第6話...父の我儘

 駅構内を二人で走り、人をギリギリの所で避け、俺達を呼び止めるバットを持った男達から逃げる。

 手振りを滑り、跳躍する。地面に着地したと同時に駆け出し、 差を離し続ける。

 撹乱に応じて建物の上に乗り、身を隠したりもするが、一定感覚で俺達を見つけてぶっきらぼうにバットを振るう。



 一度でも触れられた場合はGAMEOVER。次のチャンスはゲームでない限り、存在しない。

 自分だけのエゴイズムを為せる、願い少女は所詮は噂。

 が、顔写真も表に広まった今、俺はどんな核兵器を持つ各国の首脳達寄り恐ろしい存在であろう。逆に未来はあらゆる人の希望。



「見えた、もうすぐだ」

「先回りされてます」

「何処から俺達を見張っている奴らがいるらしい」



 疑問点一

 俺達は集合場所を一番と二番に分けた。一番は通過点、二番がゴール。

 だが、此奴らは俺達が口に出した一番に先回り......どう言うことだ?旅館で此奴らの仲間が張っていたのか?まぁ、ゴールに先回りされてない時点でお粗末。



 疑問点その二

 彼奴らが俺達の移動経路を知っている動き......不気味、不安を煽る行動だ。

 此処で予想外の行動は何だ?殴り合ってみるか?ダメだ。

 別れよう、俺達との行動は危険過ぎる。



「悠来、ここらでお別れだ」

「はい!ありがとうございました。また、会いましょう」

「おう!」



 ギアを一段階上げ、地面を蹴って加速する。

 マップを確認しながら、木が植えられている花壇を飛び超える際に、コートを脱ぎ捨て、旅館の娘さんに貰った大きめコートを未来を隠す様に羽織る。

 未来を片手で抱えて着替えて羽織るのは難しいが、今は文句の一つも言ってられない。



「コレで変装完了だ」

「酔いそう......」

「十キロ休憩なしで走らせておいて文句かよ」

「そろそろ休憩......して......」



 階段の手摺を滑り、公園に到着。ベンチに座り込み、息を整える。

 体力を温存させ、最短ルートを掛けてきたが、流石に体力の限界を迎える。

 先ず、彼奴らは俺を潰しに来るはずだ。俺が未来に命令し、願いを叶えれば彼奴らは死ぬ可能性だって十二分ある。



 サイトには未来が願いを叶えられる条件が書いてあった。

 未来は、誰かが口にした願いしか叶えることが出来ない。扉に掘ってあった文字も、他の願いも誰が口してようやく叶う。

 この誰かは未来は入らない、だから未来は自分の願いを叶える事が出来なかった。



「君!願い......はァ......はぁ......しっ......少女だね」

「見つかったか!」



 拳を振るおうとする俺を、未来が静止する。当たり前だ、誰もが彼奴らの味方な訳じゃない。

 俺達の目的は人の願いを叶えるのが、大前提にある。

 俺は未来を見とる事が、未来は俺の願いを叶える事が最終目的。彼奴らに捕まれば、俺達は目的を失う事になる。



「息子を、助けて欲しい!何だってする!金なら幾らでも、この命さへ捨てても良いんだ!!」



 震えた声を出して、神に祈る様に、頭を下げて未来に手を合わせて祈る。

 異様な光景だ。父親が子供の為にプライドも捨て、一回りも若い未来に、頭を地面を擦り付けて懇願する。



 高いスーツを着込んでいる事から社会の地位が高いのは分かる。でも、息子......にここまでする意味が分からない。

 もしかすると、息子が途轍もなく金になる才能があるんじゃないのか?だったら、この命と金なら必要ないって事か。



「息子は、有名バンドの人間だった。彼奴は天才だった。そう、躾てしまった。私は、狂わせてしまった」

「死んだ人間か?」

「自殺した。でも、今は病院で延命治療を受けている」

「金が欲しいのか?あんたは」

「違う......」



 歯を食いしばって、男は否定した。その表情に、嘘偽りはなかった。

 気に要らない、此奴の我儘が。



「変えてあげたいんだ。才能を削り切った後で、幸福は迎える。それは、悲し過ぎる......と。才能は磨く物、だが息子は違う。削るものだった」

「良いんじゃないか?無かったんだろ?削った後で、幸福何て。我儘だろ、全てアンタの」

「そうだよ。息子には、生きていて欲しい!助かって欲しいんだ!!」

「分かりました。叶えましょう」

「は?......良いか、、、」



 もう、この旅も終わる。長い気もするし、すごく短い気がした。

 あと一回か、何故だかそう............確信した。



「未来!!」

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