第179話 オーク

 俺は急いで走っていくとわずかに血のにおいを感じた。それはコロポも同じようだ。


「ケント急ぐのじゃ!」


「わかってる!」

 

 急いでボスの元へ向かうが、元々の足の速さもあるため着くまでに時間がかかってしまう。


「ほんと仕方ないわね」


 どこからか声がすると急に走るスピード速くなった。


 チラッと後ろを振り向くと緑色の妖精が手を振っていた。以前池から強制進化の首輪を回収した時に手伝ってくれた妖精だろうか。


「緑の妖精さんありがとう!」


 彼女はどこか照れ臭そうに笑っていた。


 走る速度が速くなることで、だんだんと血のにおいが広がっていた。足元には血が飛び散っていたのだ。


「ボースー!」


「ウォーン!」


 大きくボスの名前を呼ぶとすぐに返事が返ってきた。


 声がした方に向かうとボスはオークと組み合っていた。


 怪我はしているがどうにか無事のようだ。


「ボス退け」


 ボスが後ろに下がったと同時に俺は指に魔力を込め温熱療法をオークに放った。



 手からは直線上に炎が発射し、オークはその場で燃え、最後には魔石だけを残し灰になって消えた。


「ボス、ビー助大丈夫か?」


「クゥーン」


 ボスはケントに顔を擦り付け、ビー助は八の字ダンスを踊っていた。


 どちらも特に怪我はしてないようだ。


「こいつらなんなんだ」


 ボスに会う前にも移動しているとオークと遭遇した。合流した先にも六体のオークがいた。


 それでも二体はボスが倒し、一体は今消し炭にした。


「ボスは離れたやつから倒していけ、それまではこっちで引きつける」


 俺の言葉にボスは首を振っていた。俺を心配しているのだろう。俺から離れようとしないのだ。


「みんないるから大丈夫だよ!」


 ボスの頭を撫でると渋々俺から離れた。


 俺は温熱療法を左右の指でオーク達を挟み込むように発動させた。


 その炎に逃げるようにオークが動いたため一体のみ離すことができた。


 そのまま焼き切れば良いが常に高出力の温熱療法を発動しないといけないため魔力がすぐに底をついてしまう。


 ボスはオークの首元に向かって噛み付いた。


 オークはボスを振り落とそうと必死に体を動かすが、ボスの顎の力は強く次第にオークは動かなくなった。


 ボスは首元を噛みちぎっていた。うん、可愛いけど狼なんだと改めて認識した。


 オーク達は炎が消えると即座に俺の方に向かってきた。


「打診器大きくなれ!」


 異次元医療鞄から打診器を取り出し魔力を込めた。オーク達は驚き後退りした。


「知能があるのか?」


 オークってそこまで知能がないはずだが……。


「ひょっとするとオークの上位種がいるかもしれないのじゃ」


 俺はオークに向かってそのまま走り出した。


 全力で打診器を振り回すと打診器に当たったオークはその衝撃で飛ばされた。


「ボス!」


「ガゥ!」


 その瞬間をボスは見逃さなかった。オークの元へ走り首を噛み付いた。


 それを繰り返してオークを倒すことができた。


「ボス大丈夫か?」


「ガゥ……」


 どうやらボスも疲れたようだ。辺りには炭になったオークや首元を噛みちぎられたオーク達が倒れていた。


「よく頑張ったな」


「ケント気を抜くんではないのじゃ!」


 コロポの声に俺は顔を上げると次から次へとオークが俺達を囲んでいた。


「まだいるのかよ……」


 俺は立ち上がり打診器を構えると、後ろから大きな衝撃が与えられた。


「ケント!」


「ガゥ!」


 急な衝撃に俺はそのまま倒れた。衝撃があったものの大きな傷はなく、倒れた俺を見てオーク達は笑っていた。


「オークメイジがいるのじゃ」


 コロポは指差した方には大きな杖を持ったオークが立っていた。


 オークメイジは稀に発生する個体で、唯一オークの中で生まれる雌だ。


 オークは基本的に雄のみで構成され、多種族と交配することで生まれる変わった魔物だ。その中にも極稀に雌がいる。


 雌がいるとその中で交配が繰り返されるため個体数は増え、さらに交配したオークの雄から魔力を貰うことができる。


 だから普通のオークより知能が高いのだろう。


「オークメイジはそいつだけじゃないのじゃ」


 しかも茂みにはオークメイジが三体も存在していた。


 それだけいるということは、この森にはたくさんのオークが存在することになっている。


「とりあえず逃げるのじゃ!」


 俺は温熱療法で道を開けようとするが、それに合わせてオークメイジが水属性魔法で相殺した。


「もうダメだ……」


 高出力での温熱療法と常時打診器に魔力を取られていたため、俺の魔力は足りなくなってきた。


 俺のスキルはやはり戦闘向きではないのだ。


「ケント逃げるのじゃ!」


「えっ?」


 コロポの叫びと同時に俺の後方から直径1m程度の火の玉が俺に向かって放たれた。


「はやく逃げるのじゃー!」


 コロポの声は森の中に大きく響いていた。

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