第三章 再会と復活と ー前編ー
相変わらず人間達は狩猟採集生活を送っていた。
昔、異界の上層部の一員だった
振り返ると、かつて自分を討伐に来た
「~~~」
討手は意味が分からず眉を
「
どうやら前回
「
大地が揺れたかと思うとマグマと共に噴煙が高く噴き上った。
剣で討手を
剣を
身を焦がす
飲み込まれたら核に戻るのは確実だ。
討手は素早く剣を拾うと
剣が地中深くまで突き刺さり
溶岩は容赦なく
「ーーーーー!」
核の一部が
溶岩が冷えて固まった頃、剣は一つの核となって地面の上に転がった。
休み時間――。
六花が廊下を歩いていると、
「六花ちゃん、今日一緒に帰らない?」
五馬が声を掛けてきた。
「うん!」
六花は嬉しくて即答した。
女の子の友達と一緒に帰るなんて初めて……。
六花は放課後が待ち遠しくなった。
放課後――。
六花が急いで廊下に出ると、ちょうど五馬がやってくる所だった。
「六花ちゃん、今日予定ある? 無いなら寄り道しない?」
「
「どこかに入ってお喋りしない?」
「うん!」
お店で友達とお喋り!
六花は五馬と連れだって学校を後にした。
ファーストフード店に入ると五馬と向かい合って座った。
雑談してる内に季武の話題になった。
「六花ちゃん、卜部君と付き合ってるんだってね」
「まさか! 知り合ったばかりだよ」
六花は真っ赤になって首を振った。
「いつ?」
「今学期からだから、つい最近」
「知り合ったばかりで毎日お昼一緒に食べてるのに付き合ってないの?」
「季武君、
六花が
「わざわざ二人きりになってるのに付き合ってないの?」
「知らない事、色々教えてもらってるの」
二人きりになる理由の説明にはなってないが他に答えようがない。
「ね、五馬ちゃんのお誕生日っていつ?」
六花は話題を変えた。
「七月二十二日」
「あ、その日、土曜日だね」
六花はスマホのスケジュール帳に五馬の誕生日を入力しながら言った。
「五馬ちゃんの都合が良かったら、その日、一緒にお祝いしない? 新宿駅の近くにケーキの美味しいお店があるんだって」
「本当!? 行ってみたい!」
五馬が嬉しそうに言った。
「じゃあ、七月二十二日に一緒に行こう」
「うん」
六花と五馬は待ち合わせの時間と場所を決めた。
不意に六花のスマホが振動した。
見ると季武からのメッセージで
〝そろそろ家に帰れ〟
と書いてある。
六花は思わず辺りを見回したが季武の姿は無かった。
「どうしたの?」
五馬が訊ねてきた。
「季武君からなんだけど、私が今、家にいないって知ってるみたいなの」
「なんて書いてあるの?」
「もう家に帰れって」
六花の言葉に五馬も
「遅いしそろそろ帰ろうか」
五馬はそう言って鞄を
「うん」
学校以外で友達とお喋りしたのは初めてで楽しかったからもう少し一緒に
しつこくして嫌われたくないし……。
「また来ようね」
五馬の言葉に、
「うん!」
六花は嬉しくて勢いよく頷いた。
二人は店を出ると家路に
公園――。
弁当を
画面を覗き込むと「もう家に帰れ」と書いている。
六花を見掛けたのかと思って気配を探ってみたが近くには
画面に六花の居場所は書いてない。
と言うか、そもそも六花からはメッセージ自体来ていない。
「なんで六花ちゃんが家に
「スマホのGPSで」
「お
ドン引きしている貞光をよそに、季武はもう一度GPSを見て六花が家に向かっている事を確認するとスマホを
昼休み――。
「――でね、五馬ちゃんのお誕生日、七月二十二日なんだって。それで二人でお祝いする事になったの」
季武は弁当を食べながら六花の話を聞いていた。
六花がこんなにはしゃいでいるのは
頼光や頼光四天王が酒呑童子討伐で
世間では常に頼光と四天王が英雄として人気者だった訳ではないが、イナはいつもどこかから聞き付けていて頼光と会うと感激していた。
今回も頼光と対面した翌日は大喜びで色々話していたがそれでもここまで浮かれてはいなかった。
朝から五馬と言う友達の話をし続けているのを聞き、
教室でクラスメイトと喋っているのは見た事が無い。
これだけ嬉しそうなのは
六花――と言うかイナ――は人見知りではない。
自分から他人に話し掛ける事が出来ない性格ではないから何か理由があって
鈴木を始めとした民話研究会のメンバーは普通に接しているようだから六花が仲間外れになるような何かを
何よりイナは性格的に人に嫌われるような事はしない。
それも気になるが……。
もう一つ。
六花が話している友達の事も何か引っ掛かる。
だがそれがなんなのか、いくら考えても分からなかった。
昼休みが終わり、季武と一緒に屋上から戻ってきた六花は鞄を開いて目を見張った。
中が黒く染まっている。
匂いですぐにソースだと気付いた。
前の方で固まっている石川達が六花を見ながらくすくす笑っている。
六花は、そっと季武の様子を
季武は椅子に座ろうとしていた。
「どうかしたのか?」
「なんでもない」
六花は首を振ると弁当箱をソース
季武が横に
登下校時以外は机に掛けっぱなしの鞄を持って廊下に出れば不審に思うだろうし、それで
トイレの中までは入ってこないが
仮に詮索してこなかったとしても不審に思われて嫌がらせがバレてしまうかもしれない。
ノートとペンは購買で買ってきて教科書は……。
五馬ちゃんに貸してもらおう。
季武に見せて
隣の教室を
購買から戻ってきても
授業が始まるまでには戻ってくるだろうと戸口で待っていると、鈴木が六花に気付いて話し掛けてきた。
「如月さん、どうしたの?」
「五馬ちゃんに教科書借りに来たの」
「それなら僕が貸すよ」
そう言って鈴木が教科書を貸してくれた。
六花が教科書を持って教室に戻ってきたのを季武が
「教科書、借りたのか? 忘れたなら俺が見せたのに」
「えっと……」
季武に見せて
「誰から借りたんだ?」
「鈴木君」
六花の答えを聞いた季武は一瞬不愉快そうな表情を浮かべた後、黙って前を向いてしまった。
怒ったのかな?
