026

 6月の終わり。

 俺と九条さんへの悪戯事件に終止符を打つべく、当事者4人で集まることになった。

 場所は17時半、学校の教室にした。

 もし何かあった場合、すぐに先生へ報告できるからだ。

 その何かが無いようにしたいんだがな!


 時間になったので、俺は御子柴君と廊下で待ち合わせて教室に入った。

 そう、まさかの栗毛色サラサラヘア、イケメン御子柴君だった!

 まぁ俺への執着から九条さんへ手を出す可能性が無いわけではなかったから・・・。

 そこに気付けなかった俺の落ち度でもある。

 だって、2年生になってから1度もアプローチなかったんだぜ?


 教室に行くと九条さんと・・・三つ編み眼鏡女子、花栗さんがいた。

 ・・・何だよ、席が近い同士じゃねぇか。



「ま、とりあえず座ろうや」



 俺がそう声をかけると、各々、自分の席に座る。

 うん、すぐ近くだよね。話しやすい。

 夕方だけど日が長いのでまだ明るい。

 九条さんの銀色の髪が輝いて見える。

 あー、綺麗だなー、と少し見つめてしまったら九条さんがその視線に気付いて少し照れたような表情をする。

 やっべ、見惚れてしまった。

 気まずそうだった当事者2人は・・・げ、こっちを睨んでるよ!?

 と、とりあえず話を・・・。



「そんで。順番に聞こうか。この段に及んで誤魔化したら先生へ報告するしかねぇからな?」



 とうとう話が始まった、と覚悟を決めて真剣な表情になる御子柴君と花栗さん。



「じゃ、御子柴から話をしてもらっても?」


「・・・分かった」



 そうして御子柴君の自分語りが始まる。



 ◇



 事の発端は1年前のオリエンテーリングだったそうだ。

 俺とコンビを組んで、自分が分からない問題をスラスラ解く姿に、格好良いと思ったらしい。

 俺のことが気になるようになったと。

 それで休み時間とか放課後とか、俺と話をできる機会を探していたそうだ。

 しかし・・・俺はなかなか掴まらなかった。

 前期試験の結果を見ているときに偶然会えて、話をした。

 その時に憧れから、恋心を自覚したそうだ。


 だけれども、そこから半年くらい頑張ったそうだがどうにも遭遇できず。

 会えないから余計に気持ちが募ってしまったらしい。

 だからバレンタインに思い切って手紙を書いて用意をした。

 そうしたら俺が来てくれた。

 意を決して渡したのにホワイトデー以降の返事がない。

 もしかして振られてしまったのか、と愕然としていたそうだ。


 2年生以降、クラス替えで成績順になることは知っていた。

 だから俺と同じクラスになるべく後期試験の勉強を頑張りまくった。

 どうにか同じクラスになれた。

 で、一緒に授業を受けてみるとどうだ。

 休み時間はずっと勉強しているし、昼休みは九条さんと一緒に食事。

 間に割り込む隙もない。

 これは九条さんと距離を置いてもらわないと、話をする機会の破片もなさそうだ!

 そう想い募り、恋敵の九条さんへの犯行に及んだ、とのことだった。



 ◇



「俺・・・。せめて2番でも良いから、お前と仲良くしたい・・・」



 絞り出すように、御子柴君は言った。

 ・・・うん、ちょっと待ってね?


 どうすんだよこれぇぇぇぇ!!

 性別女だったら恋する乙女で応援したくなるシチュエーションじゃん!!

 これ拒絶したら、俺、もんのすげぇ悪い奴になるじゃん!!

 しかも女子ふたりの反応を見るにちょっとウルウルしてる?

 BLはやっぱり普通なのか!?

 御子柴君の恋心をうんうんと頷きながら聞いていらっしゃる!

 今すぐ、結論必要・・・?

