第131話 ハニー王国

 木から降りてきたハニービーのような妖精に俺以外は驚いていた。


「お、俺は夢を見ているのか……」


 長いこと冒険者をやっているマルクスでさえこの反応だ。


 一般的に妖精は物語に出てくる程度で間近に見ることはなかった。


 いや、最近間近で見ることはあったはずだが……。


「なんかわしの時と反応が違うのじゃ……」


 胸ポケットから出てきたコロポは落ち込んでいた。冒険者ギルドで現れた時との反応が全然違うからな。


「あのー、コロポさん? 俺の頭の上で拗ねないでほしいのですが?」


 俺の頭の上で指をクルクル回すため髪の毛が引っかかっていた。それにしても落ち込み方が古典的だ。


「わしの時と反応が違うのじゃ! わしも妖精なのじゃ」


「我をそなたみたいな小汚い者と同じにするではない」


 蜂の妖精はなぜか黄色く輝き、どこか威厳があった。そして、すごく高圧的だった。


「小汚い……もういいのじゃ!」


 コロポはいじけて再び胸ポケットに戻った。


「あのー、それで蜂の妖精さんですか? 大丈夫でしたか?」


「我はハニービーの女王。種族は妖精だ」


 やはり我儘そうな感じなのは女王蜂だからだろうか。


「ハニーの女王さん、なんで魔物がこんなに集まって来てるんですか?」


 俺は気になっていることを女性蜂に聞いた。


「それはお主達人間のせいじゃないか。でもお主達に言っても仕方ないことだ。付いてくるのだ」


 人間に高圧的なのも何か理由があるのだろう。


 そのまま従い付いていくと、木の根元を触ると突然木の根元から扉が現れた。


「えっ? 今の魔法?」


「これは我のスキル【女王蜂】じゃ」


 扉を開けると中から蜂蜜のにおいが漂っていた。そのま恐る恐る潜り抜けると、そこには別の世界が広がっていた。


 辺りには黄色で芳醇な香りを漂わせてた家々。


 王都まではいかないが、木の中とは思えないほど街が広がっていた。


「ここがわし達が住むハニー王国だ」


 ネーミングはそのままの通りだった。蜂の巣が異次元空間となり、人間の世界のようになっている。


「すごいですね。蜂の巣のように家が個別に分かれているんですね」


「我らが住む住居はハニカム構造になっておってな」


 女王蜂の話は長く聞き終わるまでに約2二十分程度掛かっていた。


 ハニカム構造とは正六角柱や正六角形を隙間なく埋めたものらしい。


 簡単に言えば蜂の巣構造になっているということだ。


 その部屋一つ一つが個人の住処と魔力蜜の保管庫となっている。


「それで一つそなたら人間に頼みがあるのだ」


「頼みですか?」


「我が子供達ハニービーが忌々しい魔力を含んだ物を拾ってきたのだ」


 女王蜂の発言に俺は達は顔を見合わせた。


「その物を拾って来てから魔物が集まってくるようになったし我では触れられないのだ」


「ならそれを持ってきたハニービーに頼めば良いんじゃなかったんですか?」


「そやつは唯一我と人間から魔力を貰える異端だったが短命でもう死んでしまった。我から魔力を貰っておるハニービーは持てないのだ」


「人間、魔物、妖精の魔力は違うんですか?」


「分かりきったことをなぜ聞くんだ? 魔物の魔力は凶暴化に働くが、人間の魔力は知性が残ったままだが一度に取り込む量に限度があるのは妖精達の中では常識だ?」


 人間と魔物が持っている魔力は異なっているらしい。


 人間は一度の魔素の吸収量に限度があるがその分知性は保てる。一方魔物は吸収量が多くそのまま魔力の器が耐えられなくなり凶暴化する。


 妖精はその中間にあたるらしい。


 そして強制進化の首輪は人間の魔力を集めて作られた。


 ハニービーは魔物ではあるが自身で魔素を吸収していないため、女王蜂からも蜜を運ぶことで魔力を与えてもらっている。


 いわゆる妖精版養蜂業にあたるのだ。


「ってことはハニーの女王から魔力を与えてもらってるハニービーは持てないってこと?」


 死んだハニービーが持って帰ってきたのが始まりだった。


「お主頭の回転が早いのだ」


「ってことはこいつは持ってこれるってこと?」


 頭の上で毛繕いをしているハニービーを掴女王蜂の方へ向けた。


 ハニービーは"どうしたの?"と言っているような表情をしていた。


「このハニービーがどうしたのだ?」


「昨日このハニービーに魔力を与えまして……まさか巣に住んでいる者とは知らずに」


 基本的に養蜂業にいるハニービーと森で女王蜂から魔力をもらっているハニービーは違う。


 稀にトラッセン街から婿養子のように街から離れて森に住むようになるハニービーもいるが本当に稀だ。


 魔力が貰えないと死んでしまうからな。


 女王蜂とハニービーは何か会話をしているのか頷いていた。


 念話みたいなものを俺に伝えることができたなら、ハニービーと女王蜂は何か念話みたいなもので話しているのであろう。


「そうか……それは仕方ないな」


「何か言ってるんですか?」


「つい、美味しそうな魔力だから近寄ったら魔力を貰えたって言っておるのだ」


 女王蜂から出た言葉に他の人達が吹き出していた。


「ははは、ケントは魔力も美味しいだな」


「さすがケントくんだね。ご飯も美味しければ魔力も美味しいとは……私もぐふっ!?」


 リチアは唾を飲み込んだ。そんな様子を見ていたカルロはすぐにリチアの口を塞ぎ遠ざけた。


「ははは、リチアがすまない」


「いえいえ、リチアさんらしいので大丈夫ですよ」


「むぐむぐ!」


「お前は少し黙ろうか」


「そのハニービーに任せるからお主達はその首輪とやらを捨ててきてくれぬか?」


「大丈夫ですよ! 元々その首輪を探しにこの森に来たので持っていきますよ」


「そうか……。これでやっと安心して休めるのだ」


 強制進化の首輪はハニーの王国に持ってきてから数日は経っていた。


 毎日魔物との攻防で見た目からは伝わっていないが相当疲れているのだろう。


「ではこっちに付いてくるのじゃ」


 女王蜂はハニービーに声を掛けて、上の方へ飛んで行った。

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