第203話 ブローチの交換
俺達は冒険者ギルドに向かうと既に冒険者達が集まっていた。
「なんか大変そうだな!」
声を掛けてきたのはリモンだった。マルクスとカレンが結婚してからも、たまに顔を合わせていたが、冒険者ギルドで見るのは久しぶりだった。
「今どんな感じですか?」
そんなリモンに俺は現在の冒険者ギルドの動きを確認した。
「ん? もうケントは知っているのか?」
リモンはまだ何も聞いていないようだった。
そんな俺の様子を見てリモンが冒険者ギルドに集まった理由を説明し出した。
「冒険者ギルド側から急遽招集があったんだ。前回はこの間の依頼の時だけどこの人数は異常だよな」
冒険者ギルドには仮冒険者も含めて軽く百人は超えている。
きっと現在王都にいる冒険者達が集められたのだろう。
その中にはフェーズの元パーティーメンバーのネロやドランもいた。ネロは俺に気づき手を振っていた。
「おい、ケントとラルフちょっと来い」
中央にいたハワードが声をかけて来た。
ハワードが声をかけて来たことで、ギルド内が騒然としていた。
「おい、なぜ S級冒険者がケントと知り合いなんだ?」
「俺もなんでこんなことになって――」
正直目立つことは辞めてほしい。俺はリモンの後ろに隠れようとしたが無駄だった。
「おーい! ケントオォー!」
どんどん俺を呼ぶ声が大きくなるのだ。俺は逃げれないと思いハワードに近づいた。
「もう少し声を小さく――」
「騎士団と魔法士団には伝えたか」
「あっ……はい。あとこれを渡されました」
俺はマルヴェインから渡されたブローチをハワードに見せた。
「ははは、してやられたな」
ハワードはマルヴェインから渡されたブローチを受け取った。
「これってなんかの意味があるんですか?」
俺はハワードが言っていたことが気になり確認した。
「基本的に王族のブローチを相手に渡すということは、全面的に協力するという意味になる」
「あっ、そういえばすぐに冒険者ギルドに向かうと言っていました」
「そうか。面白くなってきたな!」
王族が持っているブローチは命同様に大事な物と言われている。
それを預けるということは、預ける人物を信用するという意味があるらしい。
そして、戦場においてお互いのブローチを渡すということは背中を預けるという意味になる。
ん?
ってことは俺は大事な物を任された伝書鳩みたいな役割をしていたらしい。
♢
しばらくすると冒険者ギルドに王族の三人が訪れた。
マルヴェイン達はすぐに受付嬢の元へ向かい、カタリーナに来たことを伝えて貰うように頼んでいた。
「お前……何を考えてるんだ」
ハワードがマルヴェインの方へ向かうと彼は笑っていた。
「ははは、これでお互い同等になりますね」
本当であればハワードがマルヴェインの指揮下に入って行動するつもりだったらしい。
ハワードの後ろにいた俺の存在に気付きマルヴェインが声をかけてきた。
「ケント、冒険者ギルドまで伝令ありがとう」
「大丈夫ですよー。どうせ俺は伝書鳩ですからね! 異世界食堂に来てもパスタのおかわりができないように伝えておく――」
「いやー、ケントすまない!」
「俺もそんなつもりはなかったぞ!」
ハワードとマルヴェインは頭を下げて謝ってきた。
「おい、やっぱケントって何者なんだ?」
「ひょっとしてどこかの有名な王族なんじゃ――」
仕返しをするつもりがなぜか王族二人に謝られることになるとは……。異世界食堂ってそんなに影響があるのだろうか。
「おい、お前らはこんなところで何をやっているのじゃ!」
そこへ入って来たのは冒険者ギルドのギルドマスターであるカタリーナだった。
「ケントがパスタのおか――」
「やっと揃ったのに何をやっておるのじゃ。 すぐに会議を行うからついてくるのじゃ」
カタリーナを先頭にハワード、マルヴェイン、セヴィオンが奥の部屋に向かって行った。
「はぁー、中々濃い人達だね」
「あんな状況下で仕返ししようとするケントもすごいよ」
ガレインから見たら俺も同格なんだろうか。別に俺は普通の人間のはずだ。
「あっ! ついでにケント、ラルフ、ガレインもついてくるのじゃ」
急に振り返ったカタリーナに俺達三人も呼ばれた。なぜか会議についていく羽目となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます