ハチャメチャの中学2年生

022

 この世界に来てから1年が経った。

 自分を鍛える闘いだったから長かった・・・。

 まだ少なくとも2年は準備にかかるのか・・・。


 俺は2年生に進学した。

 すっかりこの生活にも慣れてしまったけれど、進学すれば大きく環境は変わる。

 立場も変わるし勉強内容も変わる。

 だけど俺の目的や目標は変わらない。

 嫁の雪子や息子の剛、娘の楓に会うためにも走り続けるのだ。


 最初にクラス替えがあった。

 桜坂中学はかなりレベルの高い進学校なので学習レベルでクラスを分ける。

 成績上位の俺と九条さんは当然のように同じクラスに。

 2年生以降は半年に一度、こうしてクラス替えを行うそうだ。



「成績順なら卒業まで同じクラスですね」



 と九条さんが嬉しそうに言った。

 うん、基本ぼっちの俺だから一緒であることは嬉しい。

 昨年の座席は最初に適当に座った場所でそのまま。

 今年は窓側の一番後ろに座った。ぼっち環境を構築するために。

 九条さんとご一緒してるのって、既にぼっちじゃないって?

 気持ちはぼっちなんだよ!

 というかぼっちを維持しねぇと将来がヤバいんだよ!


 とにかく。

 座席は自由に入れ変わって良いらしいのだけど、慣例として半期に1度しか席は動かない。

 だからこの4月の最初が肝心だ。2年目だから、皆、試行錯誤して仲間で固まっている。

 俺の隣には当然のように九条さんが座った。

 これはまぁ、拒否できん。

 だって俺の近くでどこに座るのかずっと見てるんだもん。

 去年はお互い知らなったから遠いところに座っていたのだけれど。



「京極! 同じクラスになれたぜ!」



 と、俺の席の前に座ったのはイケメン御子柴君。

 ・・・バレンタイン以来ですね。

 ちょっと波乱の予感がする。



「九条さん。よろしくお願いしますね」



 斜め前、九条さんの前に座ったのは・・・誰だ?



「花栗さん、こちらこそよろしくお願いします」



 聞いたことあるような気がするが・・・忘れた。

 九条さんの知り合いなんだな。

 これから知っていけば良いだろう。


 クラスメイトが入れ替わったので改めて自己紹介タイム。

 昨年のように、名前+自己PRではなくて、名前+部活+PR(あれば)となっていた。

 担任の指示で俺の対角から順に紹介が始まっていく。

 窓側の俺がいるあたりは最後になる。



花栗 若菜はなぐり わかなです。電子研究部です」



 三つ編みの眼鏡っ子、花栗さん。

 電子研究部とは、リアルでいうパソコン部的なやつだ。

 ラリクエの世界はかなり情報技術が進んでいる。

 リアルでなかなか連携できていなかった課題。

 個人情報の保護と、情報の信頼性と、匿名性による暴力と。

 そういった課題がすっかりクリアされて有機的に電子デバイスが連携している。

 研究しようと思ったら、本当にいろいろなことができそうだ。



「九条 さくらです。弓道部です。今年、弓道部で日本大会を目指します」



 おおお、と声が上がった。

 昨年の弓道部の活躍は垂れ幕もあったので誰もが知るところだ。

 彼女はその中心人物なのだから。

 「あの活躍した人?」「俺、ファンなんだ」と。

 ひそひそと聞こえる声は、少なくとも昨年のように悪意のあるものではなかった。

 これもまた、彼女自身が掴み取ったものなんだろう。



御子柴 諒みこしば りょうです。陸上部レギュラーです」



 さわやかイケメン、栗毛色の髪がさらりと格好良い御子柴君。

 一部の女子から「きゃっ」と声が上がるあたりリア充の雰囲気。

 ・・・バレンタインの一件がなけりゃ、素直に良いなって思えるんだけどな!



「京極 武です。具現化リアライズ研究同好会です」



 さらっと、ね。

 何も余計なことは言わねえぞ、俺は。

 「何してる部活だっけ?」「根暗っぽい」・・・さらっと陰口。

 うん、モブには本望な感想です。

 ・・・九条さん、言ってる人を怖い顔して探さないでね?



