第165話 異世界食堂
王城に呼ばれてから数日が過ぎ、ついに孤児院食事処が開店することになった。
名前は"異世界病院"と合わせるという方向性に決まり、"異世界食堂~王都店~"となった。
「えー、皆さん準備はいいでしょうか?」
俺はみんなから見えるように二階から話していた。
「あはは、ニチャ緊張してる」
そんな中緊張のかけらもなく、ゲラゲラと笑っている子がいた。ベールはまだまだ小さな子どもだが立派なパティシエだ。
この前も自身でソースを変えるなど、味のバリエーションを増やそうとしていた。
改めてこれがスキルという名の才能なんだろう。
「これから忙しくなると思いますが、今後のためにも頑張りましょう。そして王都で有名なお店にしましょう。あっ、ロンくん上がってきて!」
一回にいるロンを呼び、管理者として一言だけ話してもらった。
「大事な弟や妹達、今まで外れスキルや孤児院とバカにされてきたと思う。しかし、ケント兄さんがきて孤児院は変わってお店まで持つようになった。前はみんなでご飯を分け与えてやっと生活できていたが、みんなでこのお店を大きくして自分達の力でお腹いっぱい食べよう!」
「うぉー!!」
さすが孤児院で生活し、苦しい状況の中でも年下の子達を面倒みてるだけあって頼りになる言葉だった。
「ロンくん……君はすごいよ! おじさん感動しちゃった」
そんな姿のロンを見てつい頭を撫でた。中身は二十代半ばのため、十歳も年下の逞しい姿に感動した。
「おい、やめろよ! まずケント兄さんはおじさんでもないよ!」
言葉では拒否していても、ロンは満更でもなさそうだ。
そして俺もまだ子どもだった。
「じゃあロンくんは下を頼むね! 問題が起きたら上にいるからすぐに呼んでね」
「わかりました!」
ついに異世界病院兼食堂がオープンとなった。
♢
開店してから一回は常に忙しそうにガヤガヤとしていた。
「次の方どうぞ」
「おう、ケント!」
「マルクスさん!」
扉を開けたのはマルクスだった。マルクスはここのところずっと依頼で王都から離れ、トライン街へ行っていた。
「依頼から戻って来たんですか?」
「ああ、そうだ! ケントにサプライズがあってな……」
マルクスは親指で扉の方を指差すとそこには懐かしい顔が覗かせていた。
「アリス!?」
「兄ちゃん!」
扉から覗いていたのは、エッセン町近くの森で助けた少女アリスだった。
「アリス?」
俺が呼んだ名前に違和感を感じてマルクスは首を傾げていた。
「ああ、アリミアの呼び名ですよ! 親しい人はアリスって呼ぶんですよ」
俺はアリスが偽装を使って名前を偽っているのを忘れていた。咄嗟に言い訳を考えたが大丈夫だっただろうか。
「もう、アリス登るの早いわよ」
遅れて階段を上がって来ていたのはアニーとロニーだった。
「母さん……父さん……」
「やぁ、ケント! 見ない間に大きくなったな」
エッセン町から離れて半年以上経っていた。
久しぶりに会った三人の顔を見てどこか俺の力は抜けていた。
「ふふふ、でもまだ子どものようね」
手を大きく広げている二人に俺は駆け寄った。
こういう時はケトの意識に引っ張られてしまう。
「なんでいるの?」
「マルクスさんに呼ばれたから来たのよ! 本当は生誕祭に間に合わせようと思ったけど、この人の仕事の都合がつかなくてね」
マルクスはトライン街方面に依頼に行ったついでにエッセン町に毎回寄って俺の話しをしていたらしい。
そこでアニーとロニーに話をするとみんなで王都へ会いに行くことになった。
ロニーは仕事の都合をつけようとしたが、勤務のこともあり生誕祭に間に合わなくなった。
「せっかくだけど今日は依頼があるから……」
「ああ、だから俺達もほら!」
ロニー達が出したのは冒険者ギルドの依頼書だった。
「マルクスさんと一緒に冒険者ギルドに行って依頼書を作って来たわ。受付にいる女の子に言ったら今日の最後に回してくれるらしいからそれまで下にいるから、終わったら声をかけてね」
アニーとアリスは異世界食堂に興味津々だった。
「父さんは?」
「ああ、俺は王都に知り合いの門番がいるからその人と少し話をしてくるよ。遅くならないようにはするけど先にアニーをやってくれ」
「わかった! せっかく来たのに待たせてごめんね」
「ああ、大丈夫だぞ! このために長めの休みが取れたからな」
ロニー達は王都滞在期間を長めに一ヶ月程度取り、旅行目的も含めて来ていた。
「えっ? 宿屋は取れたの?」
「そりゃー、もちろんケントと同じところにしたぞ。だからしばらくは一緒だ」
事前に宿屋の確保をしてから異世界病院に来ていた。
「そっか……。本当にみんな来てくれてありがとう」
しばらくは家族で過ごすことができるとわかりどこか温かい気持ちに包まれた。
「ははは、会わないうちに泣き虫になったな」
「別に泣いてないし!」
「お兄ちゃんアリスより泣き虫だね」
「だから泣いてなんか――」
「お兄ちゃんはほんと素直じゃないからね」
家族に冷やかされたのか、嬉し泣きなのかはわからないが、俺の頬に一筋の涙がこぼれ落ちていた。
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