第2話 二人の下僕

 神授ギフトとは、対象に隠された才能を開花させ、覚醒までに身体能力と精神力を急成長させるもの。


 こんな話がある。

 ある日、とある村で農民としてずっと働いていた男がいた。

 そこに1人の老人が来た。老人は汚れた布切れを羽織り、酷く痩せ細った状態で、今にもぶっ倒れそうだったそうだ。

 男はその老人をすぐに村に迎え入れ、自分達も金も食料も殆どないと言うのに、親切に老人にも食べ物を分け与えた。


 それによって体力を取り戻した老人は、なんと教会の神父であることが判明し、老人は村人に助けてくれたお礼として、ギフトを開花させた所、その農民はなんと『剣士』となった。

 こうしてギフトが剣士となった農民は、急激に力をつけ、一夜で村を護る勇ましい衛兵となった。


 ……つまりだ。ギフトは対象の潜在能力を開花させ、良く気弱な人間が突然性格が変わるなんて事があるが、人格が変わるのはその結果に過ぎない。

 だから今、俺の目の前で起きているカルディアの無気力症は、自身の才能を突然奪われたことで、馴染んでいた身体が驚いただけで、一時的な催眠みたいなものだ。


「カルディア、そろそろ起きろ」


 俺はカルディアの眼前に指を置き、パチンと鳴らす。


「はっ……? く、くそ……なにが起きて……」


 そして俺のギフトは、生物からギフトや特徴を奪う力があるが、人格までは奪えない。だから生きてるなら、必要なら、目覚めさせてやる必要がある。

 だが……ギフトの開花や覚醒は人生で一度きりのもの。そんなものを奪われて突然無気力になれば、目覚めたとしても戻ることも、自力で覚醒させることも、そして才能を持っていた記憶も消える。


 全く難儀なギフトだせぇ。


「よ、カルディア。これからお前は、俺のだ。つべこべ言わずに着いてこい」


「……? あ、あぁ……」


「さて、次はノマドの出番だぁ。準備は出来てるよなぁ?」


「貴様……何をしたあっ!!」


 ノマドはブチ切れながら鉄格子を捻じ曲げ、隙間を通り抜ければ俺に思いっきり殴り掛かってきた。

 ……。こいつは犯罪者になる前はどんなふうに生きていたんだ? 身体の使い方が完全に素人だ。

 きっと自分のギフトだけを信じて敵を圧倒してきたんだろう。

 まさに少し前の俺のようだァ……。


 だが戦闘術は俺の方が上。筋肉だけを頼りにして生きてきた人間より遥かに強い。

 早速【急所解明】を使わせて貰おうか!


 俺は難なくノマドの拳を身体を捻って回避すると、空かさず手に入れたギフトでノマドの全身を良く見る。

 すると、ノマドの右横腹が赤い点となって強く光っていることが分かる。

 どうやら、投獄される前に受けた深傷のようだ。恐らくこれがきっかけで力を存分に振るえず捕まる事になったんだろう。


 外見ではほぼ完治しているように見えるが、ギフトでそこが弱点だと分かると言うことは、中まではしっかり治っていないんだろう。


「横腹ががら空きだぜぇ!」


 俺は出来る限り鋭く、筋肉ではなく内部の深傷に衝撃を与えるべく、拳ではなく手を手刀にして構え、ノマドの攻撃を避けたことでがら空きになったその横腹に、手刀を勢いよく突き刺す。


そうすればノマドは横腹を咄嗟に抑えて、膝を地面に突く。


「っ!? ぐああっ……! 畜生、まだ完治してなかったのか……!」


「おらどうした脳筋よぉ! その程度で捕まっちゃあざまぁねぇなぁ?」


 最後に俺は膝を突くノマドの顔面に足を掛け、そのまま地面に向かって蹴り潰す。

 こいつは筋肉と耐久性はある。この程度で気絶はしない。

 俺がギフトを奪える条件は、一つに殺意が無い敵からがあるが、これは一瞬でも敵が目眩を起こしたり、こちらを見失った瞬間が対象になる。

 だから気絶する前に奪えるのは今だ。


「く、くそぉ……や、止めろ」


「ちっと頭借りるぜぇ……」


そして俺はノマドの顔面を踏みつけながら、頭に手を触れ、【掠奪】を発動する。

 すると同じく直後に激しい頭痛。


「よっしゃあ! てめえのギフトゲットだぜぇ……」


 ノマドのギフトは『怪力』。

 そら、鉄格子を曲げるなんて朝飯前ってこったぁ。


「ぐ……ぐあぁっ! 俺は……まだ。諦めてねぇぞ……」


 なんと、無気力にならねえタイプもいるんだな。顔面を踏みつける俺の足首を掴みやがった。


「何を諦めねぇんだ? てめえはもう無能なんだよ。調子に乗んな雑魚が。もう一度痛い目に合わせてやるよぉ!」


 俺はそこで【怪力】を発動。

 また手を手刀にして、次は仰向けになったノマドの正面から、垂直に弱点である横腹に手を突き刺す。

 怪力となった俺の手は、容易にノマドの筋肉を突き破り、深傷を抉る。


「ぐあああああぁぁぁっ!!??」


「ぎゃーぎやー五月蝿えなぁ! ったく面倒かかせやがって」


 すると、そんな叫び声が意外とデカかったのか。地下牢の入り口方面から声が響く。


「デューク様! 大丈夫ですか! 何があったのですか!」


「ッチ……こんな所見られちまえば絶対疑われる。恨みはねぇがてめえの力も奪わせてもらうぜ」


 俺は入り口から慌てて走ってくる看守に自ら近づき、無言で頭に触れてギフトを吸収する。


「デューク様……? ……。あれ、私はこんなところで何をしているのだろう……」


 計画外ではあるが、手に入れたギフトは『鉄壁』。防御系の確か四級ギフトだったな。看守になるには最適ってか。


「よし、片付いた。まぁ、こいつは放っておけば勝手に目覚めるだろ。

 ノマド、カルディア! さっさと地下牢から出んぞ! カルディアはノマドを担いで来い!」


「おう! ノマド、腕借りるぜ」


「くそ……力が入らねえ……」


 こうして俺は二人の下僕を手に入れた。しっかりこき使わせてもらうぜぇ……?

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