第2話 【鑑定】も取得できないか?

『スキル【錬金】を取得しました』

 それは何度か見覚えのあるメッセージ。

 僕も【薬調合】や【採取】などのスキルをゲットした際に見た覚えがある。


 だが、【錬金】だぞ? 希少スキルを取得したという目の前の文字が、本当に現実なのか信じられない僕は、『かもしれない』なんて曖昧な言い方をすることになった。


 案の定師匠は、コイツは何を言っているんだ。という顔をしている。

 そりゃそうだろう。確かに師匠は錬金を手に入れろと言ったし、僕もそれを了承した。

 だが、期限は一年だ。それでも普通に考えて無理難題なんだが、事もあろうに僕はさっきの今で、錬金を手に入れました。なんてほざいているのだ。

 師匠の反応は当然と言える。



「何を言って……」

 師匠は言葉を途中で止める。


「…………」

 そしてしばらく黙る師匠。


 長い、長い時間。あまりの事態に動揺している僕にとって、その沈黙は体感ですごく長く感じた。


 そして急に――

「……プっ…ハハハハ!! 貴方ってばほんと面白いわねアルカ! 流石は私の弟子だわ!」

 笑い出す師匠。


「鑑定を使ったけど、確かに【錬金】が追加されてるわ!」

 師匠は【鑑定】を使えるので他人のスキルを確認することが可能だ。

 多分さっき話ながら鑑定を使用してたんだろう。


 そして、師匠の鑑定でも【錬金】があるということで、僕の幻覚だった説が否定された。


 師匠に弟子入りしてからおよそ10年。それまで錬金スキルなど手に入る兆しすらなかったというのに、手に入れると決意してから一分も経たぬ間に手に入るなんて。

 それも、何故手に入ったかわからないまま。


 夢かもしれない。現実だったらいいな。なんて状況を呑み込み切れずにいると僕の師匠は――

「よしじゃあアルカ。【鑑定】スキルを手に入れなさい。一年以内に出来なかったら私の弟子を破門にするわよ」

 なんてことを言い始めた。

 ちなみに【鑑定】は希少スキルである。


 だが、これでも師匠との付き合いは長い。師匠の意図はなんとなく察しがつく。

 そして僕はその師匠の意図に乗る。

「……わかった。僕は必ず【鑑定】を手に入れて、師匠に相応しい弟子になるよ」

 それは、さっきの再現。


「……あんた本当にスキルを手に入れようと思ってる? 覚悟が足りないんじゃない? 覚悟が。

 ちなみに嘘だと思ってるかもしれないけど、出来なかったら本当に破門にするからね?」

 この人なら本当に破門にしてきそうだから怖い。無理難題を押し付けて出来なければクビなんて、普通に考えてヤバい人だが、師匠は割とそういう人な気がする。

 ただ師匠が言わんとしてることはわかる。言葉だけでなく意志も伴っていなければいけないんじゃないか、ということだろう。

 ……確かに、今の発言はさっきの流れを踏襲しただけで、【錬金】を手に入れると決意表明した時のように、本気で手に入れようなんて思っていなかったかもしれない。


 ……【鑑定】があれば【錬金】に使用する素材の名前や効果、成果物の効果まで把握することができる。

 錬金術においても、その有用性は極めて高い。


 せっかく【錬金】を手に入れたのだから、【鑑定】もぜひ手に入れたい。師匠だって持ってるんだし。

【鑑定】は希少スキルの中ではスキルブックの発見事例が多い部類のスキルだ。もしかしたらダンジョンで手に入るかもしれないし、高額ではあるだろうが市場に出回るかもしれない。

 錬金を使ってお金を稼いで、それで買う事だって出来るかもしれない。


 そうじゃなくても、僕は【錬金】を取得した実績があるんだ。


「僕は必ず【鑑定】も手に入れて、師匠を超えてみせる」

 それは、決意の籠った言葉。

 これまで【錬金】を手に入れられるなんて考えてもみなかったから、一生師匠の助手として生きていくと思っていた。

 でも今は違う。僕は師匠の弟子なんだ。『錬金術師アルカ』として、師匠を超える。

 鑑定なんて、そのための一歩に過ぎない。



「……ま、そんな甘くないわよね」

 分かってたわよ。みたいな顏をしているが、残念そうな顏が隠しきれていない。

 やはりダメだったらしい。


「仕方ないわね。とりあえず【錬金】を手に入れたのだから、貴方の今の実力を把握してみましょうか。

 アルカ、工房へ行くわよ」

 そう言って師匠は工房へと向かった。

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