季武君、鈴木君とは知り合いじゃないはずだから嫌いな訳じゃないよね?
季武の不機嫌そうな様子に六花は気持ちが沈んだ。
放課後――。
季武は何も言わずに帰ってしまった。
やっぱり私のこと怒ってるんだよね……。
とうとう嫌われてしまったのかと思うと悲しくなった。
ただでさえ
まぁ元からだし……。
そう思おうとしても気分が落ち込んだ。
六花は溜息を
図書準備室で五馬が、
「六花ちゃん、一緒に帰らない?」
と誘ってくれた。
六花は承諾し掛けて、
「あ、買い物に行かないといけないの」
と答えた。
「一緒に行ったらダメ?」
「
「じゃ、決まり」
五馬のその言葉に六花は救われた気がした。
季武に気付かれないようにソース
明日のために新しい物を買わなければならない。
でも季武君、明日もお弁当食べてくれるかな……。
六花と五馬は並んで校門から出た。
「中学って
店に向かってる途中、五馬がぼやいた。
「お金が掛かるからじゃない?」
「お弁当だってお金が掛かるでしょ。コンビニでお弁当買うのも食堂で食べるのも変わらないよ」
納得できないというように五馬が言う。
「え、五馬ちゃん、コンビニでお弁当買ってるの?」
「うん。お弁当買ってきて弁当箱に入れ替えるの面倒だよね」
「あ、それじゃ、私が作ってあげようか? 二人分も三人分も手間は同じだし」
母が食費が掛かり過ぎると反対するかもしれないのが心配だったがそこはお小遣いを減らすか貯金してあるお年玉を渡すかすれば許してもらえるだろう。
ただそうなると体操服を買うのは無理だから体育を休み続けられる口実を考える必要がある。
「二人分って……もしかして、卜部君にもお弁当作ってあげてるの? だから一緒にお弁当食べてるの? 付き合ってないんだよね?」
五馬が驚いたように訊ねてきた。
「うん、季武君もコンビニでお弁当やパン買ってるって言うから……」
「なら、お料理教えてくれる? そしたら、わたし、自分で作るから」
「
六花はそう答えた。
「有難う」
五馬の笑顔に、彼女はいつまで仲良くしてくれるだろうかと考えると悲しみが込み上げてきそうになる。
それを押さえて無理に笑みを浮かべたとき背後でドサッと言う音がして振り返った。
ランドセルを
六花は急いでその子に駆け寄った。
膝を
思わず顔を上げて辺りを見回したが鬼は
「どうしたの?」
五馬が背後から声を掛けてきた。
「なんでもない」
六花はそう答えて小学生に手を差し伸べた。
男の子は首を振って自力で立ったが一瞬よろけた。
六花が急いで肩に手を置いて支えた瞬間、背筋を悪寒が走る。
それを疑問に思う前に男の子の
「膝、血が出てるよ。痛いでしょ」
六花の言葉に男の子は再度首を振った。
「家に帰ったらちゃんと手当てしてね」
六花がそう言うと男の子は頷いて走り去った。
公園――。
季武は金時の気配を探しながら歩いていた。
金時のクラスメイトが昼休みにSNSで人間の腕と足だけ発見されたと言うニュースを見て騒いでいたのだ。
金時は学校を早退して腕と足が保管されている所へ行った。
既に早退していた金時はそのまま鬼の捜索を開始した。
現場は都内の団地内だ。
喰い残したなら
柔らかい胴の部分以外は喰いたくなかったとしても、物足りなければ別の人間を襲って他にも手足が残ってるはずだ。
緊急性は低いと判断し他の三人は学校でネットをチェックしながら放課後に合流する事になった。
季武はスマホのGPSで金時の位置を表示してそこへ向かっていた。
団地内の広い公園を通っている時、ふと知っている誰かの気配を感じた。
異界の者と人間が交ざったような感じだが、異界の者と人の間に生まれた子供は人間だ。
仮に雑種が出来るとしても季武の知り合いには
見える範囲には誰も
離れた場所からは大勢の人間の気配を感じるが。
季武は内心で首を
「
季武の問いに金時が「
四人は同時に駆け出した。
二体の鬼が人を喰っている。
片方が上半身を、もう片方が腰から下を喰っていた。
綱が髭切で斬り掛かる。
