第96話 孤児院の外れスキル

 子供達と遊び終わりると小さい子達はそのまま昼寝をしていた。


 さっきまで大声で駆け回っていたのが嘘みたいに今は静かに寝ている。


 俺がエイマーの元へ戻るとそこには俺と歳がさほど変わらない双子の男女がいた。


 エイマーはその二人に簡単な文字と勉強を教えていた。


「エイマーさん子ども達寝ました」


「ケントくんありがとね」


 エイマーが気づくと双子の男女も寄ってきた。


「あいつらの相手してもらって助かった。俺はウルだ」


「私はラルよ。双子だけどウルの方が兄ってことになってるわ」


「俺はケントだ。あいつら元気過ぎて疲れたよ」


「ははは、みんな遊びたい年頃だからな」


 ウルとラルはこの孤児院の中では一番年上で来年から住み込みで働きに行く予定のため今はその勉強中だ。


「二人はどこに働きに行くの?」


「……」


 俺が話を聞くとどこか雰囲気が悪くなってきた。二人からは何も返事がないのだ。


 さっきまでの笑顔はなくどこか諦めたような悲しい顔をしていた。


「ケントくんごめんね」


「どうかしたんですか?」


「この子達もさっき言ったように外れスキルと言われているから中々働き先がみつからないのよ」


 エイマーはそんな二人を見て頭を撫でていた。働き先を増やす意味合いで文字の練習や簡単な計算を教えていたらしい。


「そんなに外れスキルって多いんですね……」


「王都の孤児院はそういう人の集まりだからな」


「そうね。ウルとラルは悪くないのにスキルでこんな扱いされちゃうとね」


 孤児院出身に対しては特に何も言われることはないが、スキルに関しては働くことの条件に入っていることが多いらしい。


 飲食店でもそこまで必要になさそうなに感じるが、スキル【料理人】や【給仕】などのスキル持ちが優先されるのは当たり前の話だ。


 料理人であればあまり教えなくても手際が良かったりなどすぐにお店で使えることが多いらしい。


 即戦力になるのは努力より才能ってことらしい。


「気分を悪くしたならごめん」


 そんな二人を見て俺はすぐに謝った。


「それは仕方ないことだからな。だから俺達は勉強してるんだ」


「ウルの言う通りよ。ケントくんが気にすることでもないわ」


「そういえばケントくんってこの子達のスキルを知ってる?」


 エイマーはさっきケントと約束したことを思い出し、ラルとウルにステータスを開示するように伝えた。


――――――――――――――――――――


《ステータス》

[名前] ウル

[種族] 人間/男

[固有スキル] 介護福祉士

[職業] 孤児


――――――――――――――――――――


――――――――――――――――――――


《ステータス》

[名前] ラル

[種族] 人間/女

[固有スキル] 介護福祉士

[職業] 孤児


――――――――――――――――――――


 双子が影響しているのか名前以外の項目はほぼ同じだった。


 それよりもスキルがやはりケントの身近に感じるものだった。


 この世界では医療・福祉は外れスキルと言われているのだろうか。むしろ俺としては最近当たりスキルにしか見えない。


「介護福祉士か」


「ケント知ってるんか?」

「ケントくんわかるの?」


 俺の反応にウルとラルは肩を強く掴んできた。


「痛たたた!」


 手の力は肩が痛くなるほどだった。それほど二人にとっては必死なことだったんだろう。


「ごめん」


「別に大丈夫だよ」


 すぐに手を離したが離すタイミングや謝るタイミングが同じなのは双子だからだろうか。基本的に息が合ってるのだ。


「ケントはスキル【介護福祉士】って知ってるの?」


 俺はもちろん知っていたため頭を縦に振った。


「おおお、これはどういうスキルなんだ!」


 無意識にウルはまた俺の肩を掴むと前後に揺らされていた。どこかこの子からは冒険者と同じ匂いがした。


 ウルに揺らされ続けたからなのか若干酔ってきた。


「ウル! これじゃあ話が進まないでしょ」


「ああ、すまん」


 ラルに止められるとウルは手を止めた。兄はウルの方だが妹のラルの方がしっかりはしていた。


「ケントくんごめんね」


「ああ、大丈夫だよ。それで介護福祉士についてだよね?」


「そうそう。ここの孤児院には私達以外にもこのスキルを持っている子達はたくさんいるの。だから私達がスキルを使えたらあの子達もどうにか働くときの手助けになればいいと思ってね」


 孤児院の子ども達の中には二人と同じスキルを持っている子は数人いた。


 しかしその子らも含めて世間の認識では外れスキルだった。


 俺の中では孤児院のイメージは変わり、孤児院という名の専門学校のように感じてきていた。


「んー、多分王都でもそのスキルを使うのは難しい気もするけどな……」


「やっぱり俺達のスキルって外れスキルなんだな」


 俺の一言でウルは落ち込んでいた。


 そもそも介護福祉士の活躍の場所は介護が必要な場所だ。


 だが王都でも医療のレベルがそこまで高くないため、すぐに亡くなる人の方が多いのが現状だった。


 回復スキルは外傷を治すか薬師みたいに風邪などを治すスキルが基本だが、その中で元に戻らない現状があった。


 そこで俺のスキル【理学療法】がうまく一致しただけだ。


 現にまだ介助が必要な人を見たことがなかった。お風呂を入る文化もないため入浴介助もいらないしな。


「ごめんね。少しスキルが使えそうな仕事があったらまた伝えるよ」


「ありがとう! まぁ、今までと変わらないってことだからウルも落ち込んでないで勉強するよ」


 ウルはラルに励まされ勉強を始めた。


――二時間後


 子ども達は目が覚めると俺達の見送りに来ていた。


「兄ちゃんまた遊んでね」


「絶対また来いよ」


 水球鬼ごっこが良かったのか俺はいつのまにか子ども達に懐かれていた。


「みんなも元気でね! また今度来るよ」


 俺達は荷物を背負い憩いの宿屋に帰った。元気に遊んでいた子達のためにも介護が必要とする現場を探す必要があると俺は改めて思った。


 

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