 ◇



 部活動は4月中が主な勧誘期間となる。

 というか部活所属必須な桜坂中学は4月中に入部届を出さないと内申に響く。

 だから1年生たちは早々に決めてしまう。

 帰宅部希望のやる気がない一部の生徒が、迷った挙句、リア研のような日陰の部活に所属するのだ。


 で。

 俺は飯塚先輩の意思を継いでリア研の部室で待機していた。

 誰もいない、誰も来ない部室。

 うん、飯塚先輩が居ないと別空間のようだ。

 ・・・さすがに寂しい。

 そういえば、ここの机からテクスタントで世界語のホログラムチャットができるところに接続できるんだっけ。

 テクスタントをセットして・・・あ、確かに外部接続がある。

 ええと「世界語マスターへの道」ってやつかな。

 選ぶとチャットルームが表示される。

 ああ、この中から選んで入るのか。

 「まだカタコト初心者向けです」

 「ビジネスで使う方、練習しましょう」

 「京極君、待ってます」

 ・・・うん?

 待て、なんか出会い系みたいな書き込みがある?

 しかも俺の名指し? ・・・接続してみるか。


 部屋を選ぶと全画面表示になって相手の顔が表示される。

 表示されたのは・・・飯塚先輩の顔だった。



『あ、良かった~! 来てくれたよ~』


「先輩! もしかしてこのために設定を?」


『うん、そうだよ。これで勉強のお手伝いできるね』



 なんて良い先輩なんだ!



