐めてみたが
女の血の方が美味しいと言うのは本当らしい。
清志は家に帰ると親の目を盗んでベビーベッドに寝ている妹を見下ろした。
腕など見える所を切ったら
色々見ている内に頭に目を付けた。
頭なら髪に隠れて見えないだろう。
清志は妹の頭をカミソリで切った。
妹が泣き出す。
母親が飛んできた。
「清志! 何したの!」
「何もしてないよ。急に泣き出したんだ」
母親は妹を抱き上げてあやし始めた。
清志は母に背を向けるとカミソリを舐めた。
――!
昨日のより、今日のより、遥かに
もっと舐めたかったが母が付きっ切りであやしているので諦めた。
放課後、六花は季武と一緒に下校していた。
「お前、
季武が心配そうに訊ねてきた。
「え、違うよ。お……」
女の子の身体の事で、と言おうとして前回
初めて会った時は夫婦に
最低一度は結婚していた事が有るなら女性の身体の事を知ってる
「お腹、ちょっと痛くて……」
「大丈夫か? 保健室には? 病院に行った方が
「そこまでじゃないよ」
六花は慌てて手を振った。
「そうか……。今日は一緒に帰れないんだが一人で平気か?」
体育を休んだくらいで大袈裟過ぎるのではないかと考えてから、前世で季武を
もしかして、それで負い目を感じてるのかな。
だとしたら
次の体育までに体操服を用意する必要が有る。
明日にでも買いに行くしかない。
六花は心の中で溜息を
お小遣い、全部無くなっちゃうな……。
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