第164話 成敗しました

 俺の模擬戦を見ていたガレインは急いで駆け寄ってきた。


「ケント大丈夫?」


 ガレインは短剣を取り出すとすぐに手に向かってスキルを発動させた。


「あー、痛かったわ。やっぱりもうちょっと鍛錬しないとあの速さには追いつける気がしない。そもそもあのゴリラが怖い……」


「ぶぅふ!? 兄さんをゴリラって――」


「今のは聞いてないことにしておいて」


 俺はガレインの口を塞ぐと頷いていた。そしてガレインに通じたということは異世界にもゴリラが存在するということだ。


「とりあえず剣を返さないといけないよな」


 異次元医療鞄を発動させマルヴェインの剣を取り出した。


「ケント……せっかく隠していたのに……」


 ガレインの目は異次元医療鞄に向いていた。


 そういえば異次元医療鞄の存在を隠していた。魔法が使えて、スキル【運搬】と同じことができると分かれば実力がバレてしまう。


「ははは、実に面白い少年だね」


 笑いながら近づいて来たのはセヴィオンだ。


「水属性、火属性、無属性とあとは光属性だっけ? クアドラプルマジシャンは珍しいな」


 俺のスキルは魔法ではないが、周りから見たら四種類の魔法が使える魔法使いに見えているのだろう。


 気づいた頃には訓練場にいた魔法士団も俺に注目していた。


「スキル自体は魔法ではないんですけどね」


「魔法使いじゃなくても俺をあれだけ飛ばすのも凄いけどな。それはハンマー型の魔導具だったんだな」


 審判をしていた騎士と話が終わったマルヴェインも戻ってきた。


「あっ、剣は返しておきますね」


「わはは、まさか剣が無くなると思わなかったぞ」


「むしろ今はそれぐらいしか隙を作れないので、魔物に対しては中々難しいですけどね」


 今回は隙を突いた攻撃だったため、人間相手には通用したが武器を持たない魔物に対してはきっと効かない思っている。


 そして驚いたことに打診器が武器として使えたのだ。


 何が理由で使えたのかわからないが、きっかけがあるのだろうか。


「対人に対して何か隙がつけるのは武器としてはいいんじゃないか。あいつらも今の戦いで何か得られたかもしれないしな」


 さっきまで剣を振っていた騎士達は今度は組合をしていた。


 今回の決闘を見て、武器がない環境でスキルに頼らない体術が必要だと改めて感じたのだろう。


 それにしても騎士達も冒険者と同じ脳筋の集まりのように感じた。


「それにしてもガレインはいつのまにそんなに魔法が使えたんだ? これだけ使えたら十分だよな?」


「ああ、そうだね。初めてガレインのスキルを見るけど、傷もすぐに塞がってるし回復速度も速いね」


 ガレインは家族にスキルが発動出来たとは伝えていたが、兄弟達にスキルを見せるのは初めてだった。


「この間冒険者ギルドで活躍していましたよ。あれからギルド内では英雄だね」


「私もあれだけ話題になっているのは知らなかったので……」


 あの治療がきっかけでガレインは冒険者ギルド内では英雄扱いとなっている。


 その結果が生誕祭のパレードの時に歓声に表れていた。


「そういえば、異世界病院も食事処の二階でやることになったから今度はそっちに来てね」


「次からはそっちに行けばいいんだね」


「じゃあ僕はそろそろ帰りますね。マルヴェインさん、セヴィオンさんぜひ食事処に来てくださいね」


 俺はその場から立ち去ろうと向きを変えるとセヴィオンに肩を掴まれた。


「うえっ!?」


「ケント異世界病院ってなんだ?」


 セヴィオンは異世界病院という言葉が出たときに興味を示したらしい。


 ガレインの顔を見ると視線を合わそうとしなかった。


 あー、これはちゃんと説明していないやつだ。仲は良くても意外に自分のことは話さないのだろう。


 男兄弟ではこういう関係が普通なんだろうか。


「病気や加齢で生活しにくくなった人に運動とかを提供して、少しでも以前の生活を取り戻してもらう活動をしてますね」


 咄嗟に説明したがセヴィオンには伝わらず首を傾げていた。


 そもそもリハビリという概念もないし、寝たきりなどの人も少ないから説明がしづらいのだ。


「治療院とは違うのか?」


「んー、治療院と似てはいますが薬にスキルを使って渡すわけでもないですし、教会みたいに祈って治すものでもないので……」


「いまいちわかりにくいな……」


「二階で一緒にやってますので食事処が出来たらまた覗いてみてください」


「そうか、それは楽しみにしておきます」


「じゃあ、僕はこれで失礼します」


「ケントを街まで送ってくるね」


 やっとの思いで俺は王族の兄二人から解放された。


 "大変そうな兄を持つと大変だな"とガレインに話しかけると彼は笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る