「でも先輩、高校の部活は?」


『私、高校で世界語部に入ったんだ。だからこうやって世界語の練習できるの』



 おお、それは良い。

 リア研は居場所だったろうけど、進学して環境が変わったのだから。

 飯塚先輩も羽ばたいてほしい。

 得意分野で過ごせるなら、もっと彼女は躍進すると思う。



「えっと、それじゃ」


『うん。そっちより授業が終わる時間が30分遅いから。これからも16時くらいからできるよ』


「ありがとう先輩!」


『ふふ。実はね。京極君くらいスピーキングできる人が多くないんだ』


「え? そうなんだ」


『まだ始まったばかりだからはっきりは分からないけど。ディベート大会出場経験者って数名だし』


「そっか。とにかく先輩が一緒に勉強してくれると俺も助かる!」


『うん。じゃ、これからもよろしくね』



 まさか先輩の仕込みが早速生きるとは。

 それも俺にとっては最高のかたちで。

 こうして、引き続きマンツーマンでの世界語講座が継続されることになった。



 ◇



 俺が住んでいる寮は卒業した人、入学した人で数名が入れ替わった。

 年初はルールが身についておらず、やらかしをする人が多い。

 食事の時間に遅れたり、入浴をしそびれたり、消灯後に部屋を移動したり。

 この時期はおばちゃんもいつもより張り切って、寮生の監視をしている。

 昨年もこんなだったなぁ、と思い出したりして。


 一方、2年生の俺は慣れたもので九条さんとふたりで夕食の食卓についていた。

 寮の夕食提供開始時刻は18時ちょうどだ。

 昨年度は気分で19時前に来ていたりもしたのだが・・・。

 バレンタイン以降、俺が遅いと九条さんが部屋へ呼びに来るようになってしまったのだ。

 呼ばせるのも悪いし格好良くない。

 開始時間ならわざわざタイミングを合わせる必要がないから、自然とこの時間に落ち着いた。



「ところで、今年の弓道部はどう?」


「はい、私が部長になりました。工藤さん、大月さんも副部長を担ってくれまして」


「そのふたりって大会で団体戦を組んだ人?」


「そうです。一緒に頑張ってくれた方なのです」



 話をする九条さんの口調は楽しそうだ。

 うん、良い関係を築けたみたいで何よりだ。



「新入生はどう?」


「昨年と同じくらいの加入者です。でも昨年よりも雰囲気が良いですね」


「・・・橘先輩、頑張りすぎてたからね」


「わたし、橘先輩みたいに上を目指す指導ができるか心配で・・・」



 橘先輩の空回りから始まった昨年度の弓道部。

 そこから九条さんが仲間を作り無事に立ち上がり、橘先輩達と切磋琢磨する空気を作り出し。

 見事、弓道部全体で団結して大会で結果を残したのだ。

 単なる仲良し倶楽部では、切磋琢磨する空気を作るのは難しい、ということだろう。



「大丈夫だよ。んー、九条さんって橘先輩と勝負したじゃない?」


「・・・はい」



 九条さんが内容を思い出し複雑な表情を浮かべる。

 ・・・うん、言いたいことは分かるけど、本題はそこじゃないからね。



「あんな感じに目標をしっかり作れば良いんだよ。走るにはゴールが必要だから」


「ゴール、ですか」


「うん。大会に出るって最終目標だけじゃなくて。もっと身近なゴールを手前に置くんだ」


「はい」


「目に届く範囲のことなら、皆、頑張れるからね。極端な話、晩ごはんを賭けて、とか」


「ふふ。それじゃ、京極さんをたくさん賭けなければ、わたしは頑張れませんね」


「おいおい。これ以上恋敵ライバル増やすと橘先輩に怒られんぞ」



 ちょっと悪戯めいた表情で舌を出す九条さん。

 随分と成長したなぁ。昨年の今頃が嘘のようだ。

 ・・・と勝手に親目線で感動しておく。



「京極さんの、具現化研究同好会はどうですか?」


「あ~・・・うん。お察しのゼロ人だよ・・・」


「え・・・!? それでどうやって部活動を?」


「うちってマイペースに具現化やAR値の記事をスクラップしてきてまとめるからね。趣味の延長だよ」


「・・・京極さん、そういうことがご趣味だったのですか?」


「いや・・・というのは建前でさ」


「はい?」



 もう隠すのも面倒だ、と俺はリア研の実体を説明した。

 だって対外的に「活動してません」なんて言えないし。



「そういうご事情だったのですね。でもそうすると、京極さん、ずっとお勉強です」


「う~ん、こうでもしないと俺、成績を維持できないから・・・」



 昨年度末の試験結果は中間試験と同じく、九条さんが1位、俺2位。

 2位が維持できているだけマシなのだが、これだけテコ入れして九条さんに追いつかない。

 勉強のペースを落としたらどうなるのか考えるだけでも恐ろしい。


 食べ終わって席を立とうとしたところ。



「京極さん、あの、後でお部屋にお邪魔しても良いですか?」


「え? うん、良いけど・・・」



 珍しい。

 九条さんは俺が入浴前の時間に課題をやっていると知っているはずだ。

 その時間を割いてくれというほどの用事なのか。



「大したお話ではないので、すぐ終わると思います」


「? 分かった。部屋で待ってるよ」



 ◇



 待つこと5分。

 控え目なノックとともに、九条さんはすぐに部屋へやってきた。



「お邪魔します」


「どうぞ」



 例によって何もない部屋だ。

 座布団を置いて九条さんに座ってもらう。

 俺はベッドに腰掛けて話を聞く。



「あの、実はですね」


「うん」


「PEの登録をお願いしたいのです」


「PEの・・・」



 ちょっと真剣な表情の九条さん。

 緊張してる? 俺が断ると思ってるのかな・・・

 やんわり?と拒絶していることも察してるから尚更か。


 そういえば、俺がPEを持っていないせいで何度か九条さんとすれ違った。

 バレンタインの時とか。

 九条さんと橘先輩が情報共有をしているのは感づいていた。

 当たり前か、イマドキの子ならスマホ改めPEを持っている。

 俺がPEを入手したのだから、連絡ができるようにしたいのは当然だ。



「うん、いいよ」


「本当ですか!!」



 ぱあっと花が咲いたように笑顔を浮かべる九条さん。

 ああ・・・可愛いよその顔。やっぱヒロインだよ。一枚絵になるシーンだよ。

 つーか。

 こんだけおっかなびっくりするくらい、俺の拒絶は効果を発揮しているはずなのだ。

 それなのに、臆病になりながらもこっちに来る。

 一途すぎるぜ・・・。

 九条さんの心情を想像するとドキリとする・・・やばい、絆されそう。

 駄目だ、考えるな! 攻略されるんじゃない!

 俺は友達を登録するだけなんだ!



「それじゃ、登録するから・・・」



 俺は橘先輩に教わったとおり、登録モードを起動してPEを差し出した。

 九条さんのPEが重なる。

 端末に「九条 さくら」という名前が表示された。

 ラリクエの主人公の名前を、端末越しに見る。

 30周のプレイで幾度となく目にした文字だ。

 しかし今は本人が目の前にいる。

 少しだけ頭が混乱した。



「はい、終わりました。音声と、文字と、ホログラムチャットまで解放しておきますね」


「ああ、うん。俺もやっとくよ」


「ありがとうございます! 後で、試しに連絡しますね!」



 記憶とのギャップに少し気後れしている間に、九条さんは部屋から出ていった。

 俺はPEに登録されたふたりのユーザー名を眺める。

 こんな振り回される調子で、本当にラリクエ全体を攻略できるのだろうか・・・。

 目標はAR値の件だけじゃない。

 ラリクエの主人公6人全員に近づくという目標。

 それがどれだけ大変なことか、現時点で既に察してしまっていた。



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