外れスキルで異世界版リハビリの先生としてスローライフをしたいが、異世界も激務のようです〜チーム医療で様々な問題を解決します〜

第262話 目覚め

「おい、ケト！　どうしたら元に戻れるんだ？」

「お前はここでも勝手だな……」

「いいから早く俺を戻してくれ！　俺が行かないと家族が……あいつらが死んでしまう」

　俺はケトに近づき必死に頼んだ。謎の空間にヒントがあるとすれば、目の前にいるケトしかいないのだ。

「俺には――」

「お願いだ！」

「……わかった」

　俺の声が届いのか自然と視界がぼやけてきた。

「助かったよ！　また会いに来るよ！」

「いや、もう来なくていいよ」

「何でそんなことを言うんだ」

「ans€6〆tdy」

「ん？　なんて言ったんだ？」

　少しずつケトの声は遠くなり、何を言っているのか聞き取りにくくなってきた。

「おい、また来るからな！　絶対来るからそんな顔するなよ！」

　視野がぼやける中でケトはどこか悲しい顔をしてこちらを見ていた。

「俺にはもう家族がいないんだよ。あれは俺の家族ではなくてお前の家族なんだ……」

♢

「お兄ちゃん！」

　耳元から聞こえるミィの声に俺は目を覚ました。

「ミィ……か？」

「起きるの遅いよ！」

　突然俺の上に乗ってきたミィにどこか懐かしさを感じた。

　そういえば、小さい時に聖も同じような起こし方をしていた気がする。

「急に乗ったら痛いよ？」

「お兄ちゃん十日間も寝ていたんだよ！　早くみんなを手伝ってあげて」

「えっ？　十日間も寝ていたのか？」

　俺はミィを退かそうと体に触れると腕に違和感を感じた。

「何だこれは？」

「アリミアちゃんのスキルで点滴っていう栄養剤らしいよ」

　俺の腕に付いていたのは点滴だった。ただ、前世の点滴とは異なりクレンメやチャンバーが存在していなかった。

　クレンメとは車輪のようなものが付いており、そこを調整することで点滴の通る時間を調整している。

　そしてチャンバーという筒の中で点滴が落ちる速度を確認する。

　腕に付いている点滴はそれが一切付いておらず点滴のパックが腕に貼り付いている。

　簡単に言えばスライムのようなものが腕にくっついているような感じだ。

「それで今はどんな状況なんだ？」

「魔物が王都内で大量に発生しているの！」

「ん？　発生している？　どういうことだ？」

　ミィの話では外から魔物が侵入したわけでもなく、突然王都内に魔法陣が現れてそこから魔物が出てきているらしい。

「それでみんなは治療に出回っているってことか」

「うん」

　俺は異世界病院で寝ていたのではなく、孤児院のベッドに寝ていた。

　いつ目を覚ますのかわからないのであれば、設備が整っている異世界病院で寝ているはずだ。

　それなのに孤児院で寝ているということは、異世界病院が稼働していることになる。　

「おい、ケント大丈夫か！」

　そんな中、突然扉を開けて入ってきたのはマルクスだった。

「なんとか大丈夫です」

「なら早くその首輪を自分で取れないか？」

　俺は自分の首元を触ると何かがついていた。

　あっ……そういえばミィを庇った時に強制進化の首輪をつけられたんだ。

　俺は異次元医療鞄を発現させるようにスキルを発動させた。

「あれ……？」

「どうしたんだ？」

「なぜかスキルが発動しないんです」

　俺はスキル【理学療法】が発動できなくなっていた。