第4話 冒険者登録

 俺は囚人だったノマドとカルディアを一般人に溶け込ませる為に、普通の服と死なない程度の装備を買い、それを渡した。

 さて、これで街の中を自由に歩き回れるようになった訳だが、俺の最終目的は親父と弟を殺すこと。

 二人はどうせ俺が戻ってくるとは思っていない。だからのんびりゆっくりとやっても良いが、アイツらが生きている。その事実だけで腹が立つ。早急に自分を強くして、殺さなくてはならない。


 まぁ、焦った所で結果は変わらないことは分かっている。だが、ゆっくりする理由も無いだろ。俺は遊びに来たんじゃねぇんだよ。


 それで、自分をギフトの掠奪を使って強くする訳だが、無闇に国の外に出た所で効率が悪い。だから、これから冒険者になって、片っ端から掠奪する。それが今の最も効率的な行動だ。


 そうして俺はノマドとカルディアとで冒険者ギルドという建物に入る。その瞬間、俺の一番嫌いな匂いが鼻を曲げる。


「くっせぇ……」


「なんだ? 酒の匂いが苦手なのか?」


「あぁ、ゴミ虫共が群がる臭いが辛えなぁ。冒険者がなんだか知らねえが、ランクが上がったからって自分が強くなったと勘違いする糞虫共の臭いが俺は大の嫌いなんだよ」


 俺は元貴族になるが、貴族の人間が冒険者ギルドに入ることはまずない。

 どんな理由であってもだ。下等生物冒険者と一緒に居たい貴族なんて聞いたことが無い。


 俺が鼻を押さえて嫌そうにしていると、受付だろう女が話しかけてきた。


「冒険者ギルドへようこそ。何かご入用ですか?」


 なにが良くてこんな化粧をしているのか。此処にいる奴らは一般人で言うなら美人の類に入るだろう。

 でもそれは糞冒険者共の目を惹かせる為だけの低俗な理由でしかない。どうせ化粧をしなかったらみんなゴブリンだ。全く難儀な奴らだ。


「冒険者登録をしに来た。俺はデューク、後ろに居るのはノマドとカルディアだ。さっさとしろ」


「っ……は、はい! それでは登録手数料一銀貨を頂きます!」


「じゃあ三人で三銀貨だな。ほらよ。説明は要らん。今すぐにこの依頼を受けさせろ」


 あぁ、なんて冒険者というものは面倒な職業なんだ。受付と話し、手数料を払い、次は説明だろ?

 そんなもの全部すっ飛ばしだ。俺は依頼掲示板に張られていた狼系の魔物討伐依頼を受付に渡した。


「は、はい! かしこまりました! 報酬の支払いは狼の革を持ってきて下さい!」


「よし、ノマド、カルディア。行くぞ」


 と、俺はさっさと登録を済ませてギルドを出ようとすると、俺の身長の二〜三倍にもなる大男に止められた。


「おいテメェ……俺らのアメリアちゃんを怖がらせてんじゃねぇよ。さっきから見ていたがよぉ……冒険者登録したばかりの低ランクが調子乗ってんじゃねぇぞ?」


「アメリア……? あぁ、あのゴブリン女か。あんなのが好きなんて、てめぇらの目腐ってんじゃねえか?

 調子乗ってんのはお前だろうが、もう少しその腐った目で、相手を見極めろ。誰を相手に喧嘩売ってるのかをなぁ?

 この冒険者ギルドには脳みそも使えない馬鹿なオークが居るとは驚きだぜ」


「貴様ァ!! ぶっ殺してやる! うおおおおおぉ!!」


 大男は片手に持っていた等身大の棍棒を俺に振り下ろしてきた。

 俺はそれを身体捻って回避し、すかさず【急所解明】を発動するが、全ての人間に決まった急所は有っても、ノマドのように弱点がある訳では無いようだ。


 ならば【怪力】を使って無理矢理攻撃を与えても良いが、コイツの筋肉はそう簡単には突き破れないだろう。


 それならば……俺が追放される以前に習得していたギフトの出番だ。

 【暗殺術】。なんでこんなギフトを手に入れちまったのかは俺でも不思議だ。

 まぁ、勝手な予想では、親父が俺に仕向けたものだろう。


 俺は実は一度だけ追放前に自室で殺されかけたことがある。何故親父がそんなことをしたのかは容易に分かるだろう。

 だがその時には既に遅かった。俺がギフトを性質を理解していない時から行けたかもしれんが、ギフトで身体能力が上がった俺なら、暗殺者を凌駕するなんて朝飯前だった。


 これがその時に手に入れたギフトだ。使い所はかなり限られるんだがな。

 今の俺なら上手く扱える。


 このギフトは……。

 俺は【怪力】を使い身体能力を飛躍的に上げると、大男の棍棒を避けた直後に高く飛び上がり、大男の頭。後頭部にしがみつくようにして回り込む。

 そして脳天へ垂直に手刀を【暗殺術】でぶっ刺す。

 どんなに強力で馬鹿でかい相手でも、急所を確実に狙える状況を作ることさえ出来れば、このギフトは半強制的に弱点を生成し、鋼鉄の身体を持つ相手に対してでも大ダメージを与える。


「ぐああああああっっ!?!?!? あがががごごごご!?!?」


「俺に喧嘩を売ったのが運の尽きだ。その脳みそ。直接もらうぜ」


 グロテスクで汚いからあまりやりたくない方法なのだが、俺のギフトでの掠奪方法は、既に死亡が確定又は、既に死亡している相手には、まだ完全には活動を停止していない脳みそを抉り出すことで、掠奪は成功する。

 まぁ、死んでから時間が経っている動物は流石に対象外だがな。


「すげぇな。お前本当に元貴族かよ」


「追放された理由が少し分かった気がするぜ……」


 あぁ、気持ち悪いのは嫌だが、ギフトを手に入れる瞬間は良い気持ちだぜ。

 こいつのギフトは……『剛体』か。看守から貰った『鉄壁』の上位互換だな。


 さて、そろそろ依頼の狼狩りへと行きますか。


「い、いや……きゃあああああっ!!」


 そうして俺は悲鳴が上がる冒険者ギルドから去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る