第97話 王都の薬師

 孤児院の手伝いから数日が経ち、俺は王都でも冒険者の活動を始めていた。


 そういえば破滅のトラッセンはそのまま数ヶ月王都に残ることになったらしい。


 理由としてリモンの不調とカレンの恋心だった。


 リモンは以前怪我をした際の後遺症なのか脚がつりやすくなったのを相談していた。


 あの時は相談のみだったがその頻度は次第に多くなり、俺にリハビリを依頼が舞い込んでくることになった。


 王都でもカタリーナにお願いして暗黙の了解でその場で依頼を受けて処理する形で俺はの個別依頼が受理された。


 またカレンもマルクスが居る王都に少し留まりたいとパーティーに相談した結果、王都に残ることに決まった。


 ちなみにあれからマルクスとカレンの関係は少しよそよそしくなっている。


 どっちも距離感に困っておりこっちがムズムズする。あれだけやったなら早く話し合ってしまえばいいものを……。


 今日は王都内の簡単な依頼をこなしながら介護が必要な人が本当にいるかを探していた。


 それでも残念ながら未だに介護が必要な人は見当たらないのが現状だ。


「はぁー中々いないな」


「子供がため息を吐くんじゃないよ」


 声を掛けてきたのは以前憩いの宿屋を紹介してくれた薬師のお婆さんだった。


「あはは、ちょっと探してる人がいまして」


「誰なんだ?」


 俺はスキルの話をせずに孤児院のウルとラルの話をした。


「それなら家に来るかい?」


「えっ?」


 急なお婆さんの発言に俺は驚いた。


「私の夫が少し寝込んでいてちょうどいいと思ってね。そういえばあなたの名前を聞いていなかったわね」


「ケントです」


 簡単に自己紹介をした。お婆さんはメリルという名前で意外にも憩いの宿屋の近くに住んでいた。


「ケントが言う介助というものが必要な人は私の夫かも知れないわ。昔病気になってから中々動けなくて、最近はトイレに連れて行くのもやっとで私の体が痛いのよ」


 初めて会った時のメリルの体が硬いことは俺も何となくではあるが覚えている。夫の介護をして体を酷使してきたのだろう。


 薬師のメリルだからこそ、夫に薬を与えることで病気で死ぬこともなく長生きしていた。


「メリルさんの旦那さんに合わせてもらうことはできますか?」


「出来るわよ。いつも私しか会う人が居ないからケントが来てくれると喜ぶと思うわ」


 俺はメリルの自宅兼職場である薬屋メリルに向かった。





「帰りましたよ」


 メリルは扉を開けると一言声を掛けてから家の中には入った。


「さぁ、ケントどうぞ」


 メリルに案内された部屋に行くと、其処にはたくさんのポーションが置いてあった。


「凄い数のポーションですね」


「ここでいつも作業をしているのよ。少し夫を連れてくるわ」


 そう言ってメリルは部屋から出ると男性の声とともにメリルは戻って来た。


「わしに会いたいって人は誰じゃあ?」


「わたしの新しい友達なのよ。ぜひ、あなたに会いたいって行ってたのよ」


「はぁ……はぁ……。わしはもう動けないぞ」


 声は聞こえるが一向にメリル達は戻って来なかった。


 心配になった俺は扉を開けるとそこには壁にもたれているお爺さんとメリルがいた。


「メリルさん大丈夫ですか?」


「待たせてすまないね」


 部屋に戻ろうとメリルはお爺さんを少し引っ張るとそのまま前方に大きくふらついた。


「危ない!」


 必死に駆け寄るとお爺さんは倒れずに支えることができていた。


 前世の医療現場で働く者としての危険予知はしっかりと働いた。小さなヒヤリハットが大きな事故に繋がってしまうからな。


「助かったよ。わしはコルトンだ」


「大変なのにここまで来て頂いてすみません。ケントと言います」


「いやぁ、客人に来させるのも悪いからね」


 コルトンは部屋に向かって歩こうとするが疲労からなのか今にも倒れそうだ。


「お手伝いしますね」


 コルトンの左手を持ちもう片方の手を脇に入れた。


「歩きますよ」


 俺の声とともにコルトンは歩くとふらつきは減り安定して歩いている。


「おー、歩きやすいぞ」


 コルトンも俺の介助歩行にびっくりしていた。


「これも介助の一つですね」


 簡単ではあるがメリルに歩行介助の指導をした。こういう家族指導も理学療法士の仕事の一つだ。


 コルトンはふらつく際に右前方に倒れそうになる。そのためコルトンの左手を持ち、なるべく左脚に体重が乗るように誘導すると歩きやすいのだ。


 そうすることで右脚が前に出る時にはしっかり左脚に体重がしっかりかかり、右脚が引っかからずに足が出しやすくなるのだ。


「あとでメリルさんもやってみましょうか」


 コルトンを部屋まで歩行介助で戻ることにした。

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