第1話 掠奪
俺は遂にアーロゲント公爵家を追放された。これから俺の名はアーロゲントの名字を捨て、デュークとして生きていく。
そう、ただのデュークだ。
だがまだ契約上では俺は公爵家の人間。翌日には本当に名字を捨てることになるだろうが、俺は今日のうちにやっておきたいことがある。
まず、まだあの糞爺に勝つことは出来ないが、その準備をしなくてはならない。
だから俺は今、王国の地下牢に来た。
ここで何をするかって? 今こそギフトの力の見せ所だ。アイツは俺のギフトがどんな力を持っているかは知らない。
どうせ言った所で、もっと騒ぎになるからだ。
「おい看守。この地下牢に捕えられている囚人のリストを渡せ」
「は、これはデューク様。囚人のリストですか? 理由を聞いても?」
「てめえ、この俺に口答えすんのか?」
「いえ! 失礼しました! こちらが囚人のリストです」
「あと鍵もだ」
「え? あ、はい……」
「んじゃ、後で返すわ」
さてこのリストには、この国の地下牢に捕らえられている数百、数千の犯罪者のリストが全部載っている。
しかもなんのギフトを持っているかまでだ。ギフトは、犯罪者に対しても神聖なものだからか。どんなリストにも必ず名前とギフトを記載する決まりがある。
あぁ、こんなに良いギフトを持ってんのに、何故犯罪者なんか成り下がったのか理解に苦しむぜ……。
俺のギフトには、16歳以下の人間は全く意味がないので除外。さて、誰にしよっかなぁ……。
俺は囚人リストをペラペラと捲りながら、地下牢の廊下を静かに歩く。
それぞれの鉄格子から忌みの目や憎しみの目、怒りの目が気持ちが良い程に俺に刺さる。
そうしていると、その中の一人が焦った表情で鉄格子にしがみ付いてきた。
「おいアンタ! お願いだここから出してくれ! 俺は冤罪なんだ! アンタ、悪い噂ばかり連れてるアーロゲント家の確かデュークって名前だろ!? な? 別に今更俺を脱獄させようがお前の知ったこっちゃないだろう?」
「ふむ。グレイブ・ドルニク。ギフトは『商運』か。クソの役にも立たねえな。あぁ、俺には知ったこっちゃねえな。そこで一生臭い飯食ってのたれ死ね」
「おいおいおい! お願いだ! 俺をここから出してくれ!」
「五月蝿えぞゴミ! 殺しても良いんなら出してやってもいいが?」
「ひぃっ!? わ、分かった。大人しくする……」
商人が冤罪で捕らえられるなんてことは良くある話だ。
商人はどこの国でも最も運び屋が隠れやすい職業。商人は自身が運ぶ荷物を見せるかどうかを決められる権利があるからな。
わざと荷物を見せずにリストだけ渡しても、しっかりと荷物を隠さずに見せたとしても、その国の経済と状況によっては、怪しければ即投獄。
この商人の慌てっぷりから見れば、後者だろうな。可哀想なこった。
さて、こんな雑魚は置いといて、俺の目的は使えるやつを探さなくちゃならない。
特に戦闘や肉体強化の類のギフトを持つやつだ。
俺は引き続きペラペラと囚人リストのページを捲り続けると、その中に2人。使えそうな候補を見つけた。
「ほぉ……こいつぁ面白えもん持ってんじゃねえか。この牢獄に仕舞っておくには勿体ねえくらいだぜ……。
ちょっとお邪魔するとしますか」
俺は候補を見つけると、すぐにその囚人の牢屋の前まで行く。
「囚人番号5169番ノマド・アームズ、5945番カルディア・ケッツァー。お前らを釈放する」
「誰だてめえ……どういう風の吹き回しだ」
「オイオイ……マジかよ。あんだけぶっ殺したってのに、この国のお偉いさんは何考えてんだぁ?」
ガタイが良く、性格も声も落ち着いた雑魚がノマド、そして大量殺人鬼のクソ野郎がカルディアか。
「これからは自由の身だ。その代わり、俺の下僕になれ」
「下僕だと? てめぇ相手が誰なのか分かってそんなこと言ってんのか? こんな鉄格子、やろうと思えば簡単に捻じ曲げられるんだがな。
この牢屋で一生を過ごすのも悪くはねえと思った矢先に……何が目的だ?」
「下僕ぅ? ばっかじゃねえのお前! 此処を出たら俺はすぐに地上に出て、殺戮ショーを始めるぜぇ?」
はぁ……二人とも良いギフトを持ってんのに、所詮は吠えるだけのクソ雑魚か。
こんなのを下僕に入れるのは癪だが……雑魚は雑魚らしく這いつくばせれば、いいか。
「ったくしょうがねぇなぁ。まずはカルディア。お前からだ。こっちに寄ってこい……」
「嫌だと言ったらぁ?」
「嫌……か。さっきまでの殺戮ショーを始めるとか言った威勢はどこ行ったんだよ。その殺戮ショーの始まりはこの俺にしたら良いじゃねえか。
それとも怖気ついたかぁ? てめぇは口だけかよ。何が殺戮ショーだ。つまらねえ戯言吐いてねえで早くこっちこいよ。芋虫が」
特に何の意味もない煽り文句。
こういう人を沢山殺したとか自慢げに調子乗ってるやつは、ただ見栄を張りたいだけで、それを否定されるとブチ切れやすい。
なんでも、人を殺すというやべーこと自体が普通なら恐れられることだからな。
でも俺は違う。この芋虫みてえに見栄なんざ張らねえし、自慢することでもねえ。
数百、数千なんてとっくに超えてるからなぁ……。
「あぁあ!? テメェ! あー分かったぜ! そんなに殺されてぇんなら今ここで殺してやるよぉ!!」
「【掠奪】……」
俺は鉄格子に近づいてくるカルディアの頭を先手で鷲掴み、引き寄せて鉄格子にぶつけると、すぐにギフト【掠奪】を発動させる。
その瞬間、カルディアの頭を掴む俺の手から、腕に、肩に、最後は脳を通って、急激に情報が流れ込んでくる。
そして直後に割れるような激しい頭痛。
「くっ……! う……ふぅ……。『急所解明』獲得っと。
あぁ、すげえ! すげぇなこのギフト。相手の急所が全部見れちまう!」
「ッチィ……急所解明だと? テメェ……何しやが……た? あ……あれ? オレ、何してんだここで……」
「さぁ? なにしてんだろうなぁ?」
そう、これが俺のやべーギフト。『掠奪』。対象が死亡していない限り、殺意の無い奴や、気絶した生き物の頭からギフトを奪い自分の物にするギフト。
そう、俺は16歳の頃にこのギフトが開花し、以降最初は鼠や弱った動物、次に家畜やペットを殴って、このギフトがなんのかを知った頃には人間に手を出していた。
毎度奪う度に頭痛がくるのは面倒だが、相手のギフトを奪う感覚はとてつもなく快感だった。
もう何人殺ったか覚えてねぇ。恐らく1000人は絶対超えてる。
生気のある動物から奪った場合は無気力にさせ、気絶又は弱った動物から奪うと魂が抜けたように死に至る。
確か昔は原因不明の人々の連続死に騒ぎになったのが懐かしいなぁ。全く、笑い堪えるのが楽しくて仕方が無かったぜ。
だが今はもっと楽しい! 家を追放された身となれば最早やりたい放題!
俺はこの力で化け物になって、最後に親父の力を奪って殺してやるんだ。
あー、あの糞爺の恐怖で歪んだ表情を見るのが楽しみだなぁ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます