第160話 まさかの……
少女はイライラしながらも俺に近づいてきた。
その動きに俺は口の震えが止まらなかった。もう、高速で顎がガクガクして今なら誰よりも早食いが出来そうな勢いだ。
「あああ足が……」
「足ならここに生えてるでしょ!」
少女がスカートを捲し上げるとそこにはすらっとした白い足があった。
ただ単にスカートの裾が長すぎて足が隠れていただけだった。
「あれはシルキーじゃな」
「シルキー? 某ケーキ屋のミ○キーは知ってるけど?」
コロポに言われても俺の頭には、舌を出した少女がいるケーキ屋さんしか頭には出てこなかった。
「あやつも亡霊だけど妖精じゃぞ」
「ほー、あの舌を出していた子も妖精だったんだ」
あまりの恐怖に俺の頭は回らなくなっていた。顎はまだガタガタ言っているけどな。
「貴方達私の家に何の用なのよ!」
よく見ると足があると言っても、やはり妖精なのか少し浮いていた。
「ひぇー! 食べないでください」
「あんたね……私そんな食いしん坊に見えないでしょ」
「だって舌が出て……ないですね」
「何勝手に精神操作されているのよ! まだ私何もしてないわよ」
俺は知らない間に精神操作されていた。ただ単に驚きすぎて、現実と区別出来なかっただけだが……。
「それで何の用なのよ」
シルキーはだんだん苛立ちより、ケントに対して呆れていた。
「ここの屋敷を孤児院がもらって、お店を出すことになりまして……」
「お店!? いいじゃないの!」
「えっ……」
シルキーの態度に俺は驚いた。すぐに出ていけと言われるかと思ったが反応はむしろ逆だ。
シルキーはお店を出すということを聞いてテンションが上がっていた。
ワンピースの裾が大きく広がるようにくるくると目の前で踊るぐらいだ。
「でも何でこの屋敷なの? 今まで顔を出したら逃げられていたし、誰も来なくなったと思ったら急に貴方達が来てびっくりよ。だからまた盗賊が入ってきたと思っちゃったわ」
以前屋敷に商業ギルドのスタッフと貴族が訪れたため挨拶をしたが、逃げられたらしい。
それ以来は盗みに入った盗賊以外誰も屋敷には訪れなかった。
そのため今回も盗賊だと勘違いしていたらしい。
ここまで来ると俺の震えは収まっていた。
「シルキーはここでお店を開いても大丈夫なの?」
「いいわよ? 私もお店やってみたいし」
「えっ、シルキーもやるの?」
「えっ? むしろ私もやっちゃダメなの?」
「……」
シルキーは自身もお店を手伝うつもりでいた。
何も反応しない俺に次第にシルキーはイライラしていた。
亡霊だけあってその姿に俺はまた恐怖に陥っていた。さすが精神異常の魔法だ。
「わわわ、わかった。だけどさっき来ていた孤児院の人達に確認を取ってからでもいいい?」
「もちろんいいわよ。嫌だと言ったらタダじゃ済まないからね」
俺はシルキーに圧倒され急いでエイマーとロンを呼びに行った。
玄関には心配そうにエイマーとロンが待っていた。
「ケント兄さん遅いよ!」
「そうよ、ケントくんはやくここから出ないと私達も食べられ……」
俺を待っていたエイマーとロンの後ろにはシルキーが既に立っていた。そして二人の肩を突っついている。
「失礼ね! 私はあなた達を食べないわよ」
「ひぃ!?」
エイマーは恐る恐る振り返り、シルキーの顔を見て驚いていた。
「きゃー! なんて可愛い子なのよ」
「えっ?」
あまりの反応に俺は固まっていた。普通は腰を抜かすところだろう……。
「えっ、私って可愛いの?」
固まっていたのはシルキーも同じだった。
「可愛いわよ。勝手にあなたの屋敷に入ってごめんなさいね。さっきは包丁が飛んできたからびっくりしちゃったけど、よく見たら可愛い顔をしてるわ」
「へへへ」
急に褒められたシルキーはどこか照れていた。
「あなたに頼みがあって、私達ここでお店をやることになったんだけどいいかしら? もちろん貴方も手伝ってくれるわよね?」
俺が確認をしようと思っていたことをエイマー自身がシルキーに聞いていた。やはり孤児院を運営するにはこれぐらいたくましくないとやっていけないのだろう。
「仕方ないわね! 私も協力してあげるわ」
「あら、助かるわ」
いつのまにか話が進み、シルキーは孤児院の食事処のメンバーとして今後働くことになった。
亡霊および妖精だけどそんなに人前に出ても大丈夫なのかな……。
彼女に詳しく話を聞くと屋敷の管理は彼女がしており、屋敷内の清掃は任せて欲しいとのこと。
今後は内装の準備が整い次第、食事処は開店することとなった。
「へへ、これで私の負担が減るわね」
小さく呟いたエイマーの声はその場にいた人達には誰も聞こえていなかった。
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