第180話 魔法の板
咄嗟にコロポが声を発したが、俺が気付いた時には目の前まで火の玉が来ていた。
「あっ……」
避けれないと感じた俺は目を閉じ、その場で覚悟を決めた。
しかし、いつまで経っても火の玉は俺に当たることはなかった。
「大丈夫?」
目を開けた先にはラルフが立っていた。
「ラルフこそ大丈夫!?」
俺はラルフに聞き返すが、当の本人はけろっとした顔をしていた。
見たところ特に怪我はなく、周りに半透明でわずかに見える空気の塊が浮いていた。
「ほぉー、これはこうやって使うんだな」
どこかラルフは考えているようだ。
「ケント危ないのじゃ!」
オークメイジ達が風、火、水属性の初級魔法を放ってきた。しかし、それをいとも簡単にラルフは防いでいた。
「いまいち使い方が分からなかったけど、この板便利だな」
俺はラルフの手元を見ると縦50cm、横30cm程度の板を手に持っていた。
魔法はその板に当たると板に傷は残らず、何か半透明な空気の塊だけ残して消えていた。
その様子を見ていたオークメイジ達は後退りしていた。
「ひょっとしてX線を取るやつじゃ……」
ふとその板を見て前世の記憶から懐かしさを感じていた。
「あー、X線はいまいちわからんがグリッドって名前だぞ! スキル【放射線技師】から出た新しい武器?防具?だな」
ラルフは医療ポイントを消費して新しい武器か防具かわからない物を手に入れていた。
どこからどう見ても、X線画像を撮るときに使うグリットにしか見えなかった。
X線画像を撮ったことある人は一度は見たことあるだろう。
グリッドはそもそも、X線画像を撮るときに放射線が広がり、ボヤけて写ることを防ぐものだ。
体に放射されたものは被写体に当たるとランダムに散乱し、散乱線と言われるものになる。
グリッドを使用する事でその散乱線を除去し、綺麗な状態でX線を撮ることができる仕組みだ。
「ウォー!」
オークメイジが離れ、オーク達が飛び掛ってきた。
「ふん!」
その後もオークの攻撃をラルフはグリッドを使って受け止めていた。
正しいグリッドの使い方ではないが、オークの攻撃をしっかり受け止められていることに俺は驚いた。
どこから見てもタンク職にしか見えないのだ。
そんな中ビー助はオークメイジの攻撃を防いだ時に出ていた半透明な空気を集めていた。
「ビー助?」
その半透明な空気をビー助は掴み、俺の体に押し当てた。
「なんだこれは……」
俺は何故か知らないうちに底ついた魔力が回復している気がした。
「これは魔素じゃ」
「魔素!? 魔素ってそもそも見えないはずじゃ」
魔素は魔力に変換する器があれば体に勝手に取り込まれるが、目視出来るようなものではなかった。
「きっと属性がなくなって見えるようになったのじゃ」
俺はコロポの言っていることが理解出来なかった。
「はやく二人とも話してないで手伝ってよ」
一人でオークの相手をしていたラルフは流石にグリッドを持っていても塞ぎきれないようだ。
むしろグリッドで防げたことの方がすごい。
「ビー助魔素をたくさん集めてきて」
オークメイジの魔法で散乱していた魔素をビー助は集めては俺のところに運んでいた。
俺は魔力に変換し水治療法を発動させた。温熱療法では、オークメイジの水属性魔法で相殺されてしまうからだ。
俺は水治療法で牽制しながら、なるべく距離を離し、その隙間をかいくぐりボスはオーク達の首元を噛みちぎっていた。
俺も水治療法の水球をオークの頭に被せて、オーク達が逃げられないように水球に閉じ込めた。
しばらくすると勝ち目がないと判断したオークメイジは、オーク達を盾にして逃げていった。
「ふぅー」
「ケント怪我はないか?」
「俺は大丈夫だけどみんなも大丈夫?」
この中で頑張ったのはラルフとボスだろう。ボスは頑張ったのを褒めて欲しいのか、俺に顔を擦り付けて尻尾を振っていた。
特に怪我もしていなかった。
「それにしてもすごいグリッドだね」
「あー、使い方が合ってるのかはわからんけどね」
「いや、完全に使い方違うと思うけどね」
そんな中コロポはグリッドをまじまじと見て、森に響くほどの声でお決まりの発言をした。
「これは魔道具なのじゃー!」
やっぱりラルフが持ってるグリッドも魔道具の一種だった。
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