第202話 もう一つのブローチ

 俺達は騎士や魔法士がいる訓練場に向かった。訓練場にはマルヴェインから剣を教えてもらっているガレインがいた。


「おーい!」


 俺はガレイン達に声をかけると、ガレインはこちらに目を向けた。


「敵の前で余所見をするやつがおるか!」


「あっ、痛っ!?」


 ガレインは鞘でマルヴェインに頭を叩かれていた。


 いくら鞘でもゴリラに叩かれたら頭が割れるぐらい痛いだろう……。


 俺がガレインの元に着いた時には二人は言い合いをしていた。


「ケントが呼んでたから見ちゃいますよ」


「戦いではそれが命取りになるんだぞ。それでケントは急いでどうしたんだ? セヴィオンに呼ばれたのか?」


 ここにいないセヴィオンが呼んだと二人は思っているようだ。


「話があります」


 俺がハワードからもらったブローチを見せると二人の表情が固まった。


「なっ……なんでケントが持ってるんだ?」


「ハワードさんからの伝言です。魔物達が王都に向かって――」


――カンカンカンカン!


 俺が話そうとしたタイミングで訓練場から危険を知らせる警鐘が鳴り響いた。


 それも一回だけではなく何度も鳴っていた。


「兄さんこれって……」


 ガレインも今まで聞いたことのない警鐘に驚いていた。


 訓練場にいて警鐘がたまに鳴ることはあった。


 例えば今回のように近場に魔物が出現した時や盗賊の出現などを知らせる時だ。


「あまり状況は良くないのかもしれないな」


 ここ最近でこれだけ鳴った時は隣国の帝国が攻めて来た時のみだ。


 そんな中急いで走ってくる騎士がいた。マルヴェインの前に来るとすぐに跪き話し出した。


「マルヴェイン様失礼します。魔法士団の探索部隊から報告がありました」


「話せ」


「はっ! 現在王城全方向から魔物の大群が攻めてきてる模様です」


 マルヴェインは俺を見ていた。


 どうやら本当に魔物が近づいて来ているらしい。


 マルヴェインは大きく息をすると、訓練場に圧を放ちながら声を響かせた。


「全員に告げる! 総員今すぐ準備し訓練場に集合せよ! 隊長クラスは訓練場隣の応接間に集まってくれ」


 マルヴェインの声はすぐに届いた。その迫力に俺も驚くほどだった。


 ゴリラの肺活量ってすごいんだな……。


「とりあえずケントがハワードさんから聞いたことを教えてくれ」


 俺はハワードとの成り行きを話した。


「ケントは急にハワードさんに頼まれたってことか?」


「そうです」


 俺も現状はわからない。ただハワードから騎士団や魔法士団に伝達しろと言われただけだ。


 マルヴェインは少し考えた後に俺に伝達人として依頼した。


「ハワードさんは冒険者ギルドに向かったんだよな? ならすぐに話し合った後に冒険者ギルドに向かうとハワードさんとギルドマスターに伝えてくれ」


 マルヴェインはポケットからブローチを取り出した。


 そこにはハワードから渡されたブローチ同様に剣と盾の紋章が描いてあった。


「これは……?」


「ハワードさんからもらったブローチと同じだな。ハワードさんのは俺が預かるからこれを渡してくれ」


 マルヴェインは説明しながらニヤニヤとしていた。


 そんなに大事な物をコロコロと子どもに渡すのもどうかと思う……。


「えっ……」


「じゃあ、ケント頼むぞ」


 マルヴェインは急に真顔になり、ガレインを連れて訓練場から出て行った。


「おい、オラ達も冒険者ギルドに向かうぞ」


 ラルフに促された俺はブローチをポケットに入れ、ともに冒険者ギルドに向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る