第2話...怨みの願い

 細い歩道を二人で歩き、困っている人を探す。「願いを叶えます、だから願いをどうぞ」何て言ったら野次馬共でキリがない。

 病室も同様にあの男の様に探す者が現れ、道端で祈る寄りも最悪なケースに発展しかねない。



「喉乾いたし、自販機でジュースでも買おう」

「無駄使いですか?」

「どうせお前はメロンだろ?」

「う、うん。いや、違います」

「ハイハイ」



 メロンアイスのイラストが描かれた缶を両手で抱え、大事そうにちびちびと飲む願い少女に冷たい目線を向けながら、温泉都市のパンフレットを捲る。

 川の様に温泉が流れ、その上に石畳の階段が多くある道なみ。都市と言っても温泉の効能で市として分けられ、その間を森林や木製の橋で繋いでいる。



 大きな温泉の上に街を作り、宿屋や寿司など日本の文化が多くある。

 願い少女の緑色の髪がそよ風でユラユラ揺れ、温泉街独特の匂いが鼻を擽る。不思議と重かった足取りが軽く、心地良い。

 久しぶりの気持ちに、生きてると心から思える。



「気持ち良さそうですね」

「そうだな。俺も結構なストレスの日々だったから、清々しい」

「気持ちぃ」

「あっ」



 ヒーローが映る家電量販店前に置かれたテレビに視線を奪われ、ツイ、終わるまで見てしまった。

 願い少女も食い入る様に見て、感想を言い合う。昔の友人の様に。

 ある時、気付く。願い少女の名を、俺は知らない。



「願い少女って、名前があるの?」

「ないです」

「なら、名前を付けてやろう」

「必要ですか?」

「呼びにくい」

「君は君で充分ですよ」

「願い少女は長いし、正直痛い」

「......そう、ですか......」



 ない胸を抑え、少しションボリする願い少女を見ながら、名を考える。

 名前には凝る方で、結構意味を付けたがるタイプなのだ。普通だが、願い少女のおかげで未来に生き抜く事が出来る人がいただろう。

 だから、俺はそれを含めて、名を告げる。



「じゃあ未来」

「安直ですね」

「何が安直だ。人に貰った物にケチを付けるとクズになるぞ」

「そうなんですか?!」

「いや常識」



 そんなくだらない茶番を二人でやっていると、少し寂れた公園に未来が視線を向けた。

 一人で眼にタオルを掛け、明らかに疲れている女性がそこにいた。よく見ると体に紫色の痣があり、そんな女性の姿は痛々しい。

 駆け寄る未来を追い、俺も公園に入ると女性が座っているベンチに虫が集り、座っている女性に少し引く。



「辛そうですね」

「なんだ?何かくれんのか?」

「開幕この発言、此奴ヤバいぞ」

「貴方の願いを叶えて差し上げましょう」

「じゃあ父を、今日殺してくれ。死因は病で、ポックリな」

「良いでしょう」



 神に願う様に手を合わせ、両目を瞑ると未来の周囲に黄金色の粒子が現れ、消える。

 そんな幻想的な光景を見た女性は腹を抱えて笑い、礼をする。

 数分間、女性と未来は話していたが、女性はフラフラと何処かに行ってしまった。

 俺はそんな光景を見て、少し勿体ないと思っていた。

 人を殺す、復讐程度に一度の奇跡を願うなら、今後の人生の幸福を祈って貰えば、復讐心や殺意さへ薄まって、何れ消えてしまう。



「虐待?」

「そうでしょうね。金庫を眺めていて笑うなら、私は娘を見て、笑います」

「予約取れたけど、今から行く?」

「行きましょう。話が重すぎて、疲れました」

「未来は体重何kg?」

「引っぱたきますよ?」

「山だから、背負ってやろうかなっと」

「43kgです」

「かんばるか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る