第130話 生活の知恵
俺達はハニービーに案内されるまま、森の奥に入って行くと急に周囲の雰囲気が変わった。どこか肌に張り付く空気に息を呑んだ。
「みんな警戒して」
一番に声を出したのは、斥候の役割をしているカレンじゃなくて、魔法使いのリチアだった。
「どうしたんだ?」
そんなリチアにリモンは尋ねると、リチアは俺の方を見た。
「ケントくんはわかる?」
「魔素が濃くなったことですか?」
「そうよ。しかも相当濃い魔素だわ」
魔力を多く持つものは自身も魔素を吸収するため自然と魔素の認識もわかるようになってくる。
リチアは以前の森との違いを感じていた。
「ラルフスキルを使いながら気になるところがあったら教えてくれ」
マルクスに言われラルフは瞳の色を変えた。
少しずつ奥に進んでいくとカレンが声を上げた。
「前方50mほどで戦闘をしています。キラーマンティス、ソルジャーアントが大量にいます」
頭上に乗ってるハニービーは魔物がいる方を指していた。
「マルクスさんどうしましょう」
「とりあえず近づくか」
マルクスの指示でラルフが認識できる近くまで近づくことにした。
♢
俺達は近づくと魔物達と戦闘になっているのは温厚な魔物であるハニービーだった。
「ハニービーがあそこまで好戦的になっているのも珍しいな」
リモンから見てもハニービーが好戦的になっているのは珍しいらしい。
「ケントとラルフを守るのが第一優先だ。これ以上近づくの危険だ」
これ以上行かないようにマルクスは手を伸ばして静止させた。
「そこの妖精と繋がりし者よ。我の声が聞こえるか?」
「えっ? なにこれ?」
突然聞こえた声に俺は辺りを警戒した。
「ケントどうしたんだ?」
「マルクスさん何か聞こえないですか?」
「いや、俺には聞こえてないぞ? それより少し離れるぞ」
「お主にしか聞こえないように話している。礼は後でするから我等を助けてくれないか」
どこかで助けを求めているがその声の正体がわからなかった。するとハニービーがそれを感じたのか、俺の頭を叩き目の前にいる魔物が戦闘している中央の大きな木の上を指している。
「あそこにいるの?」
「おい、ケントどうした?」
「あそこの木の上で助けを求めてる人がいます」
木を指差すが他の人は何も感じていないようだ。
「たしかに何かオラ達には見えないものがあるね」
ラルフはスキルを発動させるが詳細までは分からなかった。
「それにしてもあの数の魔物をどうするんだよ。戦うわけにも行かないぜ?」
「ケントくん何か良いアイデアってないか?」
前世の記憶から探り出した。よく母親が虫が入ってこないように、ミントやラベンダーなどを庭に植えていたことがあった。
「皆さんさすがにミントとか持っていないですか?」
「そんなもんないぞ?」
マルクスが他のメンバーに声をかけると一人だけ手を上げた。
「あっ、私持ってるよ? 帰り道もケントくんに料理を作ってもらおうと集めてたの」
リチアは俺のご飯につられて集めていたのだ。
「リチアさんそれもらっていいですか?」
「元々ケントくんにあげるつもりだったからいいよ」
俺は小さな水球を大量に発動させた。ミントを受け取ると、やはりハニービーは逃げていった。
「ここにミントをいくつか入れてください」
手分けして水球にミントを入れるとそれを魔物達の方へ飛ばした。
「そんなのでどうするつもりだ?」
「見ててください」
水球が割れるように意識すると、シャボン玉が弾けるようにミントが入っていた水が飛び散った。
ミント水が顔にかかる魔物や体にかかる魔物もおり、その異変はすぐに現れた。
「逃げ出している?」
「そうですね。ミントには昆虫が嫌いな成分が入っているので、その匂いを使って魔物の戦力を削ごうと思いました」
ミントはカメムシの悪臭と同等の匂いと言われている。
カメムシの悪臭は青葉アルデヒドと呼ばれるものが主成分で、ミントの成分もこの青葉アルデヒドに似ていた。
戦略を削がれたのはキラーマンティスやソルジャーアントだけではなく、ハニービー達も逃げ惑っていた。
「お主ら助かった。だがこの匂いをどうにかしてくれ」
俺へ語りかける声もどこか鼻が詰まったような鼻声をしていた。
「リチアさんこの辺を風属性魔法で匂いを飛ばしてもらっていいですか? できれば魔物が逃げた方にお願いします」
リチアが風属性魔法で匂いを飛ばすことでミントの匂いは和らいだ。
「じゃあ、木に近づくか」
マルクスの合図で武器を構えながら木に近づくと、どこからか声が聞こえてきた。
「あー、辛かった。急にあんなにおいを放つとはいじめじゃな」
木の上には見た目は妖精に近いが、どこかハニービーと似たような容姿をしていた少女が降りてきた。
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