第125話 依頼までの準備

 翌日トラッセン街に向けて俺達は準備をしていた。


 今回はトラッセン街行きの馬車の護衛依頼を破滅のトラッセンが同時に受けることになっている。


 トラッセン街までは比較的近く、野営を二日間すると着く距離だ。予定では明日出発となっている。


「準備はこれぐらいで大丈夫か?」


「色々とありがとうございます」


「どうせケントの飯も食べたいし、風呂も入りたいってあいつらが言うだろうしな」


 破滅のトラッセンと向かうことを考え、自身の野営準備と樽、そして細かな調理道具と調味料を用意していた。


 ちょうど異次元医療鞄に空き枠が二つあったため、大きな樽を二つ収納した。


「ラルフは依頼片付いた?」


「俺の方は大丈夫だよ!」


「じゃあ、孤児院とフェーズさんのとこに寄ってくるね」


「おう」


 憩いの宿屋を後にしてラルフとともに孤児院とフェーズの家に向かった。





 フェーズに説明した後、孤児院に向かうと遠くから声が聞こえてきた。


「お兄ちゃーん! アターック!」


「うげぇ!?」


 飛びついてきたのはミィだ。その後ろからリハビリ少年三人組が追いかけていた。


「あれ、何で兄ちゃん達来てるの? ウルとラルなら依頼に行ってるよ?」


 ウルとラルも正式に冒険者ギルドに加入し、今はFランク冒険者としてコルトンの依頼をこなしている。


「明日から依頼でトラッセン街に向かうことになってるんだ。それで勉強会が出来ないからみんなに課題を持ってきた」


「えー!」


 少年達は課題と言われて少し落ち込んでいた。勉強会はどうにか工夫することで集中できているが、課題になると集中力が切れてしまう。


「みんなの面倒はミィが見てる!」


「さすがミィだな」


 その分年下のミィは常に勉強してる真面目な子だった。ミィの頭を撫でると嬉しそうだ。


「あっ、戻ってきたらお前達テストするからな」


「まじかよ、遊べないじゃないか」


「勉強も遊びと同じだよ? お兄ちゃん達褒めてくれるし」


 ミィは真面目というより感覚が変わっているのであろう。


「じゃあ、ミィにラルとウルへの依頼をお願いします」


「アイアイサァー!!」


 ミィはラルとウルに伝言として事前に書いた紙を説明し渡した。


――――――――――――――――――――


ウルとラルへ


 数日間にわたり別の街での依頼を受けることになった。


 勉強会が出来ないため課題を与えるので面倒を見てほしい。


 フェーズさんへの依頼は直接説明して止めてあるが歩く練習はできるなら受けて欲しい。


1.ウルはフェーズの元へたまに歩行の手伝いをする。その際にはマークとエルクを連れて行くこと。


2.ラルは一人でコルトンの面倒をみることになるので、勉強として【介護福祉士】もしくは【看護】のスキル持ちを同席させること。


 課題は各々の分けて用意しているためそれを使ってください。


――――――――――――――――――――


「お兄ちゃんこれ何? なんか気持ち悪いけど……」


 ミィに渡した課題は解剖書などに載っているような絵で書かれている人体解剖だ。


 以前ガレインのスキルを発動した状態でラルフの画像投影を使うとレントゲン画像やMRI画像ではなく、見た角度から三次元での立体構造で画像が印刷されて出てきた。


 臓器が様々な角度から見れたため、一枚ずつ様々な角度で画像にしてそこに手書きで名称を書いたものだ。


「これをみんなに覚えて貰いたいんだ。こっちはウルに渡して、こっちはラル達に渡して欲しい」


 ウルの方には骨や筋肉中心に書かれたものを渡し、ラルには内臓関係が書かれたものを渡した。


 ウルにはマークとエルクの面倒を見て貰い、ラルには看護および介護福祉士、言語療法のリュクを面倒を見て貰うことにした。


 ラルの方は比較的、落ち着いた子が多く大変なのはマークとエルクの面倒を見るウルの方だろう。


 ちなみに事前にコルトンにも資料を渡し、ウルとラルに教えるように頼んでおいた。


 この歳になって知らないことを覚え、教える機会があるのは現役に戻ったようで嬉しいと言っていた。


 これで少しは社会参加の貢献になれば良いのだが……。


「じゃあ、ミィよろしくね」


「アイアイサァー!!」


 ミィは手を胸に当て敬礼をしていた。なぜか最近ハマっているのかこの世界の敬礼ポーズをするようになった。


「マークはちゃんと勉強するんだぞ!」


「……」


 マークは黙って下を見ていた。


「あっ、フェーズさんに冒険者時代の話とか良ければ剣の面倒を見て貰うように頼んでおいたからね」


「えっ、ほんとか!」


 さっきまでのマークとは違い、目を輝かせていた。きっと男の子は冒険者に対する憧れもあるのだろう。


「ちゃんと勉強したらの話ね?」


「ちぇ、わかったよ」


 半ば逃げれない環境を作り、数日いない間のことは他の人達に任せる準備は整った。


「またね」


「お兄ちゃん達ちゃんと帰ってきてね!」


 どこかミィは寂しそうな顔をしていた。

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