027
7月になった。
俺と九条さん、御子柴君に花栗さんは日常的に行動を共にするようになっていた。
といってもお昼ごはんを一緒に食べるくらいなのだが。
「京極! 今日は何にするんだ?」
「ん~、たまには辛いもんだな。麻婆豆腐定食にしよう」
「よし、俺もそれだ!」
「・・・御子柴、お前、いつも俺と同じもん食ってるな」
「え? 仲良しだから当然だろ!」
「・・・」
恨めしそうに御子柴君を見る九条さんは安定のパスタ。
うん・・・九条さん、中華料理はご一緒できないもんね?
俺、九条さんとご一緒する時は地味に避けてたくらいだから。
御子柴君、俺の中華料理の救世主だよ・・・。
「九条さん、今日はトマトパスタですね?」
「はい。暑いので酸味が欲しくて」
「わっかります! 夏ですもんね! 私もそれにします!」
「そ、そうですか」
花栗さんは九条さんに対しては超積極的。
俺や御子柴君と話をするときは未だにオロオロしているのに。
これ、推し力学が働くんだろうな。
当の九条さんはちょっと引き気味。
やっぱ百合って駄目なのか?
いや・・・花栗さんが受け入れられていないだけかも。
ラリクエ主人公で百合やるはずだし。
まぁあれだ。俺が迫られてるときの感覚を少しは理解してくれ。
「もうすぐ夏休みだな。御子柴は部活か?」
「おう。休み明けに大会あるから。走り込みだ」
「運動部は同じなんだな。九条さんも休み明けの大会に向けて頑張るんだろ?」
「はい。今年こそ日本大会目指していますから」
橘先輩との約束だ。力も入るというものだろう。
素直に頑張る人たちを応援したい。
「花栗さんは休み中、部活してるの?」
「は、はい。技術コンテストに出品するものを作っています」
「うぇ、すげぇ。俺はさっぱりだかんな、尊敬する」
電子研究部も「部」だけあってそれなりに活動があるようだ。
コンテンツを作成する技術的なものを学んだり活かしたりする部活だとか。
パソコン部と似たようなもんか。
でもこの世界の技術だから、相当に複雑なものなのは間違いない。
・・・すげぇよな?
「京極も・・・
「よく覚えてんな」
「お前のことだからな!」
鼻高々、御子柴君。
九条さんが私も知っているのです、とちょっと膨れてる。
そこ、競争するとこじゃない。
「だらだら活動するだけだよ。具現化のネタ集めたりさ」
「集めるって?」
「ほら、
「あー、ミリオタみたいな感じ?」
「うん、そんなとこだな。好きなテーマで特集をしてみたり」
これはリア研の活動のひとつで嘘ではない。
飯塚先輩が作った具現化特集は、具現化された武器や戦う姿を収めた写真集だ。
届かぬが故の憧れ。
今になって思えば、飯塚先輩の内に抱えたものを感じる。
駄目先輩って思ってたけども、卒業してからすごい人だったなと思うことが多い。
世の中、そんなものなのかな?
いや・・・橘先輩は逆のような気がする。
「あと、俺は帰省だな」
「ああ、お盆だしな」
「中国州、でしたっけ」
「そう。広島市って片田舎だ」
俺は昨年からずっと帰省していない。
正直、顔を知らぬ親に会うのが怖いのだ。
だが逃げてばかりでは始まらないので覚悟を決めていた。
どこかのタイミングで電話をして帰る算段をしよう。
「じゃ、林間学校が終わったら、その次は休み明けになんのか?」
「ええー、夏の間、ずっと会えないの?」
「みんな忙しそうだからなぁ」
「・・・それは寂しいです」
意外。九条さんが食いついて来た。
考えてみれば去年も夏休み中はほぼすれ違いだったか。
それを思い出したのかもしれない。
「そうですよ、お休み中に1度、集まって遊びましょう」
「賛成です! 部活漬けじゃ嫌です!」
「俺もそうしたい! 京極は?」
「ん・・・」
そういえば、去年の夏は青春要素無いって思ったんだよな。
少しくらい良いか。
「じゃあ、お盆明けの日曜日に集まろうか」
「分かりました。部活の予定を調整しておきます」
九条さん、部長権限つえぇ・・・。
「俺、絶対、予定空けとくぞ!」
「わ、私も絶対に行きます」
あっという間に決定。
うん・・・今年の夏の、俺の青春要素だ。楽しもう。
お遊びの内容がイロモノにならないようにだけ注意して・・・。
◇
夜。PEにて橘先輩との会話。
いじめ?事件の結果報告をしていた。
『あっはっは! それ、ほんと!?』
「本当だよ。九条さんから報告が行かなかった?」
『あ~苦し。ううん、まだだよ。そっかぁ、君たち青春だねぇ~』
「橘先輩の恋敵が増えたって話なんだけどな?」
『ええー? 私の
すげぇ自信だな、おい。
・・・まぁ俺が御子柴君に靡く可能性は万にひとつも無いが。・・・無いよな、俺?