 橘先輩の時もだけどさ・・・理解が追い付かんよ・・・2番って何・・・。

 ごめん魂抜けそう・・・。


 いや待て。

 4人いるんだから、もうひとり、花栗さんの話を聞いてから考えてみても良いかもしれない。

 もしかしたら想いが交錯して違う結果になるかも。



「・・・御子柴の話は聞いた。花栗さんの話も聞こうか・・・」



 深刻な表情と、重苦しい口調で俺は言った。

 ザ・先送り☆

 御子柴君、ごめん。



「わ、私・・・。はい、わかりました・・・」



 やらかした事になると口は重い。

 それでも語って貰わねばならない。御子柴君も話したのだし。

 花栗さんはたどたどしく語り始めた。



 ◇



 花栗さんの発端もオリエンテーリングだったそうな。

 別のクラスながら、色白で根暗という噂を聞いていた九条さんと一緒になってびっくりした。

 花栗さん自身も引っ込み思案で暗いという自覚があった。いわゆるコミュ障。

 でも九条さんと話をしてみると、お淑やかで意思もはっきりしていて凛として格好いい。

 その整った表情も、銀色でさらりと流れるロングヘアも、夢に出てくるほど目に焼き付いた。

 問題を解いて一緒に回るだけで、気付けば憧れになってしまっていたそうだ。


 だけれども引っ込み思案の花栗さん。

 違うクラスに押し掛ける勇気もなく・・・。

 前期試験の結果を見て、九条さんの成績に驚愕したらしい。

 あの人が秀才だなんて!

 でも同じクラスになれば、お近づきになれる機会があるかも!?

 そしてお近づきになるには自分も努力しないと!


 そう考えて頑張った。本当に頑張った。

 嫌いな勉強をやりまくって、部活を休んでも勉強に費やして。

 そうして何とか、トップクラスに滑り込むことができた。

 クラス分けの結果を見て、自分の努力した道や、憧れの人に近付けることに涙したそうな。

 そしていざ、2年生が始まってみれば。

 あとは御子柴君と同じ状況だったらしい。

 だから俺に嫌がらせをして、九条さんと距離を取らせようと考えたと。



 ◇



「わ、私も・・・せめて2番で良いから、九条さんとご一緒させてください・・・」



 真っ赤になって俯いて。

 それでも言うべきことは言い切った花栗さん。

 一方、そんな展開になると考えていなかったであろう九条さんは、どうして良いのか分からずオロオロしている。

 その気持ちは分かる・・・俺もオロオロしたい。

 つーか、これ!!

 どう収拾つけんのよ!!



「なぁ京極・・・」


「どうした?」


「教えてくれ。お前と九条さん・・・付き合ってるのか?」


「は?」


「え?」



 その質問に、俺と九条さんが同時に反応してしまう。

 ああ、そうだよね。それ、知りたいよね。

 うん、君たちの立場なら当然、知りたい。

 俺がずっと九条さんと一緒にいたら付き合ってるように見えるよね。

 だからこれまで俺や九条さんへのアプローチも無かったのか・・・。

 いや待て、2番って考え方もあるんじゃねぇのか?

 やっぱわかんねぇ・・・。


 しかし、本当のことを言ってしまって良いのか?

 今なら勘違いしてくれそうだ。

 いやしかし・・・ラリクエ攻略の観点からは・・・。

 だがBL・・・どうすりゃいいんだよ・・・。



「俺と九条さんは付き合ってない」



 半ば自棄だ!!

 だって無理!!

 これ以上、誤魔化すの無理!!

 九条さんと橘先輩の相手だけでも大変なんだ!!

 このふたり相手に付き合ってるフリとか誤魔化すとか、できるわけねぇ!!

 もうどうにでもなれ!!


 そう、俺は断言した。

 恐る恐る、皆の表情を見てみると・・・。

 暗澹とした表情から一転、希望の光を見出したとばかり嬉しそうな顔をする御子柴君と花栗さん。

 愕然とした表情を浮かべる九条さん。

 いやね、九条さん。事実でしょ!?

 あなたがびっくりするところじゃない!

 無言の抗議みたいな目つきでこっちを見ない!!

 


「え? 本当か!?」


「ほ、ほんとうですか!?」



 御子柴君と花栗さんが乗り出してくる。

 うん、言質取りたいよな、そりゃ。



「それは違・・・」


「本当だよ。単なる友達」



 九条さんが慌てて否定しようとしたところに、俺は言葉を被せた。

 再度、恨みがましい視線を俺に向ける九条さん。

 いやだから事実でしょ!?



「え、そ、それなら・・・1番になれる可能性が・・・」


「わ、私も1番になれるかも・・・!?」



 ワナワナと御子柴君と花栗さんのふたりが打ち震える。

 ん? 九条さんもワナワナと・・・。



「駄目です!! わたしが!! 京極さんの1番になるのです!!」


「うわぉ!?」


「「!?」」



 いきなり九条さんが叫んだ。

 御子柴君も花栗さんも、こんな九条さんを見たことがないのでびっくりしている。

 俺もびっくりだよ、何言ってんの九条さん!?



「わたしが、ずっと一緒なのですから!!」



 ふたりを威嚇するように九条さんが俺の腕を取る。



「ちょ、ちょっと待って!!」



 俺は慌てて九条さんの身体を引き離す。

 ものすごく不満気な、怒った顔で俺を見る九条さん。

 やめて・・・その顔・・・怖ぇよ・・・。



「落ち着け、お前ら!」



 どうすんだよこれ!!

 余計、こじれた気がすんぞ!?

 フゥゥ、とエサを狙われて威嚇する猫のような九条さん。

 物欲しそうな顔で俺を見る御子柴君。

 そんな表情も素敵、と、うっとり九条さんを見つめる花栗さん。



「とにかく待て。まず整理しようぜ」



 いや内容は分かってんだけどさ。



「九条さんは俺の1番になりたい」



 九条さんが嬉しそうに頷く。



「御子柴も俺の1番になりたい。けど叶わないなら2番でもいい」



 御子柴君は真剣な表情で頷く。



「花栗さんは九条さんの1番になりたい。けど叶わないなら2番でもいい」



 花栗さんはうっとりしたままで頷く。



「・・・俺は誰も1番にしたくない。以上! 解散!」


「「「待って!!」」」



 俺が立ち上がって教室を出ようとすると、3人が飛びついて来た!



「おい京極! なんでお前、俺の気持ちを無視するんだ!!」


「俺は中学生で恋愛したくねぇんだよ!!」


「なら嫌いとはっきり言ってくれ!」


「・・・(人間として)嫌いじゃないから困るんだよ!!」


「!?」



 あ・・・心の声、言わなきゃ駄目じゃん!



「・・・京極さん。どうしてそんなに浮気症なのですか・・・」



 俯いてお怒りの九条さん。



「京極! やっぱり俺、可能性を信じて良いんだな!?」



 喜びに満ち溢れる御子柴君。



「き、京極さんが選ばないから、私の気持ちも宙ぶらりんですぅ・・・」



 恨みがましい雰囲気の花栗さん。



「ああもう! もっかい座れ!!」



 ◇



「だからよ、結論を急ぐからややこしくなんだよ」



 俺は大人しく座った3人に語り聞かせていた。



「俺は中学で誰とも恋愛しねぇ。お子様身分で伴侶なんて決めても良いことねぇんだと考えてる」



 皆、黙って聞いている。

 お子様と、敢えて貶めても不満げな雰囲気はない。

 あ、俺もお子様だった!



「だけどよ、その気持ちをずっと貫けんならお子様の気持ちじゃなくなる。もしお前らが大人になるまで同じ気持ちなら、俺も間違いなく応えてやんよ」



 シリーズ先送り☆

 九条さんには暗に卒業まで、と釘を刺してみる。

 つか、ホントに俺、偉そうだよな?

 もうキレて「嫌い!!」ってどっか行ってくれねぇかな。



「だからよ、中学の間は友達で良いじゃねえか。好いた惚れた嫌われたでいがみ合うより、よっぽど良い。相手の気持ちを尊重して、仲良くやろうや」



 というわけで無理やり作った落とし所。

 みんなトモダチ作戦だ。



「・・・」


「・・・」


「・・・」



 き、気まずい。

 さすがに無理があったか?



「お、俺は」



 勇気ある御子柴君が沈黙を破った。



「友達でも良い。受け入れてもらえなくて疎遠になるくらいなら、友達でいさせてくれ」



 俺は頷く。

 やったぜ! BLフラグ回避だぜ!



「わ、私も・・・その、一緒に居られるなら・・・お友達で良いです・・・」



 花栗さんも受け入れてくれた。

 まぁ、今まで話も出来なかったんだから、一歩前進だよね!



「・・・」



 そして問題の九条さん。

 正直、ここでブチ切れてすべてをひっくり返してもおかしくない。

 いや、ひっくり返したら九条さんが不利なのか?

 ああもう分からん!



「わたしは・・・」



 九条さんがキッと俺を見た。

 鋭い目つきで。

 すんげぇ意思力を感じる。

 さすがヒロイン!

 ・・・問題はそれが俺に向いてる怒りってことだ。



「京極さんの、1番になります。これは譲りません。今はお友達でも、必ずです」



 挫けない強さ、素敵!

 いやね、男冥利に尽きるよ?

 こんなに好意向けられて、嫌な気持ちになるはずがない。

 ないんだけどさ・・・。

 俺は死にたくねぇんだ・・・。



「じゃ、この4人皆、友達だ。よろしく!!」



 いや、もう今更だ。

 この場がお友達で終わるならそれで良い。

 このまま卒業まで突っ走ればどうにかなる。

 ・・・なるよな?



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