季武も腰に差していた刀を抜くと綱が相手にしている鬼の背後に回り込んだ。
鬼が横に跳んで
金時が別の鬼に駆け寄る。
貞光がその鬼の背後に回る。
金時が
咄嗟に後ろに下がった鬼を貞光の大太刀が斬り
鬼が絶叫を上げて消える。
綱が再度斬り掛かった。
鬼が持っていた人間の足を綱に投げ付ける。
綱が髭切で足を払う。
その隙に鬼は綱の斜め前を駆け抜けて逃げ出した。
綱が走り出す前に季武の矢が三本立て続けに鬼の背に突き刺さる。
季武は地面に落ちている足に目を向けた。太股はほとんど残ってない。
「ニュースの
季武の考えを察した金時が言った。
「別のが
季武はスマホを取り出すと地図を表示した。
「今いるのがここで昨日の事件現場がここ。綱、貞光、どっちから来た?」
季武の問いに二人がここへ来るまでのルートを指で示す。
綱は西から来た。
貞光は南からだ。
季武も貞光とほぼ同じルートを通った。
「お前は今日どの辺を回った?」
「確か、こんな感じだったな」
金時は今日
主に東方面を回っている。
「誰も北からは来てないな」
四人は北へ向かった。
それぞれ距離を取って北上していると、
「
スマホから貞光の声が聞こえてきた。
「穴を見付けた!」
金時の声もした。
「貞光、場所は」
綱の問いに貞光が答えると季武はそちらへ向かって走り出した。
季武が着いた時、
「終わったか?」
「穴は新しかったし、他の気配も無いから帰ろうぜ」
金時の言葉に四人は自分達のマンションへ向かって歩き始めた。
「季武、六花ちゃん、いつから来てくれるんだ?」
「なんでお前達にまで六花の料理を食わせてやらないといけないんだ」
「六花ちゃんと喧嘩でもしたのか?」
「
金時の問いに貞光が言った。
「季武も
「何があったんだよ」
「なんで何か有ったと思うんだ」
季武がぶっきらぼうに答える。
「今までイナちゃんが作った食事、俺達が食うの嫌がった事ないじゃん」
「実はもう彼氏が
「
「分かんないじゃん。イナちゃん、基本的に『可哀想』で行動するタイプだし」
綱が言った。
「そう言や
「あれで毎回季武と会うまで無事って
綱達が好き勝手言うのにうんざりした季武が、
「六花が他の男から教科書借りたんだ」
と答えた。
「
「そんな訳ないだろ! 借りただけだ!」
「それで嫉妬かよ、見っともねぇな」
「同じ立場でもそれ言えるのか?」
季武が貞光を睨み付けた。
「教科書くれぇで文句なんか言わねぇよ」
「文句なんか言ってないぞ」
異界の者は生き物ではあるが異なる次元の存在だから人間界の生き物とは根本的に違う。
討伐員は
特に
季武のように一人の人間にこれだけ執着するのは珍しいのだ。
「でも不機嫌なとこ見せたんだろ」
「今頃、落ち込んでるぞ」
「ちゃんとフォローしとけよ」
「料理頼むの忘れんな」
「目当てはそれか!」
そんな話をしている内にマンションに
翌朝――。
六花が登校すると季武が既に席に着いていた。
六花がおずおずと挨拶をすると、
「今日の放課後、頼光様が来るんだ。一緒に来ないか?」
と季武が誘ってきた。
良かった、口
「頼光様が来るのって特別な用事じゃないの? 私が
六花は安心しながら訊ねた。
「いや、定期連絡だ。今回は特に報告する事は無いからお前を呼んでやれって」
「……初めて会った時、必ず会いたがるって言ってたけど……」
「酒呑童子を倒して名を
アイドル……。
そう言えば、いつも邪馬台国の場所聞いてるんだっけ……。
私ってホントにミーハーなんだ……。
そう思うとちょっと……いや、かなり恥ずかしい。
とは言え伝説の英雄だからアイドルなのは確かだ。
会えるなら会いたい。
何より、せっかく季武が誘ってくれたのに断って
「頼光様は? 私が行っても怒らない?」
「許可は取った」
「それなら……」
この様子なら今日もお弁当食べてくれそう。
六花は胸を撫で下ろした。
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