『九条もまとめてお友達宣言したんでしょ? あーあ、一歩後退だ』
「九条さんの剣幕もすごかったんだよ・・・」
あの勢いは止められない。
1番になる宣言を、改めて、堂々と俺の前でしたのだから。
『でしょうね。あの子、真っ直ぐで強いから』
「うん。本当に」
この部屋で攻略されそうになったときも。
決めがラリクエの台詞じゃなけりゃ落ちてたぞ俺。
ほんと危ねぇ。
『そっかぁ~。1度くらい、そのふたりにも会ってみたいなぁ』
「・・・絶対、引っ掻き回す気だろ」
『えー、親睦を深めるだけだよ』
うん、弄るね。間違いなく。
玩具が増えて喜んでる未来しか見えねぇ。
『ところでさ。あれから調子はどう? もう私の教える範囲、終わったちゃったから』
「うん、お陰様で大丈夫。ほんとにありがとう」
『なら良い。もっと様子を見に行きたいんだけど、私もインターハイがあるから時間ないし』
「やっぱり練習が多い?」
『うん、桜坂の比じゃないよ。高校生は技量も高いし真剣だから』
ちょっと真面目モードになる橘先輩。
この人、やっぱ弓道に関しては真剣だ。
『でも同じ轍は踏まない。ちゃんと仲間もいるし先輩とも競って練習できてる』
楽しげに報告してくれる。うん、橘先輩も羽ばたいてるんだな。
「俺、今年は帰省するから、お盆のあたりは話ができないかも」
『あ、戻るんだ。うん、分かった。覚えておく』
「時間があったら九条さんの部活も見に行ってあげてよ」
『ふふ。私が行くと、高飛車先輩が~って煙たがられるだけ』
あ、嫌われ役だったよこの人。
でも結果を出してるし九条さんと和解してるから大丈夫だと思うんだけどなぁ。
『だ~いじょうぶ。九条とはたまに話してるからね。心配してないよ』
「そっか。それじゃ次は8月のパスタの会かな」
『だね。愛しの武君、待っててねぇ~♪』
「九条さんと一緒に、待ってるよ」
『あーひっどーい!』
「はは、お休み」
『うん、おやすみ~』
◇
桜坂中学の2年生は夏の間に林間学校があるので、その計画をすることになる。
林間学校の班組は4人。
夜の宿での部屋割りは男女別で6人ずつ。
移動時の座席割は決まっておらず、適当に座るらしい。
そんな条件で班組するなら、お友達4人組が一緒になるのは道理だろう。
むしろそれ以外の選択肢がない。
そして班で行動計画を話し合う時間。
「やったな、同じ班だ!」
「みんな、一緒ですね」
御子柴君と花栗さんは嬉しそうだ。
九条さんも俺と同じ班で行動できるのでご機嫌の様子。
「基本、4人行動のようですから。役割分担を決めましょう」
「そもそも、役割って何があんだ?」
話し合いのため、全員が俺の机に集まっていた。
九条さんは俺の右隣。その横に花栗さん。
左側に御子柴君。
あの・・・皆さん、どうしてそんなに詰めてるの? 狭い。
俺は代表して
「林間学校らしいイベントだな。山登り、飯盒炊爨、キャンプファイヤー。盛り沢山じゃねぇか」
「山登りは先頭で誘導するリーダーを決めるようですね」
「ここは元気そうな御子柴で良いんじゃねぇか? 慎重そうな花栗さんが地図を見てくれれば」
「俺だな! 分かった、頑張るぞ!」
「わ、私が地図を?」
「ほら、任意で地図係ってあるじゃん。御子柴は猪突だから重要な役割だ」
「なんだよ猪突って?」
「事実じゃねぇか。オリエンテーションで何度も止めたろ」
「むぅ・・・」
思い出したのか、少し恥ずかしそうにする御子柴君。
うん・・・可愛い仕草だね。
女の子なら似合ってたと思うよ!
「苦手なら九条さんにサポートしてもらえば良い」
「私、間違えるかもしれません! お願いしますね!!」
「は、はい」
いきなり押し押しになった花栗さんにたじたじの九条さん。
うん、そうして俺の立場位置を少しは理解してくれ。
「山登りの後は・・・飯盒炊爨か」
「なぁ、飯盒炊爨って何?」
「は、飯盒炊爨は、焚き火でご飯を炊くやつです」
「焚き火で!? そんな原始人の嗜みみたいなことするのか!?」
御子柴君、飯盒炊爨を原始人呼ばわり。
まぁね、俺もこんな未来になってまで林間学校でやることが同じとは思わなかったよ。
未来要素って思う点と、変わってない点と。
世界(ラリクエスタッフの妄想)は不思議で出来ている。
「いちおう聞こう。飯盒炊爨だけだと米しかないから、カレーとか調理するんだけどさ。やったことある?」
「ないです」
「無いですね」
「俺もない」
「・・・」
ん? 未来人てアウトドア要素ないの?
そもそも料理経験も?
えーと。そこはかとなく不安になってきた。
「・・・つまり。飯盒炊爨も料理も経験がない? 3人ともできない?」
みんな素直に頷く。
ここで強がって「できます」なんて言わないだけ良しとしよう。
そんな日にはメシマズが出来上がる予感しかしねぇからな・・・。
あれか、自動調理機が常備された弊害だろうな。
教師陣も分かってるだろうに、こんなもん設定しやがって。
未経験を体験するからこそ林間学校なんだろうけど。
ちなみに四十路の俺はさすがにどれも経験がある。
ひとり暮らしをしたから家事全般できるし、アウトドアも学生時代にやった。
せいぜい、飯盒炊爨が高校生の林間学校でやったのが最後、というくらいだ。
だから俺が主導すれば何とかなりそうなんだが。
「・・・たぶん、俺はひと通りできると思う」
「え!?」
「すげぇ! お前、どこでそんな経験したんだ!?」
「京極さん、さすがです!」
三者三様に感動。うん、喜ぶところなんだろうけど、なんか嬉しくない。
どうしてだろう、トラブルが発生する予感しかねぇよ・・・。
でも今からどうしようもないよな、こんなの。
料理練習する場所も時間も無いし。
なるようにしかならんか。
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