第261話 記憶との対話
「お兄ちゃん早く起きないと仕事に間に合わないわよ」
「んー、まだ寝る」
「まだ寝るじゃないわよ!」
俺はいつものように布団を剥ぎ取られた。
そういつものように……。
「
「はいはい、その言葉は聞き飽きました」
聖はいつものように俺の足を掴みベッドから落としてきた。
「痛たたたた……」
「本当に寝起きが悪いのはどうにかならないのかしらね。私が離れても大丈夫なの?」
「これでも一人暮らししていたんだぞ!」
「知ってるけどさ……」
そうだ……俺は大学生の時に一人暮らしをしていたが、妹と一緒に住むために実家に帰ってきたんだ。
それなのに肝心の妹は一年後に進学のために家から離れることになった。
また俺達は一人暮らしになってしまう。
「聖も今日卒業式なんだろ! 早く行かないと間に合わないぞ」
「お兄ちゃんが早く起きないからでしょ」
「すまないね」
「卒業式くらい仕事を休めばよかったのに。私達唯一の家族なのに……」
「それもすまない」
「どうせまた仕事に追われてるんでしょ! じゃあ、私行ってくるわ」
「ああ」
俺は聖を見送るために玄関に向かった。
「お父さん、お母さん私もう卒業だよ!」
聖は写真に写っている父と母に声をかけていた。
俺の父と母は俺が大学生の時に交通事故で亡くなった。だからこそ大学卒業と同じタイミングで実家に帰ったのだ。
高校生の妹を実家に一人で住ませるわけには行かないからな。
それから一年が経過した。
「お兄ちゃん行ってくるね!」
玄関の扉を開けたと同時に光が俺を包み込んだ。
♢
「お前の家族は優しいやつばかりなんだな」
「ん? 聖なのか?」
「何を言ってるんだ」
俺はゆっくりと目を開けるとそこには俺が立っていた。
正確に言えば新しい体の俺だ。
「俺はケトだ」
「ああ、すまない」
俺は自分の体を見るとどうやら体は相澤健斗だった。自分の体なのにどこか懐かしい感覚にまじまじと見てしまった。
「俺はさっきまで寝ていたはずだが……」
「いや、今も寝ているよ」
「どういうことだ?」
「お前はあの時あいつを殺さなかったからな」
次第に思い出す記憶に俺は頭を抱えた。
そうだ、俺は強制進化の首輪をつけられたんだ。
「俺また死ぬのかな?」
「復讐してないのに何言ってんだ?」
「俺は復讐するつもりはないぞ? まぁ、誰が首輪を着けているのかはっきりしたからな」
「なら尚更殺さないといけないだろ! クロスはあいつらに殺されたんだぞ!」
そんなことを言われても俺はクロスと過ごしたことがないから、そんな気持ちにはなれない。
「俺の家族とも決別して……俺には誰もいないんだぞ……」
むしろ家族と決別できたことは良いことだと思っている。奴隷として売るぐらいだし、直接会った俺だからこそあの家族がダメな家族だと理解はしている。
「それでも俺の大事な家――」
『お兄ちゃん戻ってきて……』
突然聞こえる声にどこか聞き覚えがあった。
「ミィか?」
『お兄ちゃん聞こえるの?』
どうやらミィと接続されたようだ。
「聞こえているぞ?」
『なら早く帰ってきて! 王都が大変なことになっているよ!』
「えっ? どういうことだ?」
『みんなが危ないの――』
――プツン!
「おい、ミィ! ミィ!」
接続は突然切れ、部屋には俺の声だけが響いていた。
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