第二章 出会いと再会と ー後編ー
「ところで頼光様、急な
貞光が改まった口調で訊ねた。
「この前の土の中の
金時が言った。
「そっちは
「では……」
「無駄遣いを減らせと言ってるだろうが! この馬鹿者共!」
頼光の
六花も頼光の迫力に思わずたじろいだ。
金時がそれに
「頼光様、イ……六花ちゃんが怖がってますよ」
六花を腕を掴んで頼光の真正面に立たせると自分はその背後に移動した。
振り返ると綱と貞光もさり気なく六花の後方に回り込んでいる。
「六花を盾に使うな」
季武はそう言って六花の肩を掴むと自分の
頼光は六花の頭越しに四天王を睨み付けた。
四人は一様に目を
五人とも背が高いから
頼光は六花が
それほど強い力ではないが帰す気はないと言う強固な意志を感じる。
季武も六花を
後ろに視線を向けると綱達が
季武が手を放してくれたとしても彼らを見捨てて帰ってしまうのは気が引ける。
しかし頼光の邪魔をするのも申し訳ない。
困った六花が頼光を見上げると、彼は大きな溜息を
もしかして、こう言う事も何度もあったのかな……。
「とにかくもっと出費を減らせ。この前、大損して
げんし?
首を
「投資の元手になる資産だ」
季武が
「そう言えば、こないだ仮想通貨が暴落しましたね」
仮想通貨!?
六花が目を丸くすると、
「人間界で暮らしていくには生活費が必要だろ。最近は投資で稼いでるんだ」
と季武が説明してくれた。
異世界の人が仮想通貨に投資……。
しかも大損したと言う事は小細工せずに
「食費も掛かり過ぎだ。外食は控えろ」
「でも料理禁止って
「お前達が火事なんか起こすからだ! あの時の村の再建がどれだけ大変だったと思ってるんだ!」
火事!?
村の再建!?
しかも村の再建という事は村一つ丸ごと燃やしてしまったのだろう。
そう言えば、ご飯、黒焦げって言ってたっけ。
「……あの、良ければ私が食事作りに行きましょうか?」
六花がおそるおそる申し出た。
話を聞いていて生まれ変わる度に四天王の食事を
脱穀してないお米や生の野菜を食べてるの見たらほっとけないし……。
「いつもすまない」
頼光は申し訳なさそうに謝った。
『いつも』と言うのは
そんなに何度も作ってたんだ……。
背後でハイタッチしている音が聞こえたから少なくとも四人のうち二人は六花が料理に行くのを歓迎してるようだ。
頼光もそれを見て呆れた表情をしたものの何も言わなかったからとりあえず六花が作りに行くのは認めてもらえたらしい。
頼光がこめかみを押さえてるのを見て、これは確かに中間管理職だと納得した。
ひょっとして二千年近くも人間界に居るのに料理が出来ないのは
とは言え作りにいくのを歓迎してもらえるなら作りたいからそれは言わないでおいた。
もしかして毎回同じ事考えてるのかな。
と言う考えが脳裏を
これもいつも考えているのかもしれないと思いながら。
話を変えるように頼光は咳払いをした。
「綱! お前、今の高校は金時と同じ制服が使えるって言ってたな! 金時は私服で
頼光が請求書を突き付ける。
「学ランは同じで
「ボタン付け替えの手間を省くために新しい制服を買ったのか!」
「仕立屋に頼んでも
綱が言い訳をする。
「ボタンくらい自分で付けろ! ただでさえ私立で
「じゃあ、俺、都立に
「
綱の言葉が終わる前に頼光を始めとした四人が同時に
綱は残念そうな声で「ちぇ」と呟いていた。
学費の問題なら国立大附属も都立と同じくらいだった気が……。
「今は四人とも学生だから収入が全然無いんだよね。討伐があるからバイトも出来ないし」
金時が後ろから六花に説明した。
「いつもちゃんとお金払ってるんですか?」
「ああ」
「暗示を掛けられるのに悪用しないんですね!」
さすが正義の味方!
と感動し掛けた六花に、
「暗示で
季武が淡々とした口調で水を差した。
例えば買い物なら店の仕入れの記録と売上が一致しなければ客の万引きか店員の
暗示で
そこから異界の者の存在に気付かれる可能性がある。
だから金が
実際、都では頼光達が派遣される前も後も〝見える〟人間に敵視されて色々大変だったらしい。
だから存在を知られないようにしているのだ。
討伐のために派遣されている者は世界中に大勢いる。
全ての記録を
要は費用対効果の問題だ。
つまり、その点がクリア出来るならやるんだ……。
「人間に知られたらいけないなら私もダメなのでは……」
「信じてくれる人間なら構わねぇんだよ」
「イナちゃんは味方だからね」
貞光と金時が言った。
なんとなく過去の行いから
昔の私ってそんなに
まぁ頼光様や四天王の味方なのは確かだけど。
「なら、俺、会社員に……」
「
綱が言い終える前に再度四人が断固とした口調で
綱はがっかりしていたが食い下がったりはしなかった。
理由は分からないが強く主張出来ない何かがあるらしい。
都立高校と会社員の共通点ってなんだろう……。
六花は内心で首を
「電気代も高いと言われたぞ。必要なとき以外パソコン使うな」
「そうは言ってもSNSのチェックは必須ですよ。今はSNSで
SNSで獲物を捜す鬼と、それに目を光らせる頼光四天王……。
「ニュースを見るのにも必要ですし」
「ニュースはテレビで見ろ。ゲーム用に買ったんじゃないぞ」
「ゲームするんだ……」
泣く子も黙る頼光四天王がテレビゲーム……。
頭がくらくらする。
「ニュースはテレビよりネットの方が早いですよ」
「テレビはニュースの時間しかやりませんから」
「臨時ニュースは基本的に
綱、貞光、金時が答える。
「それにオンラインゲームって友達付き合いに必要ですよ。ボイスチャットで結構色んな情報入ってきますので」
「家族間のやり取り丸聞こえなの気付いてない人間って意外と多いんですよ」
「人前じゃ出来ないような話、結構してるよな」
「夫婦喧嘩とかは
貞光が言った。
「ネットには結構鬼が
「呼び出しなんて個人的な
頼光に問い詰められた金時達が返答に詰まった。
ちらっと背後を見ると季武が白い目で三人を見ていた。
どうやら季武はゲームをしないようだ。
「それから、スマホもなるべく使うな。もっと安く抑える工夫をしろ」
「スマホも友達付き合いに必要ですよ、な」
綱が同意を求めると、
「ネットに載らない口コミの情報とかありますので」
「噂話とか都市伝説とか、案外
「人が消えるのは大抵
貞光と金時が賛同した。
どこそこの廃屋へ行って帰ってきた者が
「季武君以外はお友達が
「季武は人付き合い出来ねぇんだよ」
「それで村に住めなくて行き倒れになったくらいだからね」
「イナちゃん以外完全無視だもんな」
人付き合いが嫌いな季武が六花を無視出来ないのは弁当を作ってるからだと思うが、そこまで悲惨な食生活を送っているのかと思うとますます心配になってくる。
今は弁当を買えるから行き倒れの心配は無いと思うが。
不意に頼光が辺りを見回した。
「どうかなさいましたか?」
金時が訊ねた。
頼光はしばらく黙っていた。
四天王は互いに視線を交わした後、辺りの気配を探りながら周囲を見渡した。
濃紺のスーツを着た二人組の男性や、洗練された服装の女性、話をしながら歩いている学生達、犬の散歩をしている初老の夫婦。
いつも通りの光景だ。
特に異変は感じられない。
「お前達を見張っている者がいるかもしれん。十分気を付けろ」
頼光はそう告げると、季武に、
「今日はもう遅い、季武、イ……六花ちゃんを送ってやれ。私も帰るがもっと出費を抑えるように
と言った。
六花は頼光と四天王に別れを告げると季武と共に公園を後にした。
深夜――。
頼光は四天王と共に郊外の駅前に
強い鬼がここに
四天王の任地ではないのだがこの地の担当者がやられて取り逃がしてしまったので頼光が派遣された。
頼光に従って四天王も
夜遅い時間で店舗はどこも閉まっている。
駅前と住宅街の辺りにはコンビニが有って営業しているがこの辺りにはオフィスビルしかないので建物の中に
頼光が
「
周囲を見回していた頼光が鬼の気配を察知して駆け出した。
四天王も跡を追って走り出す。
頼光の方が力が強い分、気配を感知出来る範囲も広い。
四人には
徐々に建物が減っていき、辺りは畑だけになる。
綱達が緊張を
「あそこだ!」
数キロ先にガソリンスタンドがある。
畑の中を通っている国道沿いだ。
ガソリンスタンドの照明に照らされて大きな鬼が立っていた。
大鬼は五メートル近くはあるだろう。
周りに二メートル前後の鬼が何体も
季武は立ち止まって背中の弓を取った。
季武が鬼に向けて立て続けに矢を放つ。
走っている頼光達を矢が追い越して鬼を貫いた。
鬼が次々と消えていく。
頼光達が鬼の近くに着く頃には大鬼以外は
綱が
鬼が手の甲で髭切の
貞光が刀を振り下ろした。
鬼が回し蹴りを放つ。
貞光が後ろに飛び
金時が
鬼が
「くそ!」
金時が舌打ちした。
季武の矢もことごとく振り払われると飛んでこなくなった。
頼光が
鬼が後ろに跳ぶ。
膝丸は
鬼を追い掛けながら、
「綱!」
頼光は目で鬼の後ろに行くように指示する。
頼光は鬼の正面に回った。
頼光と綱が、鬼を挟むように立つ。
視線で綱以外の三人にもそれぞれに移動先を指示する。
四天王が指示に従い鬼を取り囲んだ。
頼光が斬り込む。
鬼が後ろに跳ぶ。
綱が背後に回ったのに気付いた鬼が着地と同時に横へ跳んだ。
綱の髭切が空を切る。
鬼が一気に頼光との間合いを詰めた。
頼光を鬼が蹴り上げる。
頼光が後ろに飛び
頼光を追い掛けようとした鬼の前に季武と貞光が立ち
季武と貞光の刀、金時の
鬼が綱の振り下ろした髭切を
完全に四天王の
この任地の者がやられるだけの事はある。
鬼が横に腕を振り回した。
四人が後ろに跳んで
その間を通って頼光が鬼に駆け寄った。
頼光は
膝丸でなければ攻撃が通らないはずだ。
膝丸ではないと気付いた鬼は
が、その
相変わらず
貞光は
地面に倒れた鬼が半身を起こそうとした。
槍の攻撃が通らず傷一つ付いてないが衝撃ですぐには立ち上がれないらしい。
頼光は鬼の元に駆け寄ると槍を振り下ろした。
槍は鬼の腹に当たったがやはり傷付けられなかった。
しかし突き抜けないからこそ槍で押された鬼はコンクリートの床に押し込まれる形になる。
鬼を中心としてコンクリートに大きなヒビが入った。
床が割れて陥没し、鬼がコンクリートごと地下のガソリンタンクの中に落ちていく。
頼光は塊を蹴って後ろに飛び
「全員下がれ!」
頼光の声に、駆け寄ろうとしていた綱達が大きく後ろに跳んだ。
貞光は近くに季武が
視界の隅の小さな光に目を向けると、離れた場所から地下タンクに向けて
貞光が舌打ちした音はガソリンスタンドの爆発音に
矢に
「他に鬼の気配は無いな」
頼光は背後で
「穴を
頼光は穴の有る方向を指すと異界に戻っていった。
「行ってくる」
季武も平然とした表情で穴の方に向かった。
残された三人が頭を
「油断した! 畑の中なら被害は農作物だけだと思ったのに」
「季武の
得物とは得意な武器の事である。
「あの二人、
「それだって出すなって命令だから気を付けてるだけじゃん。巻き込んで
「その程度で
金時が言った。
「
「この辺りの活火山って富士山か?」
「箱根も
「箱根がヤバかった頃は
「日本とは限らないぞ。ヴェスヴィオ山噴火させて街一つ火山灰に埋めたから異動になったとか」
「火山噴火させる
「じゃあ、鹿児島の火山か? 長い間九州に人が住めなくなったって言う……」
「それ七千年以上前じゃん。自称の倍以上
「場所はともかく、それで任地が都内限定なのかもな。断層は有っても火山は
少なくとも街が溶岩や火山灰に埋まる心配はしなくて
「他はもっと担当区域広いもんな。移動が大変だって
「その代わり建物吹っ飛ばす上司の心配する必要ねぇけどな」
貞光がそう言った時、
「おい、
戻ってきた季武が三人に声を掛けた。
「
金時が次々とやってくる消防車に視線を向けた。
「後始末は俺の仕事じゃない」
季武の素っ気ない言葉に、三人は〝後始末〟をしなければならない役目の者に同情した。
自分ではなくて良かったと思いながら。
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