第161話 王族の脳筋野郎
あれから孤児院の食事処は準備がはやく進められていた。
思いのほかシルキーの動きが俊敏なのと、自身の力を使って物を浮かすため物の移動が早く、力仕事に人員が必要なかったのだ。
今回は外でも食事が楽しめるようにオープンテラスと店内で分けることにした。
また、一階部分は飲食店、二階部分は今まで孤児院でやっていたリハビリを二階の部屋を使ってやることにした。
治療も含め同時に集客を図ることができるからだ。
これで栄養士がいれば食事管理も含めて異世界病院で介入することができる。オーク?子爵みたいな太った人の生活習慣病改善もいつか必要になるだろう。
「シルキー準備はどう?」
「基本的に家具の配置は問題ないわ。内装も間隔を広げてゆったりとしてるし、ビー助が花を集めてくれたから庭もどうにかなってる」
ビー助の蜜を集める習性を活かして、蜜ではなく花を集めてもらっている。
その後花を集めた後はシルキーが庭に埋め込み、花壇を作っている。
「調理組はどう?」
「基本的には大丈夫! お持ち帰り用の包み紙も用意できたよ」
ハンバーグが人気だったこともあり、パンに挟んでハンバーガーとしてお持ち帰りできるようにしたらどうかと提案した。
フェーズのように一人暮らししてる人や依頼で街に帰ってくるのが遅くなる冒険者に人気が出そうだと思って作ってみたのだ。
いわゆるお弁当文化を広めようとしたのだ。これも異世界スローライフの定番だよな……?
試しに破滅のトラッセンが依頼に行く時に渡すと、リチアはその場で泣き崩れるほど感動していた。
今後のお店の方向性としてはファミリーレストランのような色んな食べ物が置いてある食事処を作る予定だ。
あれから追加されたメニューとして、パスタとオムレツが追加された。
他にも、デザートメニューにはフレンチトーストを準備した。
《孤児院食堂メニュー》
ハンバーグ
カレースープ
パスタ
オムレツ
パンケーキ
フレンチトースト
ハンバーガー
「お土産用にハンバーガーを持っていくから準備してもらってもいいかな?」
今日はマルヴェインに王城に呼ばれているため、持ち運びができる新商品持っていく予定だ。
事前に商業ギルドから経営の許可を貰ったのをガレインに伝えると数日後には、マルヴェインから手紙で召集がかかった。
そこには孤児院の責任者、食事処の責任者そして俺が来るようにと書かれていた。
なぜ呼ばれたかはわからないが、ガレインが以前申し訳なさそうな表情をしていたので何かあるんだろう。
♢
俺達は王城へ着くといつも通りにガレインがいるところへ案内された。
「今日はごめんね」
「ん? 別にいいよ」
部屋に入った瞬間、ガレインが謝ってきた。やはり何かあったのだろうか。
「……ならいいんだけど。兄さん達はもうそろそろ来るから少し待っててね」
兄二人は今騎士団と魔法士団の訓練に出ているようだ。一度休憩時間の間に戻ってくるため、その時に話すことになっている。
二人とも訓練に忙しいらしい。しばらくするとお腹を空かせて戻ってきた。
「お疲れ様です。 この度はお招き――」
「ああ、そういうのはいらんぞ」
マルヴェインは挨拶を止めるとすぐに椅子に座らせ今後の話をすることになった。
俺達は今まで練った話を伝えると特に問題は無さそうだ。
「それとこちらが新商品で手軽にお持ち帰り出来るのと、冒険者の依頼時や短距離の屋外遠征の昼食として食べられるハンバーガーを提案しました」
正確に言えば提案したのではなくパクっただけだ。
ハンバーガーを取り出すと、マルヴェインとセヴィオンは興味を示していた。
そもそもこの世界に昼食を取る文化はなく、食べても空いている時間にパンや干し肉を食べる程度だ。
「好みもあると思うので、良ければ感想を頂けるとありがたいです。ソースは炎天下だと腐ってしまうので基本は早めに食べてもらわないといけないですが……」
シンプルにトマトをベースに味付けをしたものやマヨネーズを作り、オーロラソースにしたものスパイスを使ったチリソースもどきなど数種類用意した。
異世界って言ったらマヨネーズだからな。
「ああ、こんなに種類があるんだな。じゃあ一つもらおうか」
マルヴェインはトマトベースの物を食べると数口で完食した。
お腹が減っていたのかすぐに他の種類に手を伸ばそうとしていた。
全然一つもらおうのレベルではない。
「マルヴェイン兄さん一つじゃないんですか?」
セヴィオンも俺と同じことを思ったのだろう。マルヴェイが取ろうとしていた物をすぐに口の中に入れた。
「中々美味しいですね。手軽に食べれれば売れ行きも大丈夫でしょう」
「おい、それは俺の――」
「さっき一つと言ったのは誰でしたか? それ以上食べてオークにでもなる気ですか?」
「相変わらず口が悪いな」
二人の言い合いになる前に俺はさらに追加で机の上に出した。
ガレインから仲は良いって聞いていたが本当に仲が良いのだろうか。
「ああ、こんなに用意してくれたんか。腹が減るから助かる」
帰りにフェーズ達や冒険者に宣伝をするために作っておいたが、マルヴェインは結局五つも食べていた。
「よし、腹もいっぱいになったことだし訓練場に行くか」
「訓練場ですか?」
俺は何を言っているのか分からず首を傾けていると、目の前にいるガレインは必死にジェスチャーで謝っていた。
「この前今度打ち合いをするために王城に来てくれっと言ったのは覚えておるか?」
「打ち合い? 打ち合わせじゃないんですか?」
俺の問いにセヴィオンもガレインも首を横に振っていた。
「多分、あの時ケントが頭が真っ白になっていたところにマルヴェイン兄さんが騙す感じで言ったんだ」
「おいおい、ガレイン騙すとは酷いな。少しわかりづらく言っただけだぞ」
ガレインがずっと申し訳なさそうな態度をしていたのがやっと結びついた。
「あのー、僕は剣とか振ったことないので打ち合いなんて出来ないと思いますが……」
「ああ、それは大丈夫だ。武器は何でも良いから許可をする」
騎士の打ち合いといえば剣を使うことが一般的だ。
ただ、自身の武器の不向きもあるため基本的には訓練中や相手が良ければ何を使っても良いことになっているらしい。
「それでもそこまで戦ったことはないですが……」
「確か君は魔法も使えるんだよな? ガレインから話は聞いている」
「せっかくだから魔法の使用も許可しよう」
セヴィオンは俺の実力を考慮して魔法の使用を認めるように提案した。
俺のは治療であって魔法ではないんだが……。
「それぐらいなら手合わせにはいいんじゃないか?」
「僕Eランク冒険者ですけど……」
次は冒険者ランクが低いことを伝えることにした。これなら実力が低いと言っているようなもんだ。
「ああ、そんな力むことはない。その年齢ならEランクまでしかランクも上げられないからな。今後ランクを上げる時の軽い練習だと思えばいいさ」
「はぁー、わかりました。胸を借りさせて頂きます」
「おお、じゃあ早速訓練場に向かうか」
俺は逃げ道を探そうと思ったが模擬戦からは逃げられなくなっていた。
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