ネガイの形
稀魁紅魔
第1話...願い少女
霧雨の電車内、オレの前の席のパンク系に似た服装をした中世的の男性が語りかけた。「聴いた事はあるか?何でも人の願いを叶える少女を」と。
そんな突拍子のない言葉に、座席に座っている三人が反応するはずがない。
当然だ。胡散臭い話しを、小学生の様に眼を煌めかせた男が言っているなら、誰もがヤバイ奴だと、頭の可笑しい奴だと決め付け、聞かなかったフリをしていた。
が、死んだ夫婦が蘇ったとニュースで放送され、インターネットで拡散されていなければ反応はしなかった。
「どうしましたか?」
「気になるのか?」
「っ......」
「気になるな。その話」
「オレは病院で見ちまったんだよ、少女が死んだ夫婦を生き返らせた瞬間を」
ありえないとも言いきれない情報はオレに取って、今一番必要な物。
もし、願い少女の居場所が分かるのなら、電車内に乗っている場合じゃない。
次の駅で降りて、願い少女を探しに行こう。
もしも願ってくれるなら、行方不明になった
高鳴る心臓の鼓動音が五月蝿くて、胸を何度も叩き、落ち着かせる。
「お前は何か夢はあるのか?」
「いや、オレはないかな。今」
「お嬢さんは?」
ニっと笑う男に対して、長い黒髪のセーターを着た女性はモジモジと体をくね、顔を赤面させてゆっくりと、小さな声で答えた。
「......好きな人の病気を治したいです、私は......」
その言葉を聴いた男の隣の席に座る若いベースを弄っていた女性は眉毛を八の字にして、顔を歪ませた。軽蔑ではなく、何か嫌な記憶を思い出したかの様なさびいしい顔をして、そっぽを向いた。
次の駅でオレが降りる際、小さなキーホルダーを男から貰った。改札口を通ると小さな女の子にぶつかり、女の子は持ち物を鞄から零してしまった。
「すみません」
「こちらこそ、見ていませんでした」
財布等を彼女の鞄に入れていると、ある事に気付く。それは彼女の眼の黒目部分、瞳孔が白に染まっていたからだ。
________白内障?オレと近い歳で?
荷物を手渡し、気付いた事を口に出した。
「手の数字は何です?」
「願いを叶える事が出来る、数。この数字がゼロになると、私は死にます。一つ願いを叶える度に、私の身体は死に近ずきます」
「__何で、そんな事を?」
「死んだ母の願い......だから?ですかね」
そう、願い少女はあどけなく微笑んで見せた。
残りカウント数が10の手を取って、先程の尋ね人の話をしたが「その人達は、何処ですか?」と駅を見渡した。
「あっ、三人と貴方なら、喧嘩になっちゃいますね」純一無雑に微笑みオレの手を取り、立ち上がった。
「質問、良いか?」
「構いませんよ」
「死ぬのが、怖くはないのか?」
「当然、怖いですけど、私自身の願いを叶える事ができません」
頭の中に一番に浮かんだのは、"残酷"の二人文字だった。
____皮肉だ。他人の願いは叶える事が出来るのに、自分の願いは叶えられずに、最期は他人の夢何て叶えて死ぬ。
余りじゃないか。救いがなさ過ぎる。
頑張って頑張って、自分の命を引き換えて死の恐怖と立ち向かった先に、他人の願いと言うだけで救いもなく、自身の願いは叶うことなく死んで逝くなんて。
「生憎の事なんだけど、金は腐る程ある。君の願いを叶える事ができる。君の願いを叶えるから、オレの願いを一つ、叶えてくれ」
「私の願い?」
「何か、あるだろ?」
「独りも寂しいと思ってましたので、私の死を見とってください」
「分かった」
この物語は、人の願いを叶えて、オレ達二人が再び歩き出す物語。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます