第98話 コルトンの現状

 俺はコルトンを歩行介助し部屋に戻ってきた。


「ゆっくり座ってくださいね」


「ああ、ありがとう」


 コルトンはゆっくりと座ろうとするが脚の力が弱いのか勢いよく座ろうとしていた。


 それに気づきお尻が着く瞬間に軽く支えた。


「コルトンさん気をつけてくださいね。勢いよく座ると背中の骨が折れますよ」


 俺の発言にコルトンとメリルは驚いていた。


「そんなことで背中の骨って折れるんか?」


「そんなこと今まで聞いたことないわよ?」


「えっ?」


 逆にその発言に驚きだ。前世ではよく耳にしていた病名がこの世界では少ないのだろうか。


"脊椎圧迫骨折"


 背骨である脊柱はいくつかの椎骨と関節板で構造されている。


 脊椎圧迫骨折はその骨の前方部分にあたる椎体が衝撃によって潰れて骨折する病気だ。


 日本でも骨粗鬆症が多い女性によくみられ、くしゃみや咳をするだけでも起こると言われている。


 なぜこの病名を疑ったのはコルトンの背中がどこから見ても丸く、円背になっていたからだ。


 円背は様々な要因があると言われているが、脊椎圧迫骨折もその要因の一つと言われている。


 椎体が潰れてしまうと重力などによる衝撃で少しずつ他の椎体も潰れることでいつのまにか円背になってしまう。


 簡単にメリルとコルトンに紙を使いながら説明すると、二人はびっくりしながらも納得していた。


「たしかに背中が伸びづらいのを感じるな」


「でもなんで気づかなかったのかしら……。骨が折れていたら痛いのにね」


 確かに俺も疑問に思った。だが、この部屋にあるポーションの数がそれを物語っていた。


「コルトンさんって頻繁にメリルさんのポーションを飲んでないですか? しかも痛み止め成分が含まれているやつとか……」


 薬師であるメリルの夫であれば、ポーションを常に飲んでいる可能性を考えた。


「そうよ? 私の作るポーションには体を元気にする作用がある物もあるのよ。料理にそのポーションを少し混ぜて使うことが多いけどよくわかったわね?」


 思っていたことは的中していた。単純に痛み緩和成分が入ったポーションを常に飲むことでコルトンは骨折の痛みを感じていなかった。


 そのためただ腰が少し痛いと思う程度だったのだろう。


「そうなると普段から強い痛みを感じにくくなるかも知れないですね」


「私も知らない知識を持ってるケントが言うなら気をつけてみるわ」


 メリルは子どもの俺が言うことを特に否定することもなく肯定していた。


 今まで出会った治療院の人も含め回復スキルを持っている人達は優しい人が多いのだろう。


「他に体の不調とかはあったりしますか?」


「他はそんなにないと思うぞ。基本的にベッドで寝てることばかりだからな」


「外とかにもあまり出ていないですか?」


「ああ。わしも外に出たいがすぐに疲れちゃうからな」


 コルトンは基本的にベッドの上で過ごしていた。


 メリルのポーションにより大きな病気にはならないものの廃用は進んでいるのだろう。


「それで今日ケントは何しに来たんだ?」


「実は孤児院に僕が気になるスキルを持っている人達がいて、その子達の活躍場所を探しているんです」


 俺はスキル【介護福祉士】について分かる範囲内で説明した。


「あー、そういうことならメリルがうってつけだな」


「えっ? そうなんですか?」


「私のお店に来る人はコルトンみたいに歳で体が不自由な方が飲むポーションが多いのよ」


 メリルのポーションは使用期限が長いためその分即時効果は薄く健康維持目的のポーションが多いのが特徴らしい。 


 そのためメリルのポーションを買いに来る人は必然的に何かしらの影響で不自由な生活をしている人がいる家族だと特定できる。


「ならその人達を当たれば良いんですね」


「なんなら私が紹介するわよ?」


「でも孤児院の子もスキルの使い方自体はわからないから手探りになるかと……」


「ならわしで試せばいいんじゃないか? ってかわしがいるのにわしも混ぜてくれや! みんなが遊びに来てくれると嬉しいぞ」


「えっ?」


「そんな驚くことでもないが……な?」


「私はあなたがいいなら良いわよ? 賑やかになるのも良いし私も仕事に集中できるからね」


 常に家にいるコルトンは久しぶりにメリル以外の人と関われたのが嬉しいのだろう。


 その後は俺が話に入る隙もなくウルとラルが生活のお手伝いをすることが決まった。日時はお互いの準備出来次第となった。


「楽しみだな」


「でもあなたの顔は少し怖いから笑うのよ?」


「こんなんでどうじゃ?」


 俺達に向けて笑顔を作った。その顔はゴブリンが逃げ出すほどの歪な笑顔をしていた。


「……」


「なんでケント黙るんだ?」


 正直俺じゃなければ子ども達は逃げ出すレベルだろう。


「じゃあ、孤児院に伝えて――」 


「おーい、流石にそれは酷いだろ」


「コルトンさんの笑顔の方が酷いですよ? エッセン町のギルドマスターより怖かったです」


「そうか……」


 俺に顔が怖いと言われて落ち込むコルトンだった。

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