第181話 挑発

 俺達はすぐに王都に戻り、冒険者ギルド向かった。


 オークメイジに遭遇したことをギルドマスターのカタリーナに伝えるためだ。


「カタリーナさんいますか?」


 俺は冒険者ギルドの受付嬢に声をかけた。


「今いると思いますよ。なにかあったんですか?」


「森の魔素が多くないところでオークの集団に会ったのでその報告をしにきました」


 ひょっとしたらまた魔物の集団が各地に出来ている恐れがあった。ただ、単純な稀にできるオークの群れであればいいが……。


「少しお待ちくださいね」


 少し待っていると受付嬢に呼ばれ、ギルドマスターがいる部屋に案内された。


「ケントさんをお連れしました」


「入るのじゃ」


「では、ケントくんどうぞ」


 受付嬢の扉を開けた先には資料の整理をしていたカタリーナがいた。


「おー、ケント久しぶりなのじゃ。それで何かあったんか?」


 カタリーナは書類整理をしながらケントに話しかけていた。


「東の森に採取に行ったらオークに会いました」


「ああ、あそこは奥まで行ったらオークも出てくるから仕方――」


「いえ、中間地点より手前でオークメイジを含むオークの群れに会ったので……」


 カタリーナは見ていた資料を置き俺に詰め寄ってきた。


「それはどういうことなのじゃ」


「そのままの意味です。オークの群れに何度か囲まれた時にオークメイジが見たところ三体はいました」


「三体もか……」


「オラもスキルで確認したので間違いないです」


「それでケント達は大丈夫なのか? まぁ、戻って来ている時点で心配はしておらぬが……」


 俺達はマルクスとともに特別依頼を受けてはいるするが、そもそもEランクの仮冒険者だ。魔物と遭遇しないのが普通のはず……。


「ラルフのおかげでオークメイジを中心に逃げて行ったんで、討伐依頼は出した方がいいかもしれないです」


 仮冒険者が行う採取依頼は基本的にはオークが出没した森で行う依頼だ。


 そこにしっかりとした自衛手段がなければすぐに殺されてしまう。それだけ俺達は仮冒険者の中でも異様な存在だ。


「わかったのじゃ」


 カタリーナは部屋から出るとすぐに戻ってきた。ギルドスタッフに依頼を出すように指示をしてきたのだろう。


「それでラルフのおかげと言ったが、ケントと違ってラルフにはそこまで強みがなかったんはずじゃが?」


「どうせケントと比べれば俺なんて……」


 カタリーナはサラッと言っているが、中々ラルフに対して言葉の暴力を放っている。いつも元気なラルフもさすがに落ち込んでいる。


「いやいや、今回のラルフはすごいよ!」


「ケントまで今回のって言い出したわ。どうせ……」


 ついにラルフは小さく縮こまり戦闘不能になっていた。頭の上にある耳と腰の尻尾は垂れ下がっていた。


「あっ、ごめん。そんなつもりは……」


 俺はラルフを慰めようと声をかけると、ラルフはニヤッと笑っていた。


「なぁ!? 騙したな!」


「騙される方が悪いんだよ。まぁ、少し悲しかったけどな」


「ごほん! それでラルフは何があったんじゃ?」


 ラルフと戯れあっているとカタリーナはこちらを見ていた。


「えーっと、見てもらった方が早いですかね?」


 ラルフは両手を前に突き出して叫んだ。


「グリッド!」


 いつのまにか手には謎の魔法の板"グリッド"を両手で掴んでいた。


「板か?」


 カタリーナは突然グリッドが出てきたことより、思ったよりも普通の板のため反応が乏しかった。


 俺の打診器に比べたら見た目が劣るからだろう。


「板ですね」


「そうですね」


 そんなカタリーナの反応に俺達は頷いた。


「それで何がすごいのじゃ?」


「魔法を放ってもらっていいですか?」


 ラルフのいきなりの発言にカタリーナは驚いていた。



 これでもSランクの冒険者だ。人の腕を一瞬で切り落とす魔力を持っている。


「今ここでは無理じゃ」


「いや、大丈夫だと思いますよ」


「我を舐めてもらっては困る。これでも王都のギルドマスターじゃぞ」


 大精霊であるカタリーナは魔法のみで王都のギルドマスターになったぐらいだ。


 そもそも精霊自体が種族として魔法に長けている。


「あれ? ひょっとして怖気づいたんですか?」


 ここぞとばかりに挑発するラルフにカタリーナの眉はピクピクと動いていた。


「なんだと……仮冒険だからって手加減しないのじゃ! ギッタンギタンのボコボコにしてやるのじゃ」


 出てくる言葉は子どもそのものだ。カタリーナは立ち上がり扉に向かった。


「訓練場に集合なのじゃ! 言ったことを後悔させてやる!」


「カタリーナ怒ってたよ?」


「それでいいんだ」


 何かラルフは思い詰めた顔をしていた。咄嗟に何か声をかけようと思ったが、俺は口を噤んだ。


「じゃあ、行ってくるな。ケントも良かったら見にこいよ」


 ラルフは覚悟を決めたのか、カタリーナの執務室を後にした。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る