第163話 ゴリラを成敗します!

 突然の温熱療法に驚いたのか再びマルヴェインは後ろに下がった。


 もう一度いうがこれは温熱療法なのだ。温熱……すでに大火傷の領域だ。


「うぉ!? やっぱり中々近づかせてもらえな……」


 マルヴェインはすぐに足元に違和感を感じていた。


「ああ、あれはこのためなのか」


 ゴリラの足元にはさっき放った水球でぬかるんでいた。いや、俺としてはただ単に水球を放っただけだが、それをマルヴェインは警戒していた。


 足元がぬかるむことでマルヴェイは動きにくいのだろう。それなら好都合だ。


「それでもこんなん作戦じゃ俺には勝てないぞ」


「えっ?」


 俺は瞬きをするとマルヴェインはすでに俺の目の前にいた。


 全然好都合じゃないじゃんか!


 急にゴリラが目の前に現れた飼育員も腰を抜かすよ。


 後から聞いた話ではこれがマルヴェインのスキルだった。


 マルヴェインは一瞬だけ自身の身体能力を高めることができるらしい。 


 ええ、その時に俺の中では完璧にマルヴェインがゴリラと認識しました。


「君もそんなもんか、残念だったな!」


 マルヴェインは大きく剣を振り下ろそうと構えた。


 俺は咄嗟に手を前に出すが、それよりもマルヴェインの方が早かった。


「おい、なにをする――」


 マルヴェインは剣を俺の前で止めるはずだったが俺はそのまま剣に触れた。


 その瞬間俺の手から血が溢れてきた。でも俺はこの時を待っていた。


 ゴリラが剣を持つなんて怖すぎる。


 剣が手を触れたタイミングで俺は異次元医療鞄を発動させた。


 突然マルヴェインの持っていた剣がどこかに消えた。


 俺は異次元医療鞄にマルヴェインの剣を瞬間的に回収したのだ。ちょうど打診器を取り出して容量は空いているからな。


「えっ、どういう――」


 突然無くなった剣に驚いた瞬間、俺はマルヴェインのお腹に向けて打診器を振りかぶった。


「秘技腱反射!」


 なんとなく思いついた言葉がつい出てしまった。


 まあ、実年齢で言えばちょうど十二歳だから厨二病でも問題はないはずだ。


 手は痛いがよく見るとマルヴェインは5m先まで吹き飛ばされていた。


「あれは杖じゃないのかよ!」


 腹部の抑えたマルヴェインは悔しそうな顔でそのまま崩れ落ちた。


「両者そこまで! 勝者はケント!」


 突然剣も無くなって戦えなくなったと判断した騎士がそこで決闘を止めたのだ。


 騎士団では強い方だとされているマルヴェインが負けたことに辺りは騒然としていた。


「もうゴリラと戦うのは……寒っ!?」


 突然寒気がして振り返るとそこにはガレインといるセヴィオンがこちらを見ていた。彼は楽しそうにニヤリと笑っていた。


 やはり異世界には脳筋野郎しかいないのかあー!!!

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