第117話 ミルクスープ
異世界病院の設立も決まり今日は憩い宿屋の二人とともに孤児院に来ている。
今日は炊き出しの日だ。
前回同様に今回もスープ担当で手伝うことになっている。
今日作るのは栄養満点のミルクスープの予定だ。
この国ではあまり牛乳を飲む文化はなく、貴族達のためにバターなどに加工されるぐらいだ。
加工するのにお金がかかるため、牛乳自体は安く手に入れることができる。
今日はそこに異世界の玉ねぎとキャベツを入れる予定で考えている。
まずは出汁を取るために沸騰した湯の中に干し肉を弱火で火にかけ、灰汁を取りながら一時間ほど煮込む。
その時途中で玉ねぎを半分入れ、野菜の味を引き出す。
前回炊き出しが終わった後にレシピについて聞いたら肉などを煮込んだ出汁は基本的な捨てることが多いらしい。
だからあんなに大人達は美味しいと言っていた。
「これどうしたら良いんだ?」
「芯の部分は硬いから切り落として葉をある程度の大きさに切ってほしい」
「わかった」
今日はガレインも勉強のために孤児院に来ていた。
なぜかクッキー作りから料理に興味が出てきたのか自分から手伝いたいと言ってきた。
王族が料理をすること今後もないが、ガレインは楽しんで料理をしていた。
「そういえばこの前カタリーナにスキルが使えるってことを話した。勝手に言ってごめんな」
「ああ、大丈夫だよ。異世界病院をやるためには必要なことだからね。あれからウルとラルの依頼は来たの?」
「やっぱり中々来ないね。介護を知らない人が多いからね」
冒険者ギルドから依頼を回してもらうように異世界病院を設立したが、まだ俺の元には依頼は来ていない。
来るようになったのはコルトンからの依頼のみだ。
あれからコルトン達はせっかく来てもらっているのであれば、報酬としてお金を渡すために直接ではなく冒険者ギルドを通すようにしている。
そして先日ウルとラルも冒険者ギルドに登録して晴れて冒険者として働き先が決まった。
「そこはゆっくりでいいかな? ガレインの方はどうだ?」
「まだ父上には伝えていない。ただ、これからのことを考えると父上だけには伝えておかないと魔力を増やすことも出来ないし、冒険者になることも出来ないからね」
今はまだ王都の街中を知る目的で貴族街から出ているが、きっとスキルの話しをすることでさらに活動範囲を広げることは出来るだろう。
ただ、ガレインは休みの日以外は貴族街にある学校に通っているため、どちらにしても冒険者として活動できるのは休みの日だけだ。
「じゃあ、出汁も取れたから牛乳を入れようか」
出汁は徐々に琥珀色になったため、干し肉を取り出して牛乳を加えた。
今回は干し肉もそのまま使う予定だが、煮込むために使っていたため大きいまま入っている。
干し肉の大きさを一口サイズにして、残りの玉ねぎとキャベツを一緒にいれ、塩と胡椒で味を整えればミルクスープの完成だ。
「味見してみる?」
ガレインに一口分だけカップ入れ、渡すと飲んだ瞬間に目は大きく見開き驚いていた。
「美味しいな。さすがだね」
「今日はガレインも一緒に作ったんだからね?」
ガレインは美味しいスープが出来て喜んでいた。
遠くから執事が涙を拭きながら建物の陰から除いているのをガレインは知っているのだろうか。
流石に王族を一人で孤児院に行かすことはないからな。
しばらくすると子ども達が走って集まってきた。
「兄ちゃん達腹減ったよ」
「ご飯はまだー?」
「ご飯! ご飯!」
一番に来たのはリハビリ職スキルの三人組だ。
ミィも一生懸命走っていたがやはり体力的に少年達には勝てなかったのだろう。
俺がスープを入れると初めてみるミルクスープに少年達は驚いていた。
「これ白いけど食べれるのか?」
「スープと言ったら透明だぞ?」
この世界のスープは基本的に野菜と肉を湯で茹でたら、一度湯を捨ててからまた作るために基本的にスープは透明になる。
肉や野菜には悪い魔素が染み込んでいると言われているらしい。
実際に肉の中にも魔物肉が混ざっているからな。
結果、味はほぼ薄い塩味になってしまう。
「栄養満点で美味しいから食べてみてよ。今日はこっちの兄ちゃんも手伝ってくれたんだよ」
少年達はガレインの顔を見るとその場で一口スープを飲んだ。
「この前飲んだスープも美味しいけどこっちも美味しいな」
「俺はこっちの方が甘くて好き」
「兄ちゃん達ありがとな」
少年達は食べやすいところに戻っていった。
「ガレイン美味しかった……ちょ、大丈夫か?」
ガレインの顔を見ると今にも泣きそうな顔をしている。
「初めてだから」
「美味しいって言ってもらえて良かったな」
ガレインは小さく頷いていた。今まで外れスキルと王族だからという理由で媚びを売るか批判する人ばかりだった。
そんな中何気なく言われた感謝の言葉がガレインの心に染みていたのだろう。
その後もスープを配り食べ終わった子ども達やエイマーからお礼の言葉を言われるたびにガレインは泣きそうになっていた。
新たなガレインの一面を見れたような気がした。
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